やぶれ饅頭の食べかす
3.5、やぶれ饅頭の食べかす
2013年12月27日
「やあ、教授」
「おや、チャラ神。久しぶりだなあ」
「チャラ……?なにそれやめて」
「お前みたいなもののことを言うらしいぞ。なんのようですか~」
「べつに~あいかわらずよく働くね」
「働くことは美しいだろ」
「ふうん?ねえ、最近さあ」
「あ、ちょっと待てよ、目の前の最後の一行を終わらせる待ちなさい、よしきたオッケー、なに?最近?あ、お茶飲む?」
「おかまいなく。最近、あんたの助手くんからのお供え物が朝昼晩と饅頭ばっかりなんだけどなんなの」
「そうなん?」
「甘いもの摂り過ぎていらいらするんですけど」
「逆じゃね?」
「辛党なんすよ。いらいらし過ぎて意地悪しちゃった」
「うちの甥っ子とその周りの子達をあんまりいじめないでもらえますか~?」
「見てたの?」
「地獄耳なの」
「かわいい甥っ子助けなかったんだ?」
「助けただろ、仕事の仲間の人が」
「怒ってる?」
「神様に怒ったってしょうがないっしょ。俺もあの子の仕事関連が心配だったし、むしろありがとうってかんじです」
「身内以外には冷たいひと」
「お前さんが言ってたように、大事なあの子を人間らしくするのは本来俺の役目であったはずだし俺もそれをやりたかったけど、かっさらわれてポッと出の人たちに上手いことやられちゃったからね。やつあたりくらいさせてってかんじよ」
「そうね」
「妹があの子を産んだとき、俺は心底うれしかった」
彼は宙を眺めて、懐古しているようだ。
「当時すでに結婚も自分の子供を授かることも捨てていた俺には実の子のようで、本当にかわいくてうれしかったんだよ」
「溺愛」
「そう。かわいいかわいいかわいい甥っ子。箱に入れて大事に育ててずっと目の届くところに置いておきたい気持ちはやまやまではあるけど、外に飛び出した彼を俺にはにはできないやり方で人間らしくしてくれた人たちにありがたいとも思っているんだよ。お前にだって」
「俺に?」
「我が甥っ子にあの職場紹介したのはお前さんじゃねーですかー」
「……拾ったチラシにあった住所を教えてあげただけ」
「俺たち自分の意思にそぐわないこと自分からやっておいて八つ当たりして、無理だよこんなガキっぽいやつらに子供を育てるなんて」
「でもむかつくよ」
「これだから神様は……別にあの首なし君、どうこうする気なかったでしょ」
「さあね」
男が笑って皺が深まる。彼は初めて会った時より老けた。甥っ子のことを言えないぐらい人間っぽくないこの男もやはり人間だったのだな。
「てゆーか!饅頭のことは」
「わっかんねーよ、美味いじゃん饅頭」
「美味いけどさー」
「もどりました~おやつの饅頭買ってきましたよ~」
「ねえねえ新田原くん、なんで神様のお供え物がうどんから饅頭になったの」
部屋に入ってきた、教授と言葉を交わすこの助手には俺が見えていない。見えてないクセに神や霊に興味津々の変なヤツ。
「ええ?最近やたらと忙しいからですよ」
「忙しいから?」
「教授が言ったんじゃないですか。忙しくてうどんが用意できないときは何をお供えしたらいいですかねえ?て訊いたら、神様は饅頭が二番目に好きだから饅頭でいいよ!饅頭を常備しておけ!つって」
「そうだっけ」
「そうですよ!わかめうどんも教授が神様はわかめうどんが一番好きだよ!うどんを供えろ!って言ったんです、あなたが」
「適当に言ってたわ、全然覚えてない」
「え!適当って……それ神様、怒ったりしないんですか?」
「いや、怒ってないよ。彼は満足してる。喜んでる」
「……おい」
なに、適当なこと言ってやがる。
「でもたまにはしょっぱいものが食べたいかもしれんから。そうだ!味付き玉子と交互にしたらどうかな、忙しいときは。コンビニとかに売ってるやつでいいから」
「そうですね…じゃあ買ってきます。あ、やばい急がないと。お供えの時間だ。いってきます」
「いってらっしゃあい……味付き玉子美味いよ?」
「あんたの甥っ子のランチ、わけてもらうからね。ばいばい」
「怒らないで神様!ばいば~い」
埃だらけの教授室を後にする。炭水化物、糖分以外の主食の炭水化物が食べたい。昨今は神様だって健康志向なのだ。クソ教授のかわいい甥っ子からふんだくってやる。
俺は、初めてあの子を見たとき、誰かが守ってやらねば生きていけまい、と思った。守り神ごころを刺激された。あまりにも人間らしくない人間だった。
彼の伯父たちみたいな他の霊的能力の強い人間たちとは違う。まっさらで俺が『何』であるかなんてちっとも気づいていなかった。家族以外で、自分が見える人間と初めて出会ったのだと、彼は嬉しそうにしていた。人間じゃないんだ。神様なんだ。ごめん。
神様は神様の存在を喜ぶ者を、無碍にはできない。
あっという間に、溺愛だ。神様は案外、単純なのだ。忙しさにかまけてかまってくれない教授以外の貴重な、大事な話相手。友達。大学の裏の暗い場所に立つ祠でじっとするのもつまらないし。
卒業したらもう会えないのか、と思うといらいらだってするさ。なんだかんだでこれからも来るらしいので、まあ、よかろう。俺の相手をさせよう。いや、俺があいつの相手になってやるのだ。神様だからな。
祠の方を見ると、助手が玉子を供えていた。本気か……しかしながら玉子の横におにぎりも置いていたので許してやろう。さて、はやく行かねば。あの子がシュークリームを食べ終わってしまう。
大学の裏にある祠にはアツアツわかめうどんやら美味しいやぶれ饅頭やらコンビニのおにぎりやらゆでたまごやらが置いてあるけど、勝手にとって食べちゃだめですよ。祟られますよ。ご用心!by守り神。
やぶれ饅頭、完食。
「赤い眼鏡とやぶれ饅頭」のひとびと。
透明人間…ひともひと以外のものもホイホイしてます。ぴちぴちの男子大学生。四年生。好きなk-popアイドルはINFINITEとSPICA。
千鳥[ちどり]…金髪、ピアス、刺青の男。ヤンキーっぽいけどヤンキーじゃないよ、ほんとだよ。陰陽師でしょ?とよく言われるけど、違います。甘党。好きなk-popアイドルは2NE1。
ジャスミン…美人凄腕呪術師。暇なときは韓流ドラマやk-popアイドルのコンサートDVDを観ている。韓流をオフィスの面々や知り合いたちに布教している。アイドルは全般好きだが、一番好きなk-popアイドルはINFINITE。
日田[ひた]…生前はブラック企業の経営者だった地縛霊。好きなk-popアイドルはBrown Eyed Girls。
吉塚[よしづか]…透明人間の友達。眼鏡。透明人間の通う大学の守り神。辛党。アイドルよりも透明人間が好き。
透明人間の伯父…教授とかなんとか。霊能力は強い方。k-popアイドルも好きだが日本のアイドルも好き。SHINeeとモーニング娘。が好き。
新田原[しんでんばる]…伯父さんのお手伝い兼友人兼保護者兼いろいろ。自分も研究者で音楽と霊や神などの関連を研究している。k-popアイドルより日本のアイドルが好き。東京パフォーマンスドールが好き。
おわり。




