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呪いのニワトリ転生  作者: 黒服先輩
第一章 ニワトリ転生
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町への道筋 その⑥


 水蒸気が辺りを包み込む中を、バジリスクは勢いを殺さずに突き進む。


「チッ、あの野郎、目ぇ生きてやがったか…………」


 自分の攻撃でバジリスクの目を仕留めることが叶わなかったことに、ジャラックは舌打ちをかます。

 バジリスクは水蒸気により視界を失いながらも、ウェーガンとララが居た場所目掛けて、噛みつきを繰り出す。しかし、二人が居るであろうと予測された場所にその姿は無く、バジリスクの噛みつきはスカる。

 水蒸気を煙幕とし、バジリスクの視界を奪うと同時に二人が距離をとっていたのを察してか、バジリスクは辺りを探る。視界を奪われても尚、音、匂いといった手段が存在している。


 カシャリッ


 後方から音がした。何の音か、それを考えること無く、バジリスクはそちらへと顔を向けて、本能の赴くまま、攻撃的に動き出す。勢いをつけて、音の主へと距離を狭めていく。そして遂に、その音の主をバジリスクのギョロリとした左目が捉えた。


「おぉ、こっちに来てくれたか…………」


 そこには、先程バジリスクの顔を下から叩いた時の剣を手に持ち、肩に乗せて堂々とした態度で立つガンダルの姿があった。

 ガンダルの姿を見るや否や、バジリスクは口を開き鋭く尖った牙を見せる。噛み付くつもりだろう。それにガンダルは口元をニヤリとさせ、


「よしよし、そのままこっちに来い」


 命令するような口調のガンダルの願いが叶ったか、バジリスクはスピードを緩めず、寧ろ早めてガンダルに襲いかかる。そして鋭い牙がガンダルの肉体を貫こうとした…………が、ガンダルはその攻撃をバジリスクから見て左側に身体をそらして避け、剣を両手に持って振りかぶり、


アイツ(ジャラック)の弾丸はシッカリと右目を殺してた。なら、見えてんのはこっちの目だけだろ?」


 そう呟いて、バジリスクの左目を剣で叩き斬る。

 血飛沫が飛び散り、再びバジリスクは奇声を発しながら水蒸気の煙幕をそのまま抜けた。露わになるバジリスクの胴体。鱗やその下の皮膚は炎で焦げてはいるが、そのすばしっこは健在だ。しかし両目を失った為に敵の居場所を捉えることは困難を極め、バジリスクは訳もなく、ただただ暴れ回っている。


(両目はやったが、このままじゃあ鱗を破ることは出来ないが…………)


 ガンダルは水蒸気の煙幕の中から、暴れ回っているバジリスクを尻目にして、持っていた剣を腰に下ろした鞘に収め、


「逃げるぞ!!」


 喉の底から張ったような、辺りに響く大声。ウェーガン、ララ、ジャラックはその大声が耳に届くと、ジャラックとララは一瞬声の聞こえた方向を向いてコクリと頷いてから、全力で走り出し、その場から距離を取っていく。歩きにくい道など御構い無しに、ただただその足を動かしていた。

 皆が走る方向は、町への方向。徐々に彼らの居場所を掴めぬバジリスクとの距離は開いていき、地形が緩やかになり歩き易くなってきた頃には、バジリスクの凶悪な姿は見えなくなっていた。

 バジリスクが主として君臨していた地形を抜けた所で、息を切らした彼らは合流する。


「ハァ………ハァ………なんとか振り切ったな」

「ああ、大分疲れたけどなぁ………」


 息を切らしながら、ガンダルとジャラックは会話を繰り広げている。対して、あまり体力を消耗していないようにも見えるララに、ウェーガンは上目遣いで質問する。


「………なあ、さっきのアイツ、あのまま倒せたんじゃねぇのか?」


 彼から見て、あの状況は余裕に見えていた。ララはその質問を聞き届けてから、


「もちろん、倒せたよ。でも出来れば戦いたくないんだ。こっちも変に消耗しちゃうし、素材とかゲットしても町まで持ってくのに時間かかっちゃうしね」

「ああ、そういうことか…………」


 疲れを感じさせぬ笑顔を浮かべて口にされるララの説明に、ウェーガンは深く納得する。

 しばらくしてから二人は息を整え終わると、ガンダルは、


「ふう………さて、こんな所で立ち往生してるのもあれだ。もう少し歩いてから野宿するとしよう」


 その提案に、全員が空を見上げる。気がつくと、空は赤っぽく染まり出していた。もう少しで夕焼けである。


「うわっ、もうこんな時間!?」

「バジリスク一体に大分時間かけちまったなぁ…………」


 軽く驚いた様子を見せるララとジャラック。

 ガンダルは二人の反応を見てから歩き出そうとするが、ふと、ララの腕の中のウェーガンを見つめる。


「…………ん?」


 ウェーガンは視線に気がついた。


「どした………?」

「………いや、何でもない。ほら、さっさと進むぞ。暗くなってからの移動は避けたい」

「「おー」」


 何事もない振りを見せてから、進む合図を送る。ララとジャラックは適当な合図をしてから、再び町へと進路を取るのだった。

 歩きながら、ガンダルは胸の中で引っかかる物を感じていた。


(あの時………バジリスクは間違い無く、ララちゃんとウェーガンに狙いを定めていた。目の前に居る俺を無視してだ。それが、先に強者から倒しておこうという理由なら納得は出来る。だが、あの感じは…………まぁ、今気にすることじゃないか)


 違和感を感じるも、ガンダルはそれは今考えることではないと割り切りその考えを一度、脳の片隅へと退か進むのであった。

 町への道のりは、まだ少しある。

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