宿娘捜索 ③
「しかしよー、この仕事も儲かんねえよな〜。こっちは人攫うっつう荒事やってんのに、貰える金っつったらこれっぽちだ」
「仕方ねぇよ。俺ら下っ端には、これぐらいが似合ってんだって」
「だけどなー…………」
世間話をする男達二人。
刻々と暗くなる路地裏に、会話が響いている。そこに、
「グキャァァァァ!?」
突然と、ウェーガンの叫び声が響き渡る。
「何だ何だ!?」
「誰だ!?」
当然のように男二人は、その声のする方に振り向く。敵を目の前にしたような敵意のこもった表情だ。懐に握りしめたナイフは、直ぐにでも取り出されるだろう。
男二人が振り向いたのとほぼ同時様に、彼等の前にウェーガンの白いマスコット状の胴体が放り投げられるかのようにして、男二人の前に現れた。
「………えへへへ…………」
頭を掻きながら笑ってみせるウェーガン。
男二人は、目の前に突如として現れた珍妙な存在に釘付けになり、
「何だコイツ………ニワトリか?」
「ニワトリにしては、随分とまん丸いけどな」
膝を曲げてウェーガンへと視線を近づけ、目を合わせずにそんな会話をしている。
「てかコイツ、今喋ったよな?」
ふと男の一人が、そう呟いた。
男の呟きと同時にブルリと身体を震わせるウェーガンを尻目に、
「はっ?そんな訳ねぇだろ」
「いやいや、喋ったって」
二人はそんな会話を交わしている。
ふと、男の内の一人がウェーガンに目線を向けて、
「なあ、お前今喋ったよなぁ?」
と、期待を込めた目をしてそう問うた。
「えっ!いやー…………そんなこと――」
「ほら、喋ったじゃねえか!」
「うおっ!すげぇ本当に喋りやがった!」
ウェーガンが喋った途端、男二人は分かりやすく興奮して、互いに目を合わせる。
「喋るニワトリなんてすげぇ珍しいな!」
「ああ!コイツを上の方に持って行けば、俺たちの出世も可能性あるぞ!」
「ほう、その上の方ってのは一体誰なんだ?」
「そりゃあ………って、お前だ――――」
不意に背後から聞こえた声に男の片方が慌てて背後のドアの方へと振り返ろうとしたその時、男の首は蛇のようにシュルリと締められる。
「グガッ!?」
「悪いが、眠ってくれや」
首を絞めているのはガンダルだ。
男は何が起こったのか理解する間も無く、意識が遠退いていく。今にでもその意識を真っ暗な底無しに叩き落とされてしまいそうな状況。男は必死に抗うも、その腕を解くことは出来ない。
「テメェ!何しやガッ――――!?」
ガンダルが首を絞めたのとほぼ同時、もう一人の男がガンダルに気がつき、懐にあったナイフで斬りかかろうとするも、その腕はライアに掴まれ、同時に口を右手で力強く掴まれそのまま壁に頭を叩きつけられる。
「グクッ!?!?」
「はーい、静かにしてね」
優しい口調とは裏腹に、メリメリと壁に男の頭を押し付けるライア。
男は頭をぶつけた拍子にナイフを手離しており、片手は掴まれていて、マトモに反抗出来ずに居る。
「………そっち、終わった?」
「ああ、とっくに終わってる」
ライアが振り返り聞くと、ガンダルは既に男一人の意識を落としており、男は首をガンダルに絞められたまま白目を剥き、泡を吹いて、四肢をダランとしている。
腕を離すと、男は一度ガンダルに寄りかかってからズルリと足元に倒れ込む。
倒れた男の白目と、ウェーガンの目があった。
「ひっ!?」
子供のように驚くウェーガンに、ガンダルは呆れた視線を落とす。
「たくっ、そんなんで驚いてんじゃねーよ。こっから先持たねえぞ」
そう言い捨てて、ガンダルはライアの元へと向かう。
ライアに動きを封じられている男は、自分の目の前で仲間が一人倒された所為か戦意を失ったようで、既に四肢に力は込められていない。
男に戦意が無いことを悟ったライアは、
「そうですか。ではコッチも………」
と言って、男を壁から引き剥がし、うつ伏せで地面に叩きつける。
「グハッ!?」と声を漏らす男。それを気に留めることなく、ライアは紐を取り出して流れる手つきで男の両手を後ろに縛る。
「はい、捕まえた。分かってると思いますが、煩くしたらコレですよ」
そう言ってライアが男の首に冷たく当てているのは、先程男が手から落としたナイフだ。
優しい口調のライアだが、首に当てられているナイフから、恐ろしさと似た何か、その先にある明確な『死』を男は感じ取る。
「なっ、何もんだテメェら………?」
「まあそう慌てんな。こっちにも色々と聞きたいことがあるんだ」
男の問いかけをガンダルは流し、その目の前で膝を曲げて腰を下ろす。
ガンダルのその目は、真剣そのものだ。
男を冷たく見下ろし、威圧感を与えている。
「そんなに時間があるとは思えないんでな、可及的速やかに終わらせるとしよう」
「なっ、何を…………?」
「この建物が何か?宿屋の娘を攫ったのはお前らか?ついでもってお前らがさっき言ってた上の方ってのは何なのか?一言一句違わずに、全部答えてもらうぞ」
力強い言葉が、男に浴びせられる。