宿娘捜索 ③
「なるほど、よく分かった………」
「あっ、ああそうだ。なあ、全部答えたんだから、見逃してくれるだろ?」
立ち上がるガンダルに、ライアにうつ伏せに押さえつけられている男が必死に尋ねる。
「ああ、そうだな」
ガンダルはそう答えて、男の顔を右手で殴った。
綺麗な一発が入り、男は気を失い、人から人形に変わったかのように倒れ込んだ。
「暴力的ですね」
「うるせー」
男が気絶したのを確認すると、ガンダルとライアは立ち上がる。
「ですがまあ、予想通りですね」
「ああ、『奴隷商』、その下っ端組織か」
「そしてやはり、彼等の仲間が娘さんを攫っていましたね」
「ああ…………ちっ」
事態を知り、ガンダルは不機嫌そうに舌打ちをする。
「お嫌いですか?」
「当然だ、胸糞悪い。そもそもこの国は奴隷禁止のはずだろ」
「いつの時代だって、法を破りたがる者は居るということですね」
「…………クソッタレ」
苛立ちを隠せずいるガンダル。重い足取りで、自身の身体をドアの前へと運ぶ。
ドアの前に立つその姿が、ウェーガンには悪魔のように見えたのかもしれない。ウェーガンは冷や汗をかいたいた。
「………アンタ、どれくらい戦える?」
ドアを睨みつけながら、ライアにそう尋ねた。
「今、私の足元に倒れているこの男を一分で四人作れるくらい………って感じかな」
「はっ、上等だ………」
ライアの言葉にガンダルは納得し、ドアをゆっくりと押し開ける。音の立たぬように、ゆっくりと。
開けたドアの先は、今一行が居る路地裏よりも薄暗く、目が慣れるまではあまり良く見えない。
「………ウェーガン、お前はソイツと行け」
「えっ?」
「俺は敵を殲滅する。お前たちは娘さんと、他に捉えられてる人らを頼む」
「はい。任されました」
ガンダルの命令にも似た言葉に対し、ライアは何も変わらず、薄気味悪い笑みを浮かべながら、ウェーガンを持ち上げる。
「では、行きましょうか。悪者退治に」
「悪者退治じゃねえ。完膚なきまでの叩き潰しだ」
「それはそれは………ああそうだ、これを」
ライアはそう言って、先程拾ったナイフを投げ渡す。
しっかりとそのナイフをガンダルは受け取ると、ライアに目線を向ける。
「どうせ何も武器無いんでしょう?私には別のがありますので、お使い下さい」
「………助かる」
ガンダルは素っ気ない態度でライアに礼を言うと、建物内の暗闇の中に消えて行く。
「………さて、私たちも行きましょう」
「おっ、おう………」
「怖いですか?」
緊張の所為か、先程のガンダルの所為か、冷や汗を垂らしているウェーガンに、ライアがそう尋ねた。
「当たり前だろ。俺はつい数日前までは…………いや、何でもない」
途中まで口にして、そこで止める。
自分が言おうとしていたことが、黒服にしてはいけないと言われた言葉だったからだ。
(俺が異世界転生してるって言ったら、ダメらしいからな………)
「…………まあ、大丈夫ですよ。私、強いですから」
そう言うライアの口調からは、底の見えない自信があるように思えた。
二人はガンダルの後を追うようにゆっくりと、同じようにその建物の闇の中へと消えて行ったのだった。




