町への道での立ち往生
先程まで夕焼け色に染まっていた晴空も、気がつけば暗闇となり、無数の星々と月がその暗闇を彩っている。その所為か灯りが無くても案外明るく、幻想的な光景を作り出している。
平原のように草が程よく生い茂る平たい土地の中に、ポツリと、優しい色した火が、複数の人影に囲まれていた。ウェーガン、ララ、ガンダル、ジャラックの面々である。彼らは一度畳んだテントを張り、その横に火を起こし、それを囲んで束の間の休憩をしていた。
「はぁ………今日は散々だったなぁ…………」
「来る時はこんなんじゃなかったのか?」
今日一日の出来事を思い出しながら愚痴を吐くかのように口にするジャラックに、ウェーガンがララの腕の中から問いかける。
「来る時は、バジリスクとは出会わなかったんだよ。たがら帰りも問題無く済むかと思ったんだが………」
「誤算だったな。少し考えればどうにかなっただろうけどな」
「おいおい、俺の所為かよぉ〜」
失敗の点を口にするジャラックに、ガンダルが毒を刺す。しかし当然本気で言っている訳ではなく、冗談混じりのものだった。これも、長い付き合いから成せるやり取りというものだろう。
二人のやり取りを見ていたララは「仲が良いねぇ」と口にすると、ガンダルは「良くない」と静かに呟き、ジャラックは「悪くはないと思う」などと口にする。これも、彼らにはお馴染みの光景なのだ。
「………さてと、そろそろ飯にしますか………」
「材料ちゃんとあるよなぁ?」
「おう!ちゃんと鶏肉用意しといたぜ!」
「おい、それは嫌味か何かか?」
笑顔で悪意なく言うジャラックに、ニワトリのウェーガンは静かながらキレ気味に言った。
「いやいや、嫌味なんかじゃねぇって。そうだ!焼き鳥にしてやろうか?」
「殺すぞ?」
そんなこんなあって、時間は過ぎていく。
ジャラックは、いつの間にか用意していた木の実や薬草などを使って、言っていた鶏肉を調理していく。
ガンダルは、テント周辺を歩き回っている。魔物や盗賊などに襲われぬよう、見張っているのだ。
二人が自分の役割をこなしている中、ウェーガンはララに抱かれたまま飯が出来るのを渋々と待っていた。
「何でこの姿で鶏肉食わねばならんのだ…………」
「まあまあ、フーフーしてあげるから」
「熱いのが食えない訳じゃねえよ」
「そーなの?でもとっても熱いと焼き鳥になっちゃうんじゃない?」
「それはもう料理の度を超えてる熱さだな………」
やることが無いようで、二人は雑談にも思える会話を繰り広げていた。
しばらくしてジャラックが飯の調理を終える。木の実や薬草を使い、即興で調味料と木の串を用意して、ウェーガンが生前居酒屋などで良く見かけた焼き鳥を人数分作り上げる。
出来上がりの声を聞き、見回りを辞めて駆け寄ってくるガンダル。ジャラックはそれを見るや、焼き鳥の串を持って差し出す。ガンダルがそれを受け取ると、ジャラックはもう二本持ってウェーガンとララに差し出す。
「…………」
「どした?食わないのか?」
「いやすげぇ既視感あんだけど…………」
そう言いつつも、ウェーガンはマスコット風なことが吉と出て、普通に腕として使える羽で焼き鳥を受け取る。暖かさと香ばしい香りが風に乗って伝わってくる。
「わっ、おいしそぉ!」
「だろぉ?俺の料理スキルは天才級だぜ!」
「自画自賛かよ………」
誇らしげのジャラック。ガンダルは呆れ気味に呟きながら、肉を噛み切り、咀嚼する。
「ちっ、美味えのが余計に腹立つ………」
「素直になれや」
呟くガンダルに、ジャラックはヘラヘラと笑いながらそう言う。
「さて、ニワトリくんはどうかな?」
「共食いを初めて体験した」
「してそのお味は?」
「うまい」
ウェーガンも、美味いと認めているご様子だ。
「そーかそーか。ほら、お代わりあるぜぇ!」
「はいはーい!私お代わりー!」
そう言うララの手元には、肉が無くなった木の串がある。
「「食うの早っ!?」」
「はいはい、慌てなさんなって…………」
驚くウェーガンとガンダルとは違い、ジャラックは何も変わらぬご様子で焼き鳥を差し出す。
一つの火を囲いながら、食事の時間はゆっくりと過ぎていく。楽しげな会話はBGMのようになって、夜空の下辺りに響き渡るのだった。