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Scene.43 懐妊

「うう……気持ち悪ぃ」


 乃亜(のあ)が朝起きると気だるそうにミストが体調不良を訴えてくる。布団からはい出ることがやっとという状態で、かなりの重症らしい。


「オイオイ大丈夫か? そんなにダメなら病院でも行くか? まぁ悪魔にどれだけ医学が通じるかはわからんけど」

「ミストも体調悪いの? 無理しないで病院に行ったらどう? 私これから出かけちゃっていないから」


 真理も病院に行くことを勧めているので急きょ区内の総合病院に向かう事にした。吐き気なので内科での診察となったが何故か内科から産婦人科にまわされた。


 もしかして……2人とも思い当たる節があった。乃亜は腹をくくり、ミストは少しだけ期待しながら産婦人科の診察を受けた。

 そして……


天使(あまつか) (きり)さん。診察室2番にお入りください」


 戸籍上でのミストの名前が呼ばれ、診察結果を聞きに中へと入る。医者の表情は、柔らかかった。


「結論から言います。霧さんの症状はつわりです……つまり、あなたは妊娠しています」

「「妊娠!?」」

「そうです。霧さんのお腹の中に赤ちゃんがいるんです。おめでとうございます。2人とも」




「へっへー。赤ちゃんかぁ」


 帰り道を歩いているミストの声は明るい。


「まさか人間と悪魔の間に子供が出来るとはなぁ……」

「サキュバスやインキュバスだって人間との子供産んだり産ませたりするぜ? 別に普通の事だろ?」

「悪魔でも子供の誕生は喜ぶべきことなんだな」

「そりゃそうだろ。どんな生き物だって子供が出来るのを嫌がるやつなんていねえだろ?」


 乃亜のボヤキにミストはごく普通の事だろと返す。考えてみれば確かにそうだなと納得できる内容ではあったが。

 2人が帰宅してしばらくすると、3日前に今日は朝から用事があって出かけてくると告げてその予定通りにどこかへ出かけていた真理が帰ってきた。


「乃亜、ミスト、ちょっと話があるわ」


 真理はそう言って正座する。2人も何か改まった話だろうと思って姿勢を正して座る。コホンと咳払いして真理が話を切り出す。


「私、2か月前からいきなり生理が来なくなっているの。それに妙に気持ち悪い日が続いていたの」

「生理が来ない……?」

「気持ちが悪い……?」


 乃亜とて保健体育の授業で生理が来ないという意味は何となく分かっている。それに気持ち悪い日が続くという、ついさっき見たような事。もしかして……。

 2人の疑問はすぐさま確信に変わる。


「生理不順と思って今朝、産婦人科に行ってみたら……妊娠だって。私と乃亜との赤ちゃん、出来ちゃったみたい」

「な……!」

「に、妊娠!?」


 ミストがカッと乃亜の方を向く。


「オイ乃亜! お前俺だけじゃなくて真理にまで手を出したのか!?」

「ミスト! すまん! 手を出しちまった!

 真理! すまん! 籍は入れられないけど責任は取らせてくれ!」

「乃亜、その言葉にウソは無いよね? ちゃんと私と子供の事の面倒を見てくれるなら許してもいいわよ」

「はい。嘘偽り一切ございません。最後まで面倒を見させてください。どうかお許しください」


 種をばらまいた。となると男はただひたすら謝罪するしかない。乃亜はひたすら土下座をして平謝りを続けるばかり。こうなると男はとことん弱い。


「わかった。とりあえず許してあげる。途中で放り投げるのは無しよ。いいわね?」

「はい。最後まで面倒を見させてください。お願いします」


 乃亜は真理から許しをもらった後、ミストの方に向き直り再び土下座する。


「ミストにも迷惑をかけた。お前という妻がいるにも関わらず他の女に手を出して妊娠させちまって……すまない」

「別にいいぜ。真理相手ならまだ許せる。俺より胸でけえし、その……ヤマトナデシコってぇの? そういう風で男受けもよさそうな見た目だし。コイツにだったら負けてもしゃあねえな。とは思うよ」


 ミストは皮肉も負け惜しみも無しに素直に負けを認める。


「乃亜、私たち良い親になりましょうね」

「俺たちも良い親になろうぜ」

「親か……大丈夫。少なくともアイツラよりはマシなはずさ」


 3人、いや、「5人」の未来は明るかった。

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