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第一話

男と少女は、火を見つめていた。

いや、火というよりはむしろ炎というべきだろう。

彼らの目の前には、燃え盛る炎が広がっていた。


燃え盛る炎は、一つの街を包み込んでいた。

一面に広がる焦げ付いた匂い。

男たちの怒号に、女子供の泣き叫ぶ声。

耳をつんざく崩落の音。

そして――。

火の消えた街には、何一つ残されていなかった。


「また、か」


男は何かを押し込めながら、そうつぶやいた。

何も残されていない、かつて街だった場所を見つめ続けながら……。



“ネクロマンサー”

そう呼ばれる人々がいる。

神の奇跡たる魔法の中で、死者の魂をもてあそぶ邪法を得意とする、道を外れた存在。

生者から忌み嫌われ、死霊と親しむ。

火力を以て人々を守るソーサラーや正しき神の奇跡を以て人々を癒すプリーストと異なり、彼らは明確な悪として認識されている。



男は死霊を呼び出し復元した『死者の記憶』からこの街でかつてあった出来事を再生した。

平和に生きる人々を襲い、街を灰燼に帰した。

その有様をそのまま目の前に投射する魔法は、正しく邪法として認知されている業に他ならない。


「それで」


男は言葉をつづけた。


「お前はどうしたいんだ?」


男は少女に尋ねた。が、少女は口を開くそぶりを見せない。


「復讐か、再興か」


この街を出身とする少女にとっては、このどちらかしかない。

或いは、このままここを去り、新しい生活を送るか。

少女は泣きもせず、叫びもせず、ただそこに黙って立っていた。


「まあ、なんにせよ」


仕方なく、さらに男は言葉をつづけた。


「依頼終了だ、好きにしな」




男――グレンはネクロマンサーである。

ソーサラーでも、プリーストでもない。

それだけで罪に問われることはないが、それだけで人に忌み嫌われ、孤立している。

街から街を転々とし、拠点を持たない流れ者。

モンスターハンターや傭兵と言えば、そんな者など吐いて捨てるほどいるが、その中でも、ただ一人で行動している者などそう多くはない。

グレンがネクロマンサーであることを知る者も少ないが、集団で行動するとなるとすぐに露見する程度の情報でもある。

従って彼は、今日も一人で酒を呷っていた。


そんな彼に、15~6歳の少女がわざわざ声をかけてきたのは、絵としては奇異に映るが、むしろ彼にとっては在りうる可能性のうちで少なくないものの一つでしかなかった。

すなわち――どこをどうやって情報を手に入れたのかは知らないが――その道の関係者か、まともではない事情を抱えた依頼人かのどちらか。

そして、この場合は後者だった。




ニナ、と名乗った少女に案内された街の跡。

依頼内容はここが無くなった状況を鮮明に確認させること、報酬は金。

ネクロマンサーへの依頼にしては、まだまともな部類だ。

死者蘇生、不死へ至る道、亡者の軍団。

邪法を頼る側には、表沙汰にできないそれなりの理由がある。


「なんなら」


グレンはニナに対して暗い笑みを浮かべながら言った。


「彼らと同じ場所で働かせることもできるが?」

「もちろん、同じ姿(アンデット)になってもらうが」


「……もし」


ニナはようやく口を開いた。


「もし、できるなら」


(やはりそれを選ぶか)とグレンは失望しそうになった。

しかし、ニナの言葉は彼の予想を裏切ることとなる。


――みんなを、天に――


グレンは笑みを浮かべた。

先ほどとは異なる、明るい笑みだ。

まるで、「その言葉が聞きたかった」と言うかのように。


「了承だ、依頼主様。特別料金にしておこう『死者の帰還』」


グレンが一言つぶやくと、辺り一面がまばゆい光に包まれた。

残酷な炎に覆われた場所を、まるで塗りかえるかのように。

死霊たちは光に包まれ、やがてその姿を消した。

そして、光が消えた後には、グレンただ一人だけが立っていた。




“ネクロマンサー”

それは死者と親しむ邪法の担い手。

そして、死者を慰撫する奇跡の担い手でもある。


――死霊使いは今日も哭く、死者の平穏を祈りながら。

――死霊使いは今日も哭く、死者の救いを祈りながら。


はじめましての方ははじめまして。

すでにご覧いただいたことのある方はお久しぶりです。

今回は中二病全回の世界でごめんなさい。

「どっかで見たことあるような設定だな」と思った方、ぜひご一報ください。

(読みます、すぐに読みます)

※投稿日に一部修正。


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