町の名はエドネ 到着その③
門をくぐると、そこには別世界が広がっていた。
ウェーガンはこの世界に来て、魔物、人、魔法と出会って来た。しかし今彼の眼に映る光景は、外に広がっていたのとは打って変わって平和なものだった。
「スゴイな。こりゃあ…………」
幾つもある家々はその多くが赤い屋根で、町の道は石で整備されている。
辺りには心地良い匂いが漂っている。何の匂いかと嗅覚を研ぎ澄ましてみれば、この匂いがパンではないかと分かる。
色々な服装を身に纏った老若男女が道を歩き、立ち止まって世間話をしている。その人々の多くが笑顔を見せており、そこからは明らかな平和が見えて来る。
「いい町だな」
「うん!町のみんな優しくて、料理とかも美味しくて、とってもいい町だよ」
一行が石で整備された道を歩いている中、ウェーガンとララはそんな会話をしている。ウェーガンに町のことを話すララの表情は、とても嬉しそうなものだった。よっぽどこの町のことが好きなのだろう。
ギルドへと向かっていると、ララは視界に一つのお店を捉えた。
「あっ、あそこのパン屋さんね、いつも焼きたて用意してくれるだ。外はふわっふわで、中はもちっもちなんだよ!」
「外はふわっふわで中はもちっもちだって?なんだそれめちゃくちゃ気になるじゃねぇか!」
「そーと決まれば直ぐに行こー!」
「おー!」
パン屋一つにテンション爆上げで話す二人。
「おぉい、パン屋一つで楽しくなるのは別に良いが、先にギルド行くぞー」
ガンダルが振り返り、はしゃぐ二人にそう告げる。
「えー、今すぐ行きたいよー」
「そうだそうだー」
「いつだって行けるだろ………」
棒読み声で反抗する二人に、ガンダルは呆れた表情を浮かべてそう言った。
「こっちだってちょっとは疲れてんだ。特にさっき横のバカを追いかけたからだが………」
「結局俺には追いつけなかったけどグファア!?」
ジャラックの言葉はガンダルの無言の顔面パンチによって遮られた。ウェーガンの眼に殺意の二文字が見えたことは言うまでもない。
「ググッ………何すんだよ!?」
「すまん。ムカついたから殴った」
「くそぉ、ちゃんと謝罪を入れてるから何も言い返せねぇ………」
道端で行われる二人のやり取り。それを目撃する町人達は、「またあの二人か………」というような声を口にして、何事も無かったかのように自分が先程までしていたことを続ける。
(この光景、いつもなのか………)
人々の反応から、ウェーガンはこれが日常的な光景であることを察し、二人に対して呆れた。これからしょっちゅう、この二人のやり取りを見なければならないのだろう。そう思ったに違いない。
早く進めよ………