建物内の激闘 ②
「………ん?ちょっとまずいね」
順調に少々達の手錠を外していた二人。
ふと、ライアが何かに気がつき、手錠の解除の作業を中断して立ち上がる。
「おっ、どした?」
「近づいてきてる人が居るね。恐らく二、三人」
「えっ、ヤバくね?」
「ははっ、まあ大丈夫だろうけどね………残りの手錠、頼めるかい?私が足止めする」
「ああ、任せろ」
そうやり取りを終えると、ライアは部屋の中心に立つ。
自分達が入ってきたのとは別に、ドアは二つある。
ライアは二つのドアに意識を集中させながら、小さな声でブツブツと何かを唱え始めた。ウェーガンはそれが、路地裏に入る前に聞いた『照らす妖精』のとは別の呪文であることが分かる。
(別の魔法の呪文か?)
針金状の物質を使って手錠を解除しながら、ライアに目線を向けて予想するウェーガン。
ライアは呪文を唱え終わると、自分の手元を忽然と輝かせる。それは、温かさなどを感じさせない、ただただ明るい、眩しい光。
「ウェーガン君、それに他の皆んな、私が合図をしたら目を瞑りなさい」
「………えっ?」
ライアの発言に対しウェーガンは一瞬その訳を考えるも、ライアの手元の光から、何となくだが察し、首を縦に振る。
直後、二つのドアの向こうから複数の足音が部屋に居る皆に届く。
怯える少々達、不安を抱くウェーガン、それとは一線を画し、ライアにはいつも通り、不気味な笑みを浮かべて居るのだ。ウェーガンはハッキリ言えば、足音よりも何よりも今自分と同じ部屋に居るライアという人物に不気味さを持っているようだ。
足音はどんどんと近づいて、遂にはガチャリとドアノブが捻られ、ドアが勢い良く開かれようとしている。
「今です!」
ライアの合図が室内に響く。
咄嗟に室内に居る全員が、目をギュッと力を入れて閉じた。
直後、ライアが右手を前に突き出すと、室内の薄暗さを一瞬にして吹き飛ばす程の眩い光を発した。
辺りを包み込む、ただ眩しいというだけの光が、ドアを開け室内へと入ってきた二人の男達の目をつんざき、
「グアァァァア!!?」
「なっ、何だ!?」
混乱する男達。
ライアは光を止ませると駆け出し、自分の目を抑えている男一人の頭を両手で掴み、
「さよーなら」
そのまま、両手を違う方向に力を入れて、男の頭と首を繋ぐ骨を外す。
流れるような技に男はなすすべもなく、頭を曲げてはいけないような方向に曲げながらダラリと倒れ込んだ。そこにあるのは、もはやただの肉塊である。
「どうした!?」
「ついでにもう一人………」
そう呟いて、ライアはもう一人の男のみぞおち付近を手刀で刺す。俗に言う、『心臓抜き』と呼ばれる技だ。
「グファァア!?」
男は口から鮮血を撒き散らして、ダラリとライアにもたれかかる。
ライアが身体を引くと、男は肉塊として、その場に力無く倒れ込んだ。
「………まだ、来るね」
ライアがそう呟いた直後、その呟き通りにもう一方のドアから他の男は現れる。
「なっ!?………テメェ!」
怒鳴り散らす男。顔に無数の傷を浴びているその男は、服の上からでも分かる筋肉が手伝って、ウェーガンにでもその威圧感を感じさせる程のものとなっている。
男は腰に下げた剣の柄に手をかけ、刹那、その強靭そうな肉体からは想像も出来ぬ速さで、ライア目掛け斬りかかる。
「なるほど。手練れのようですね」
ライアはそう呟くと、懐に右手を入れて、そこに忍ばせていた獲物を取り出し、男の方へと突き出す。
ライアの獲物は、ウェーガンが前世に見たものとは当然見た目が違えど、拳銃そのものだ。
パンッと音が轟く。
拳銃から射殺された弾丸。男はハッと反応すると、ライア目掛け抜こうとしていたその刃で弾丸を叩き切った。
男の後方に転がっていく半分に割れた弾丸が、カランカランと音を立てる。
「ほぉ、今のを切るとは、やはり手練れのようですね」
「アァ?そう言うテメェは何者だ?クソ道化野郎」
男は口の悪さが目立つ。その右手には、ウェーガンが見慣れた剣が握られていた。
剣と言ってももはや芸術品とも呼べるその刀身は、自然と人々の目を奪う。日本人である彼がアニメや漫画で何度も見たそれは、『刀』と呼ばれる武器だった。
「クソッ、面倒だな………」
「ええ、お互いに面倒ですね」
■□■□■□
「今の音………」
ライアの拳銃の音に気がついたガンダル。
足元には、武器を持った男達数名が気を失って倒れ込んでいる。
「たくっ、一体何人居やがんだ………?」
愚痴を溢すようにそう言いながら、床に転がった剣を拾う。しかしその刀身は長いため、この狭い通路では逆に不利となる。
(無いよりはマシか…………)
「見つけたぞ侵入者!!」
通路の奥からガンダル目掛けて発せられたその怒鳴り声。
ガンダルがそちらに目線を移すと、そこには鼠色のコートを身に纏った、顔に模様を彫った男性だ。
(ちっ、また来やがったか!)
ガンダルは男目掛けて、先程拾った剣を両手で持って走る。一気に距離を詰めて、勝負を決める気だ。
ガンダルに対して男は冷静に、スッと左手をガンダルに突き出す。その時ガンダルは、男の腕に書かれた呪文を見た。
(なっ!あの呪文は…………)
「………爆ぜろ」
何かを悟り、ガンダルは即座に自分と男の間にある横道へと回避する。
ドゴゴォォォン!!
直後、男の手元は眩しく光らせ、耳をつんざく程の轟音と共に大爆発を起こした。爆発は男の前方に真っ直ぐと響いて、壁を崩し、天井を吹き飛ばす。
薄暗かった通路は、瞬時にして外の月明かりにより若干の明るさを手に入れた。
(今の魔法は………『一点爆破』か………)
咄嗟に通路を曲がったかことで爆破のダメージを受けずに済んだガンダル。だいぶ崩れてしまった通路の影から、煙の中に浮かぶ男を覗く。
(上級………第三階位の炎魔法。手元から前方に向けて爆発を発生させるという、超火力の魔法だ。その威力は術者の魔力に完全依存だが………この威力、Aランクの冒険者並みだな………)
思いがけぬ強敵を前にし、冷や汗を垂れ流して居るガンダル。
ふと、右手に持った剣に視線を落とす。
(今あるまともな武器は、この剣と、ピエロから貰ったナイフか………相手が“術式タイプ”となると、キツイな…………)
その時ガンダルは、笑みを溢していた。
その笑みは、決して楽しいなどから出たものではなく、焦りと危機感から出た、冒険者としての条件反射だった。




