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呪いのニワトリ転生  作者: 黒服先輩
第二章 ケリティカ山攻略戦
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ケリティカ山攻略前夜


 ライアと再会し、レリーシア達と別れたウェーガン、ガンダル、ライアは宿屋の娘を連れて、暗くなった空の下宿屋に帰還した。

 宿屋の入り口の前には、店主がハチ公のように娘の帰りを待ち望んでいるのが見えた。

 店主が一行の姿を目に捉えると、磁力で吸い寄せられるように真っ直ぐと一行の元に駆けていく。


「サラァァァァ!!」

「お父さん!」


 店主がそう叫ぶと、サラと呼ばれた娘は涙ぐんだ声で返して、一行の元を離れ店主の方に駆けていく。

 店主は娘を抱きしめた。ふっくらとしたその両腕で、自分の娘を力強く抱きしめたのだ。


「心配したぞ!心配したんだぞぉ!」

「ごめんなさい………お父さん、ごめんなさい!」


 お互いが滝のように涙を流している。

 抱きしめ合う二人を中心に広がる二人だけの空間。その光景を間近に見ていた三人は、それぞれ違った反応を示す。

 二人に対し安堵の笑みをこぼすガンダル、あいも変わらずニヤついているライア、そして、


「グスッ………うぅ………」

「………泣いてんのか?」


 ガンダルの腕の中で涙ぐむウェーガンが居た。


「俺、こういうの弱いんだよぉ………」

「………まあ、別に良いけどよ………」


 その後、三人は何が起きたかを店主に説明していった。

 訳を聞いた店主は、これでもかというくらいに三人にお礼の言葉をかける。ガンダルがもう良いですと言うまでそれは止まらなかった。


 三人が宿内に帰還すると、


「よぉ。遅かったな」


 ソファーから首を出したジャラックがそう声をかけてきた。


「おう。色々あってな………」


 ガンダルはジャラックにそう返す。


「いやぁ、ほんと疲れたわぁ………」

「貴方疲れてないでしょ」


 ウェーガンとライアがそんなやり取りをしていることなどどうでも良く、ガンダルはジャラックから視線を動かす。

 視線を動かした先には、ジャラックの向かい側に腰をかけるフードの男と、宿屋を出る前ガンダルと会話していた細身の男性の姿があった。


「………ララちゃん以外、全員居るか。本当なら休みたいところだが、今から始めるとしよう」

「………何を?」


 提案するガンダルに、ウェーガンが問いかけた。するとガンダルは、


「ん?何言ってんだ。お前が頼んできたことだろ」

「…………あっ、そういうことね」


 ガンダルにそう言われてウェーガンは察したようだ。

 ガンダルは二つのソファーを隔てたテーブルの前まで移動する。


「ジャラック、地図」

「あいよ」


 ガンダルがジャラックにそう言うと、ジャラックは待ってましたと言わんばかりの勢いで、テーブルの上に一枚の大きめの紙を広げた。

 紙は縦長の長方形で、下に向かって蟻の巣のようなものが伸びているのが分かる。

 初めてその絵を見るウェーガンにも、これがなんなのかがあっという間に理解できてしまった。


「さて、これより『ケリティカ山攻略会議』を行う。意見のある奴は直ぐに言え」


 ガンダルのその言葉を皮切りに、宿屋の隅で会議が開始された。

 ライアにテーブルの上に置いてもらい、会議に参加する姿勢を見せるウェーガン。しかしウェーガンは他を見渡すと、言葉を出そうとは思えなくなる。

 ライアを除いた、ガンダル、ジャラック、そして名も知らぬ二人からは、底知れぬ緊張感が発せられている。


(こりゃあ、俺場違いだなぁ…………)


 辺りの空気を感じ取り小さく縮こまるウェーガン。


「では、私はここで失礼しますよ。あいにくダンジョン攻略は専門ではないのでね」


 そう告げたのはライアだった。

 ガンダルはライアの方に振り向いて、


「別に勝手にしてくれ。その代わり、ララちゃん起こしてきてくれ。二階の部屋で寝てるはずだから」

「ええ、良いですとも」


 ガンダルの頼みをライアは快く受け取り、二階へと上がっていく。

 二階から少し喋り声が聞こえてくる。そして少し時間が経つと、一歩一歩ゆっくりと降りてくるララの姿がテーブルを囲む皆の視界に映り込む。


「ふわあぁぁぁ、おはよおぉ………」


 ララはとても眠そうで、壁に手を当てながら皆の元に寄ってくる。


「随分と寝てたなぁ」


 ジャラックがそう言った。宿屋に到着してから、時間にして七、八時間ほど経っている。


「ごめんごめん………」

「たくっ……ほら、そこ座れ」

「んん〜………」


 ガンダルが若干呆れながらララにそう言うと、ララはジャラックの左横にトスッと腰をかける。


「よし、それじゃあ始めるが、先ず最初に言っておくことがある」

「言っておくこと?」

「ああ。今回のケリティカ山攻略、王国の調査隊と合同で行うことになった」


 ガンダルがそう告げた途端に、その場に居るウェーガンを除いた皆がざわつく。眠たげだったララも、驚き目を覚ました。


「ちょ、調査隊って………なんでまた………」


 そう口にしたのは細身の男性だ。名前はハルムだ。名前の理由など無い。書くの忘れてただけだ。


「調査隊に知り合いが居てな、丁度あちらも潜るってんで、同行させてもらうことにした」

「知り合い………それってレリーシアか?」


 ガンダルの知り合いという言葉に、察したジャラックが問うた。


「………そうだ」

「あちゃー………でもなんでこの街に居んだ?」

「ああ、また話すのか………」


 ガンダルは、つい先ほど、店主に説明したのと同じことを解説し始めた。

 同じことを繰り返し話さねばならないため、戦闘との疲労も相待って余計に疲れるガンダル。


「――という訳だよ………」

「…………お疲れ」

「お疲れ様です」

「お疲れ様〜」


 疲労を露わにするガンダルに、皆が慈愛の声をかける。


「………ともかく、俺は疲れてる。だから、さっさと終わらせるとしよう」

「あいよ」

「そうですね」

「はーい」


 こうして、長い長いケリティカ山攻略会議が幕を開けた。

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