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王記  作者: 剛田たける
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「いらっしゃいませ!」

元気に響き渡る声はいつもと変わらない。

大型家電量販店ではこの叫び声とも挨拶ともわからない声と、おおきなテレビから流れる音、スピーカーから流れる試聴用の重低音が街頭演説をする車以上に煩く鳴り響く。

「なにかお探しですか?」

そういってお客さんに声をかけては商品の良いところをアピールして買ってもらうことに必死だ。

もちろん自分は「声をかけられる側」ではなく「声をかける側」であり、この大型家電量販店の販売員である。

「橋本くん、おっはー」

そういって冗談交じりに声をかけてきたのは地元の友達の 岸辺博きしべ ひろしだ。

自分の出身地である名古屋で販売員をしている以上朝から地元の友達に出会うことはそう珍しいことではない。

「いらっしゃいませ。お客様、何かお探しですか?」

とテンプレで返すと岸辺は

「土日なのに大変だな、がんばれよ」

そういって帰っていく、家電量販店の店員に土日休みなんてない。

岸辺は公務員で、彼ら公務員にとっては休日の土曜日だ。

そんな彼ら公務員からそうやって声をかけられると皮肉にしかきこえない、働いているうちにひねくれたものだと自分を思い返す。

今年で23にもなるのに家電量販店の店員である自分にたいして、岸辺は同い年で公務員、どうしてこう違うものなのかと頭を抱えた時期もあったが「自分は自分、他人は他人」そういって毎日汗水たらして働いている。

最近は過労のせいか家電量販店のやけに明るいテレビのライトやモニターのライトの明かりのせいで目が焼けたのかわからないが、目を閉じていても軽く光がみえる。

健康診断は2か月ほど前に受けているのでとくに異常はないはずだが、念のために近いうちに病院に行こうと思う。

もちろん、そんな休みもなかなか取れないのが現状ではある。

今日が土曜日ということもあってかお客さんが多く、忙しく接客していたらもう店じまいの時間となっていた。

今日の販売実績をパソコンをつかって本部へと送信する。

そして電気を消して回っていると、自分の目がおかしいことに気付く。

目を閉じているのに前が見えている、というより明かりがある。

目を閉じているのか、はたまた開いているのかわからなくなり、気持ち悪くなって座り込んでしまう。

過労なのか、それともあまりにも自分が情けなくてがたまっていたのか、目の前が真っ暗になって自分はここで眠るのかとあきらめて脱力感に身をゆだねる。

たぶん起きたら点滴されていて、病院にでもいるのだろう。

さっきまで真っ暗だったはずの視界がやけに明るい、こんなときでも目に焼き付いたライトというのは見えるのか。

「疲れた」

口に出していた、そう確かにしゃべっていた。

お店で倒れてるはずでは?どうしてしゃべれるんだ、しかもこの照りつくような暑さは太陽のそれと酷似していてライトの光よりもよりまぶしく輝いている。

「~~~~~~~?」

倒れている自分の右側から声がする、起き上がろうと地面に手をついたら土の感触、病院だと思っていたからなのか、ありえない感触に飛び起きる。

床は土、周りは林、右側には見知らぬ子ども。

かなり独特の恰好の子どもで、男性用の着物の袖をなくしたような服を着ていて履物はサンダルのような、いわゆる草鞋だ。

右手には鉈のような、刃渡り40cmほどの刃物を持っている。

「~~~~~~~~~~~?」

何か聞かれているようだが、まったくわからない。

しかも言葉が通じないうえに相手は子どもとはいえ刃物を持っている、下手な真似はできない。

とりあえずゆっくりと体制を変えて頭を下にして土下座のような恰好で「あやしいものではないです。」と小声で言ったものの全く通じていないようだった。

足音がする、子どもの後ろから同じような格好をした成人男性があるいてくる、細くて目つきのわるい男だ。

子どもと男が何かを話し合っている。

たぶん、食われるんだろうな。

意味が分からないまま死ぬくらいなら逃げようかな、疲れたし夢でも見てるんだろうな。

いろいろな思いがこみ上げてくる、涙はでないが汗が、尋常じゃない量の汗をかいていることに気付く。

「わ、か、、、るか?」

そう聞こえた、たしかにカタコトだが「わかるか?」と聞いているように思えた。

初めて理解できた言葉にうれしさのあまり頭を上げて「わかる!」と見ず知らずの男の前で、しかも刃物を持った相手の前で叫んでしまった。

「なら、、、いい、、、こ、、、い」

さっきと同じようにカタコトで話す男の言う通り、ゆっくり立ち上がり後ろから子どもに刃物を突き付けられゆっくりと男についていく。

林を進んでいくと石垣に囲まれた小さな村のような開けた場所に連れてこられた。

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