町の名はエドネ 到着その④
石で整備された道を歩いて行くと、一行はとある建物の前まで来て、ピタリと立ち止まる。そしてその建物へと、身体を向けた。
「ふう、やっと着いたな………」
「やっぱ距離あったな」
ガンダルとジャラックがそう呟く。
建物は木製の扉に閉ざされており、その外観は他の家々よりも明らかに大きい。建材こそ他の家々とは同じだろう。だがそれでも、一目でこの建物には気合が入っていることが見て取れた。
扉の前の柱に、看板が掛けられている。そこには、『冒険者ギルド』の文字があった。
「ここがギルドなのか?」
「そうだよ。ここが冒険者の城、ギルドだよ」
察したウェーガンがララに問いかけると、ララはそう言って説明してくれた。
一行は再び足を進め、ギルドの中へと入る。当然ガンダル、ジャラック、ララは見慣れているようだが、ウェーガンはただただその眼を奪われていた。
中は酒場のようになっており、幾つも置かれた席にそこそこな人数が座っている。格好に統一感はあまり無いが、恐らく皆冒険者なのだろう。中には、歩き回る者、立ち止まる者、くっちゃべる者など、色々と居る。
(凄えな、漫画とかアニメで見たまんまだ………)
視界に広がる光景が、自分の親しんだ記憶を呼び起こす。それは自分が今までこんなものだろうという考えを覆すもので、一言で言えば、とても印象に残るものだった。
一行はグイグイと、ギルドのカウンターまで歩いて行く。するとその途中、
「ん?よおガンダル、ジャラック、久し振りだな!」
「おお、スピカじゃないか。最近仕事の方はどうだ?」
「それがあんまり良い仕事が見つかんなくてなぁ………」
「それなら、俺らとまた依頼行くか?」
「良いねえ。つっても、どうせお前らに手柄取られるからな………」
冒険者仲間と世間話をし始めるガンダルとジャラック。とても楽しそうだ。
二人に置いてかれるウェーガンとララ。世間話をする二人を見て居ると、カウンターの方から手招く男の姿が視界に入る。
「あっ、てんちょー!」
「てんちょー?」
「ここのギルドのマスターだよ」
カウンターへと駆けていく。
ララにてんちょーと呼ばれる男性は、髭を生やした茶髪の男性。老け気味という訳でもないが、優しそうな顔をしており、三十代くらいだと思われる。
「てんちょーただいまー」
「ああ、おかえり。だいぶ早かったね」
「うん!直ぐに見つかったからね!」
「そうかい………ん?」
ララと話す店長。すると店長はふと、ララの両腕に抱き抱えられたウェーガンを視界に入れた。
「そのニワトリは?ぬいぐるみみたいだけど………」
「あっ、この人はニワトリさんだよ」
「どーも、ニワトリさんです」
「うおぉ!ニワトリが喋った………」
分かり易く驚く店長。しかし直ぐに冷静を取り戻し、顔を近づけてウェーガンの羽毛でモフモフの身体をマジマジと見つめる。
「へぇ………実に不思議だ。こういう種族という訳でもないだろ?」
「こちらの方曰く、呪いだそうです」
「なるほど、呪いねぇ………それは大変なことだ」
ウェーガンに対し向ける店長の眼は、興味深いとでも言っているようだった。
「てんちょー、ニワトリさん私の部屋に住まわせてあげていい?」
そう店長に申し訳なさそうに聞いたのはララだった。
「えっ?でも羽毛とかがなぁ………」
「ちゃんとお掃除するから」
「人で捨て犬拾ってきたみたいなやり取りするなよ」
ララの頼みに店長は目を閉じて腕を組む。そしてしばらく悩んだ末に、
「………まあ、いいか。そのかわり、ちゃんとお世話するんだよ」
「うん!ちゃんとする」
「これ完全に俺ペットだわ………」
ここでのウェーガンの立ち位置が確立した瞬間だった。