宿娘捜索 ②
「この当たりなら、どうですかね?」
そう言ってライアが立ち止まったのは、店から少し歩いた所にある路地裏だった。
夕方ということもあり、路地裏は建物と建物の陰で非常に暗く、目を凝らしてようやく足元が見えるか見えないかといったところだ。
ガンダルとウェーガンは、ライアに促されて路地裏へて目線を送る。
「まあ怪しいが、こんな道しらみ潰しに捜すのはキリがないだろ?」
「ええ、もちろんです。ですが、見てください」
ガンダルがライアにそう聞き返すと、直後ライアはブツブツと何かを小声で唱え出し、自分の手元に“小さな光の球体”を出現させる。その光は程よく明るく、まるで懐中電灯のように周囲を軽く照らす。
ライアの手元に現れた球体は、すぐさまライアの手元を離れて、ライアの周りを蝶のように浮かんでいる。
「ほう、『照らす妖精』か」
ライアの周囲を浮かぶソレを見て、ガンダルがそう口にする。するとウェーガンは、
「『照らす妖精』?何だそりゃ?」
と、キョトンと様子でガンダルに尋ねる。
ガンダルはウェーガンからの質問に、
「中級の光魔法だ。光源を妖精みたいに長時間発生させる魔法で、暗闇やダンジョンでは結構便利……だが、もう少し大きくも出来たはずだろ?」
「もちろん、もっと大きく出来ますよ。ですが大きくし過ぎると、もしもの時には不便ですしね」
そう説明して、ライアは灯りを足元へと下げる。すると、先程は見えなかった暗闇が局地的に明るくなる。
魔法により作られた光源が照らす一行の足元はタイルではなく土で、そこには複数の足跡が目に映る。
「人数はおよそ三人ほどで、二人が男、一人が若い女性。かなり揉めたみたいですね。それも、かなり最近に出来たものですね」
「なるほど………こりゃあ確かに怪しいな」
足跡を吟味する三人。
夕焼け空も時間が経つたびに赤い空は薄暗くなっていき、一行を急がせる。
「………迷ってても仕方ねぇ。行くぞ」
「そう言うのを待っていました」
ガンダルの言葉を聞き入れると、ライアは光源に足元を照らさせたまま、路地裏の奥へと向かわせる。
「では、行きましょう」
「おう…………」
二人はすうやり取りを交わして、奥へとゆっくり入って行く。
「今更だけど、これ俺行く意味無くね?」
思い出したかのようにウェーガンがそう言うと、
「なら一人で帰るか?喋るニワトリなんて珍しいもん、欲しがる物好きなんて沢山居ると思うけどな」
「遠慮しときます」
ガンダルに意地悪そうに言われ、腕の中で身震いしながら小声でそう答える。
奥に進んで行くにつれて暗さも増していく。
外と違いシンと静まったその道は、まるでここが【迷宮街ケリティカ】であるということを忘れさせるものだった。
「………おや?」
「どうした?」
「静かに、止まってください」
何かに気づいた様子のライアが、咄嗟に『照らす妖精』で作られた光源を消し、背後を歩くガンダルの足取りを止めさせる。
ライアは壁に背中を当てて、前方の方をゆっくりと覗き込む。
ライアの視線の先には、古びた建物の裏手にポツリとある扉の目の前で話し合う男二人の姿があった。男二人はガサツな格好をしており、いわゆるチンピラ程度な存在であることが分かる。
「どうやら、あそこの扉が怪しいですね。足跡も恐らく、あそこに続いてあるでしょう」
「ああ。攫われてあそこに監禁されてる感じか………面倒だな」
男二人の姿を見るや早々に何かを悟る二人に対して、ウェーガンはイマイチ状況が飲み込めていない。
ガンダルとライアは、ウェーガンを尻目に会話を続ける。
「娘さんを助けるには、あの二人に見つからずに建物に侵入するのがベストでしょう。もっとも、難しいですがね………」
「まあ、正攻法でいけばな。こっちには丁度、この状況を切り抜けれる手段があるだろ」
そう言ってから、二人の視線は何が何だか分からずいるウェーガンへと向けられた。
「えっ?なに?なに?」
余計に訳が分からず、若干取り乱すウェーガンに、二人はニヤッと笑って答えた。