09 ネットのハンドルネームでも現実世界で通用する
深夜に光る下町の街灯の下。数々のお店が閉まり始めていた。
その中で少し薄暗く光っているインターネットカフェがあった。そのインターネットカフェは、地下にあった。その中には、常に店員がお客を待っているようにひたすら立っていた。
数々に区切られた個室には、お客さんが少ないが数名、その狭い室でパソコンに向かっていた。
漫画や雑誌を見る人や眠っている人達などがいた。その中の一つの個室で美保はパソコンのキーボードのキーを打っていた。
《運命的に出会ったの、でもナンパだけどね》
《その彼ってどんな感じ?カッコいいの?》
《熱いね~この空間は》
《ナンパか~~チャラ男じゃね?》
チャットから色々な言葉が飛びかっていた。その中で美保は誠二の事を書いていた。
《カッコいいよ~~私みたいな女にはもったいないくらい》
美保は、夢中にそのキーボードのキーを叩いていた。
《病人Aさん何か感じ変わったねぇ~》
《男できたから浮かれてるな~ちょっとは目~冷ましなさいよ》
《みんな!!恋人はいるかい~~?》
《だからチャラ男だって。肌の色黒いダロ~だまされるなよ~》
病人Aが私のハンドルネームだ。
《私恋人欲しいな~~誰か良い人紹介して~~ぇ》
《俺は恋人いるぞ~~い》
《病人Aのあの暗い会話はどうした?戻ってこ~~い闇の世界へ》
チャットやっていると分かるんだけど、これは私だけなのかな?目に見えない人達と会話をしているから、その・・・偽名を使って自分の言いたい事をフィルターを通さずに会話ができると思う。
そういう事に魅力を感じられるのだ。
チャットの世界も色々だけど自分の素性を明かせないから、悪口や異常な暴言などを打つ人などがいる・・・けど。そういう人は、ほんの一部だと思う。ネットの世界でも秩序を守ろうとしている人たちは、たくさんいる。こういった人達は自分がもうネットの住人みたいな様になっているから偽名を使ったとしてもそこには存在しているのかも知れない。もう
現実の世界とバーチャルの世界がゴッチャになって街中で例えば、ネットの住人と出会えば普通にというか堂々と自分は、ネットの世界のハンドルネーム黄色のトマトですと言えば現実の世界でも通用するだろう。
中にはハンドルネームを使い分けて、正義と悪の両面。
いや・・・数面もっている人達もいるけど。その中で自分という人間が存在しているという証みたいなものが欲しいんだよきっと。私もそう思うもん。
自分もここに存在してるよって言いたいし。
私は時間になったのでインターネットを切り上げて朝の6時20分ごろに家に戻った。母は、もうすでに起きていてリビングのソファーでぐったり無気力のマネキンのように頭を下にうつむき肩をすぼめて、腕には力が入って硬直しているようにソファーに座っていた。
「おかえりなさい。」
「・・・・・お金。」
「ちょっと待っててね、今取ってくるからね。」
私は所持金が10分の1程度になったので母に即刻お金を要求した。
夕方起きる時にお金を要求してもいいんだけど、寝起き直後に母の顔を見るのはコクだ。
何だか疲れる。
お金を渡す母の表情はどこか悲しげで、まるで誰かに同情をあおるような顔付きだった。
でも私は、その手にはのらなかった。・・・人って変われるのかな?・・・いや、
そう簡単には変えられないと私は思った。個人の性格と言うのもあるんだけれど、人って何かに浸りたいんだよ。私だけかも知れないけど、私はこんなにも頑張っているんだよーと自分の頑張り具合を人に見せびらかしたり、私はこんなにも悲しんでいるんだよと悲しげな表情を見せたり、私の顔カワイイでしょうと、人に自慢げに浸ったり自分は哀れでしょと人にその傷跡を見せたり・・・要するに自分がその気分に浸りたいだけなんだよ。だから
人は変われない。だからそういう人間もともとの性根があるのだろう。