誘拐組織戦、決着 前編
「こっちだこっち!」
焦り気味にその小さい足を動かしながら、狭い通路で少女達を先導するウェーガンが居た。
ウェーガンの背後を、少女達は息を静めながらついて行く。
こっそりと進んでいるも、不思議と敵とは遭遇せずに居たため、少々無駄に時間を食っていた。
(変だなぁ、幾ら何でも人居な過ぎるだろ………さっきからデカイ爆発とかもあるし、どうなったんだ………?)
人の居なさに不穏感を募らせながらも、気がつけばドアの前まで辿り着いた。
「よしっ、あのドア出れば外だ!」
ドアの前に着きウェーガンはドアを引こうとするも、ドアノブまで当然背が足りないため、少女達に手伝ってもらいゆっくりとドアを引き開けた。
シャキンシャキシャキン
「動くな!」
その声が聞こえたのは、ドアを開ききって直ぐだった。
ウェーガン達の視界には、星々が頼りとなった薄暗い中にキラリと光る剣の剣先をウェーガン達に向けた男が男女三名。皆が似通った服装を見に纏っており、それが正装か何かであることがうかがえる。
「えっ!?なになに!?!?」
狼狽する一行。
するとそれを見た正装姿の男女三名は、
「ん?君たちはこの建物の者か?」
と、ウェーガン達に違和感を抱きながら尋ねる。
「違います!私達はここに囚われてて………」
「このニワトリさんに助けてもらったんです!」
「ニワトリに?」
少女達が説明をしても、ニワトリという部分に引っかかりを覚えられる。
そこで、ウェーガンが喋ってみると、
「そうだぞ!俺達が助けたんだぞ!!」
「「「!?」」」
「しゃ、喋った…………」
(この反応にも慣れたな…………)
見慣れた光景、分かりやすく驚く三人。
ウェーガンは三人に、建物内で何があったのか、何故自分達が侵入したのかを事細かに説明していく。
「そっ、そうだったのか………すまないことをした!」
三人の内、男の一人が背中を曲げて謝罪する。既にウェーガン達に向けられた剣は、腰元の鞘に納められている。
「いいって。それよりも皆んなの事見てくれ。怪我してるかもしれないし」
そう言ってウェーガンは、少女達を三人に受け渡した。
「わっ、分かった。制圧が完了した後、ここに隊の者達を向かわせよう」
「おう………ん?達の者達って、それに制圧って……他に誰か居るのか?」
「ああ居るとも。と、自己紹介がまだだったな。俺達は王国直属、【調査隊】だ」
【調査隊】、そう彼は名乗った。
■□■□■□
「ん?何だ……?」
ガンダルはふと、離れた場所から複数の者の声を聞く。
離れた場所と言っても、あくまで同じ建物内の中での話だ。
「ウェーガン達か?」
自然とそう思うガンダル。
背後から、カリカリと小さな音に気がつく。
ガンダルが背後を振り返ると、そこには先程殴り飛ばして気絶させたはずの男が、右手を動かして術式を書いて居たのだ。
「なっ!テメ――」
ガンダルが声をかけようとした直後、突如として術式を中心に勢い良く吹き出す黒煙。それが、ガンダルの視界を塞ぐ。
「クソッ!あの野郎まだ…………」
即座に腕を横に振って黒煙を振り払うと、足を引きづりながら逃げる男の後ろ姿が目に映った。
「逃すか!」
男を追いかけるために、黒煙の中に潜る。
視界が塞がれようと真っ直ぐ進み、ガンダルは黒煙を抜けた。するとそこには、振り返りナイフにより血がダラダラと流れる左手をガンダルに突き出す男の姿があった。
「さっきのお返しだ!」
「――しまった!」
ガンダルが反応した頃には、既に男の手元は光り出していた。恐らく放たれるのは、『一点爆破』だろう。
男とガンダルの間の距離は十メートル無く、あの爆発を放たれれば避けることはほぼ無理だ。
(ヤバイ!やられる………)
危機一髪。と、その時だった。
「グフォア!?」
男は突如曲がり角から出てきた人物から顔面に膝蹴りを食らわされ、口から声を漏らして壁に身体を叩きつける。
ガンダルがその光景を見て足を止めて男に視線を落とすと、再びいや、今度こそ完全に男はグッタリとしている。
「だっ、誰だ!?」
「え?アンタこそ誰よ?」
ガンダルがその人物を見て尋ねると、その人物は逆に聞き返してきた。
薄暗く見ずらかったその人物の姿も、月明かりなどに照らされて鮮明になってくる。
その人物は、女性だった。長い髪、長い足、片目を隠す眼帯、デカイ胸、そこから連想されるものは、いわゆる大人の女性という他ない。
そして何より、その人物にガンダルは見覚えがあった。
「れ、レリーシアか………?」
「おっ、そういうアンタはガンダルじゃない。ひっさしぶりー」
狼狽えるガンダルを尻目に、レリーシアと呼ばれる女性はご機嫌にそう返した。