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呪いのニワトリ転生  作者: 黒服先輩
第一章 ニワトリ転生
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情報整理


 昼が過ぎたばかりの空は当然の如く明るく、空色のキャンパスにまだらに雲がかかっている。

 太陽はまだ高い。そんな中【エドネ】の冒険者ギルドの一室では、ふかふかのベッドでララが遅めの昼寝をとっている。窓は開いており、外から吹く風がカーテンを揺らし、心地良い風を熟睡するララに浴びせている。

 とても昼寝を満喫しているララに対して、その腕の中で抱き枕にされているウェーガンは少々窮屈な思いをして居た。


(たくっ、もう少し優しく抱き締められねぇのか…………)


 無邪気な子供のように、力の制御を感じさせないララの抱擁に、ウェーガンは声に出さずとも不満を心の中でぶちまけている。しかしそれでも、その場から退こうとする動作は今のところ見受けられない。


(………まあ、本当に疲れたんだろうし、今起こしたらなんか悪いからな…………)


 仕方なく受け入れているようだ。まるで親戚の子供の駄々に応える叔父さんのような状況である。

 しかし考えて見てほしい。テントでもそうだったが、ララが今抱き枕としているのは見た目こそ可愛らしいニワトリであっても、中身は普通の青年である。彼がこちらの世界に来る前なら、事案となって居たことだろう。しかし、それは今さほど関係ない。今ウェーガンには、しなければならぬことがあった。


(とりあえず、一旦ここまでの情報を整理するとするか………)


 そう、情報整理である。


(黒服が教えてくれる情報は最小限みたいだし、この世界がどんなのかは自分で考えないとな………)


 頭には、白い背景に真っ黒い人物が浮かんでいる。性別も何も分からぬ黒服の言葉を思い返し、自分が今手に入れている情報を並べていく。


(まず分かりきってることだが、この世界には魔物や魔法とかの、前居た世界じゃファンタジーの一言で片付けられていたことが日常的に存在しているってことだ。そして何より、ガンダルやジャラック、ましてやララまでが俺の常識を軽く超えてく身体能力を持ってる。俺がファンタジー物とかに興味が無けりゃ、混乱して頭がぶっ壊れてただろうな…………)


 森から町までの道のりだけで、嫌気がする程の量の情報量がウェーガンには与えられて居た。しかしそれでも、彼には分からないことの方が多い。


(現時点で不明な点は、大きく分けて三つか………)


 挙げられた点。それはどれも、現状手掛かりが何一つ無い、暗闇の海に沈められた宝箱のようなものだった。


(一つは、この身体の正体だな。ウェーガンという名前で、ニワトリになる呪いをかけられている。それ以外に情報がほとんどない。黒服はウェーガンという人間を、この身体の持ち主を知ることが自分を知ることになると言っていた。そしてそれには、ウェーガンを知る者を探す必要があると…………。はっきり言って、かなり無謀だよな…………)


 気が遠くなるような感覚、それがモロにララの抱き枕となっているウェーガンを襲った。同時に、呆れるような感覚というのだろう。ウェーガンのやる気は、パーツが億単位のプラモデルを前にしたように失せていく。


(そもそも、都合よく俺のことを知ってる奴とそんな簡単に会える訳がねぇ。この世界だって当然広いだろ。その中で手掛かりのない知り合いに会うなんて、砂場からコンタクトレンズ見つけるよりもずっと難しい。ほぼほぼ不可能だろうよ。そうでなきゃ一期一会なんて四字熟語は存在しねぇよ…………)


 そう。現実はアニメや漫画のように上手くはいかず、広い世界の中から闇雲に誰かを探すなど不可能と言ってもいいことぐらい、誰だって分かることだった。

 確かにこのお話は小説だが、物語がいつだってご都合に進むとは限らないことぐらい、読者の皆様でも分かるだろ?


(まあ、これが解決しなきゃもう一個の方も解決はしないんだけどなぁ………。なんせもう一個の方は、黒服っつう見た目変態真っ黒黒助の正体についてだからなぁ………)


 自然と暴言を織り交ぜているが、自然に出たことなので仕方がない。


(あの野郎、本当に最小限の情報しか渡さねえし、次の質問は次の時にとか言ってたが次ってのはいったいいつだ?アイツの言い草からして今寝たら会えるとかは無いだろうし………ああ、なんか無性にムカつく…………)


 勝手にイラついている。


(………まあ、三つ目は何かっつったら、この随分と可愛い呪いについてなんだけどなぁ…………)


 彼は、呪いに不満があるようだ。


(普通動物に姿を変える呪いって、カエルとかそういうのに変えるんじゃないのか?ニワトリなのはいいとしても、どうしてここまでぬいぐるみっぽい?訳が分からん)


 怒りどころが違うだろう。

 ちなみに作者が最初にニワトリを思いついたのは、テレビに出てたニワトリが可愛かったからというだけの理由である。


(誰がこんな呪いをかけたのか、それだって分からない。てか、こう改めて整理してみると、俺がこの世界について知ってることなんてほとんど無いな)


 最終的に察してしまった。そう。彼がこの世界について知ってることなんて、当然知らないことの方が多い。


(歴史も国も、思えば魔法も、冒険者についても詳しく知らねえ。俺の知識にあるものなんて、この世界とは違うかもしれないし…………ああ、やること多過ぎて困りんぐだわー。………ああ、考えてたら頭痛くなってきた)


 頭の中が考え事でこんがらがっている所為か、ウェーガンは軽度の頭痛に襲われる。ついでに、眠気も気だるさもだ。


「………はぁ、大人しく寝るか………」


 小さくため息を吐いてからそう言うと、ウェーガンは身体から力を抜いて休む姿勢に入る。

 ララの腕の中は若干のキツさも感じるが、ウェーガンも気にしなければどうと言うことはないようで、そのままララに釣られて昼寝につくのだった。




 その昼寝の中で、彼は夢を見た。黒服が居るどこまでも純白の世界ではない、正真正銘の夢だったのだろう。

 夢の中で彼は、何者かの人影を視界に捉えた。姿は掠れているが、髪は白く、背丈は小さい。無色な背景の中に浮かぶその姿は、何故だか、彼の中の何かを掻き立てた。それが何なのか、それを考える前に、彼はその夢の世界から現実へと引き戻されるのだった。


 もちろんニワトリの理由はちゃんと考えてあります。

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