ニワトリの呪い
草木の間から覗いていた青空は、先程まで青かったのが嘘かと思えるぐらい赤い夕焼けに染まっていた。
もう直ぐ、暗くなるだろう。
ニワトリのウェーガンと、それを抱き抱えるララ。そしてガンダルとジャラックは、トカゲと戦いその死体の転がる場所から少し歩いた所に設営された緑色のテントの目の前まで歩いてきていた。
「さて、ララちゃんの用事は済んだようだし、今日の内に移動しとこう」
「了解。だったらテント片付けとくぜぇ」
「ああ、よろしく頼む」
ガンダルとジャラックはテントに着くや否や、テントを設置する杭などを外し、小さく畳んでいく。そしてバスマット位のサイズにまで畳んでいると、ジャラックは後悔している時のような表情を浮かべる。
「今思えば、これだけ直ぐに用事が終わるならテントなんていらなかったな………」
「だな。時間の無駄だな」
「そこまで言うなよぉ〜………」
ガンダルが横から突き刺すように言うと、ジャラックは露骨に落ち込む。
二人のやり取りを、ララは近くにあった岩に腰掛けながら、ウェーガンを膝に乗っけて見て居た。
「やっぱりあの二人、仲良いねぇ………」
「そうなのか?今日初めてあったから俺にゃ分からねえけど………」
「うん。二人とも、冒険者駆け出しの頃からの仲だしね」
ララが二人について話しているのを、ウェーガンは興味津々で聞いて居た。すると、ウェーガンはここで、つい先程のことを思い出す。
「…………なあ?」
「なに?」
「さっき、俺に何か言おうとしてたっぽいけど………自己紹介の前………あれなんだったんだ?」
先程は自己紹介で遮られたが、途中で言うのを止められると余計に気になる。
「あっ、そのことね………」
ララはそう言ってから、
「ニワトリさんはね………呪いをかけられてるんだよ……」
「呪い………?」
“呪い”、その単語を聞いて、ウェーガンは?を頭上に浮かべながらララの顔を見上げる。
「そっ、呪いだよ。人の姿を変えさせちゃう、とっても強力な呪い………多分だけど、ニワトリさんはその呪いにかけられてるんだと思うよ」
ララは淡々と、自分の考えを口にしていく。
ウェーガンは只々、ララの言葉を聞いていた。するとここで、あることを疑問に思う。
「………ララは、呪いに詳しいのか?」
「ううん、詳しくないよ」
自分には呪いの知識は無いと、ララは隠さずに否定する。しかしそれをした上で、
「………でも、何となくだけど分かるんだ」
一言、ララはそう口にした。
「そういうもんかね………」
「そういうものだよ」
二人がそんな差し障りの無いやり取りを繰り広げていると、
「おぉい、片付け終わったし、そろそろ帰るぞ」
「あっ。はいはーい」
テントを畳んで大きめのバッグに入れて片付け、撤収の準備が出来たガンダルの声が二人に届く。横では、同じように大きなバッグを背負ったジャラックの姿があった。
声に視線をそちらに向けて、ララは勢いつけて立ち上がってそちらへとご機嫌に駆けていく。
「日が沈む前に半分位は進みてぇなぁ………」
「だったら、休まずに歩くしかねぇだろ」
「うひゃー、大変だね〜」
歩き出しながら、面倒臭がるジャラック、正論をぶつけるガンダル、ジャラック同様に面倒臭がっているであろうララ。しかしこの中で、ウェーガンはララの腕の中で会話が分からずに居た。
「………なあ、何処へ帰るんだ?」
「あっ、そっか言ってなかったね………」
思い出したようにそう言うと、ウェーガンの顔を覗き込んで、
「これから行くのは、エドネって言う名前の町。私たちが所属しているギルドのある町だよ」
「ギルド?」
「そっ、冒険者達が集まる場所だよ」
何も分からぬウェーガンに、ララは親切に説明してくれる。これは、この世界に来たばかりの彼にとってはありがたいことだ。しかし、
「にしても、本当に何も覚えてねえんだな………」
「えっ、ああ、まあな………」
「不便なもんだなぁ…………それじゃあ、魔法の知識も無くなったんじゃねえのか?」
「ああ、生憎…………」
呆れ気味に聞いてくる二人に、ウェーガンは申し訳なく答える。
「………まっ、忘れてんなら仕方ねぇさ。思い出してけば良いだけだろ」
「おっ、稀には良いこと言うな」
「稀って何だよ稀って!?」
「偶にだと多過ぎるだろ?」
「酷くね!?」
数口前までウェーガンについての話だったと言うのに、いきなり始まる、仲が良いか悪いのか分かりづらいやり取りを始める。それを呆れ気味に見るララとウェーガン。
四人はまだ明るい青空の下で、目的地へと歩を進めて行く。