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星屑クラブ  作者: 氷月 蓮
其の一
7/37

第六話  休日。突然の来客

まぶしい……

 カーテンの隙間から入ってくる日光が俺の顔に直撃し、それで目が覚めた。

 服は、寝汗で濡れていて気持ち悪い。なので、眠いのを我慢し、起き上がって服を着替えた。

「真。お友達が来てるわよ~」

 一階から、母さんの声が聞こえた。

 今日は土曜日。休日のはずだ。友人とは、誰だ? 前まで行っていた学校からは、とても遠いので誰もこんな時期には来ないだろうし、今行っているところでは、誰も住所など知らないはずだ。

「はーい」

「玄関の外で、待ってくれてるから~」

 さてと、カーテンを開けていったい誰なのか確認する。

 ありえないが、ちょっとだけ天乃じゃないかと期待する。

「……!」

 玄関の前には、ユーさんと織田さん。

 すぐにこちらに気が付き、二人は元気よく手を振ってくる。

 と、言うよりも、ユーさんは小さなキャリーバックを。織田さんはペンと入部届を振り回している。と、言ったほうが正解だろう。

「何で、住所知ってるんだ」

 とりあえず、追い返そう。先輩だからといって、あの二人なら気を遣うことはないだろう。

 急いで階段を降りると、リサが話しかけてきた。

「兄貴! あのかっこいい人誰だよ! あのかわいい人は!」

「はいはい。わかった分かった」

 話がかみ合っていないのはわかっている。が、今はそんなことを気にしている時間はない。

 スリッパをはくことを忘れ、はだしのまま外に出る。

玄関の外には、二人が。満面の笑顔で立っている。

「やっほ~!」

「開けるの遅いな。シカトされたんじゃないかと思って、泣きそうだったぞ」

 どの口が言う? どの口が。

「いらっしゃ~い。待たせちゃってごめんなさいね。どうぞ、あがってあがって」

「「お邪魔します!」」

 なんの問題も起こさずに帰ってくれるとうれしいんだが。

「ちょ、ユーさんキャリーバックは、タイヤ拭いてから持って行ってくださいよ。床が汚れるの嫌なんで」

「大丈夫だよ」

「何で」

「地面につけてないもん!」

 タイヤの意味がなくなっている。

 そのまま、ユーさんはルンルンと家の奥――ダイニングに向かって行く。

「おねーさん、いきなりすいません」

織田さんが、母さんに頭を少し下げる。

「え? 私、真の母です。学校では、いつもお世話になってます」

「お母さんですか! 若いですね」

「そんなことないわよ~」

 母さんは、上機嫌だ。

 そのまま、ニコニコと織田さんは母さんとダイニングへ向かっていった。

「なあ、兄貴」

 突然後ろからリサが声をかけてくる。さっきいたのに、どこに行ってたんだ。

「なんだ。驚かせるな」

 リサの服装に驚かされる。普段着ているボーイッシュな服から着替えていた。

 いかにも、年頃の女の子。という感じだ。初めて見た。

「お前、そんな服持ってたんだな。母さんのおさがりか」

 そういうと、ドスッと重いパンチが、俺の腹部を襲った。

「ち、違うし。最近有名なブランドの店が、近所にできたから行っただけだ」

「にしても、高そうなものよく買ってもらえたな」

 ドスッと再び重いパンチがきた。

「高くねえよ。中学生が、おこずかいで買えるくらいの値段だ。これは、確か二千円くらい」

 それは、安い。花柄で、フリルやらリボンやらがついているのにな。

「お前、まだ小学生だろ」

「小学生でも貯めれば買えるんだよ。アルファベットの『O』と『Z』で『オズ』ってとこだよ」

 なぜだろうか。いやな予感しかしない。気にしないのが一番だが、それは無理だ。

 その、『OZ』という言葉が頭でずっと引っかかっている。

「ま、とりあえず向こうに行くぞ。お前は母さんの手伝いでもしとけ」

「はーい。あの人たち、いい人たちっぽいな」

 お前は、あの人たちの変人っぷりを知らないからそんなことが言えるんだ。

 さっき、妹に殴られたところが、少し痛む。さすが、格闘家。さっきのは二階とも、半分も力を出していないな。


 ダイニングに行くと、普段俺が食事の時に座っている席にユーさんが座り、フォークをぶんぶんと振り回している。

「マコくんおそーい」

 母さんが、紅茶と織田さんが持ってきたのであろうケーキを二人の前に出す。

「はいはい。ユーさんはフォークおいてください。危ないですから。で、織田さんは、何してるんですか」

 ここから見ている限りは、色紙に何かを書いているように見えるのだが。

「ん? オレか。お前のおかーさんに頼まれてサインしてた。後ろにいるの、妹か? かわいいな」

 なにをさらりと言っているんだ。

「かわいいって……ぐふふ」

 俺に隠れるようにして立っているリサが、変な声で笑ってる。

「挨拶しろよ。リサ」

 いつまでたっても、俺の後ろからはがれないくっつき虫を強引に引っぺがし、前に持ってくる。

「こ……こんにちは。妹のリサです」

 恥ずかしそうに挨拶する。

「おおっとお? もしかして、その服はOZのかな」

「はい! かわいいですよね。このブランドの服って。雑誌で読んだんですけど、全部ブランドの名前にもなっているOZさんがデザインしてるんですよね。一度会ってみたいです」

「呼んだか?」

 サイン(イラスト入り)を書いていた織田さんが、顔を上げる。 

……まさか。

織田閏。Orita Zyun……ってとこか。『Z』が『J』ではないのが謎だが、 もう気にしない。これ以上首をツコムと、抜けなくなる。

母さんが紅茶を飲む。ユーさんが、ケーキを食べる。俺は椅子に座り。リサは停止している。

「えーと。リサちゃん?」

 織田さんが、心配する。

「うっそお! お……おっ、織田さんみたいなイケメンが、こんなふわふわキラキラきゃっきゃうふふな絵を描けるなんて! おかしい! 万能すぎる!」

 そうだそうだ。

「ホントーだけど」

 ごっちそーさまー! と、ユーさんはケーキを食べきった。

「あ……うああああああ! うううううううううううううう!」

 妹が一体何語なのかわけのわからない奇声を放つ。

 ここで驚いていたら、部員全員を紹介する前に倒れるぞ。

「こんなってひどいな~。オレ、人間だから、そんなに驚くことないと思うけど?」

「そうだね! 閏くんはちょっと変わってるけど、一応は人間だ!」

「いいから、俺の部屋に来てください。二人とも!」

 二人の手を引き、俺の部屋に強引に連れていく。

 少しはおとなしくしてもらえればいいんだが。

「オー。ヲタクの男の子の部屋だ」

 と、本棚をいじりだす。

「あぁ、ユーさんいじんないでくださいよ」

「あ、そっか。マコくんって、有名な 作家さんだったね」

「そうだったな。真のは面白いぞ。全部読んだから確信してる」

「何で俺の作品何で知ってるんですか」

「お前、自分の知名度知っといたほうがいいぞ」

「はあ」

 横で、ユーさんはまるで自分の家であるかのようにくつろぎながら、俺の作品のコミック化をしたものを読んでいる。

 時々、くすくすと笑ったりしている。楽しんでいただけて何よりだ。

「小学生で最優秀賞を取ってデビューした奴が、お前以外にいると思うか? ネットで寿太一って検索したら一発だ」

 ついさっき見たらマンガを読んでいたユーさんが、次は持ってきたキャリーバックから大きいかまぼこの板のような木の板と黒いフェルト、筆、文鎮、百均で売っているような水が入った入れ物を出し、最後に着ているカーディガンのポケットからは硯が出てくる。

 何で、そんなところに入っているんだ。

「ユーさん。俺の部屋で、次は何をするつもりですか」

「え? マコくんの家の表札を書くんだよ」

「そのかまぼこ板みたいなのにですか」

「みたいな。じゃなくて、かまぼこ板だよ」

「そんな大きいかまぼこは売ってるわけないでしょ」

「最近発売されたんだよ!」

 誰が買うんだ。

「とりあえず、そんなのやめてくださいよ。恥ずかしいじゃないですか」

 床に座って、さっそく書き始めようとしているユーさんを止める。

「友華が書くんだろ? だッたら、ふつう数万はするぞ」

 勝手に俺のベットに、織田さんは勝手に座る。

 そうか、ユーさんって、そういえば天才(?)書道家だったな。そう見えないから、忘れていた。

「そんな有名な人に書いてもらえるのはいいんですけどね。かまぼこ板ってのがね」

「そんなこと言ったってね ~。もう書いちゃったんだもん」

 俺の顔に押し付けるようにして見せてくる。問題なのは……『椎名』ではなく、『マコくんの家』と書かれていることだ。

「こんなもん、表札にできるわけないじゃないですよ。おかしい人と思われる」

「わかりやすいでしょ」

「わかりやすいだろ」

 二人そろっていう。

「これ、何のいじめですか」

「「入部届にサインをしない後輩へのささやかないじめ」」

 やめてくれ。

「つまり、入部したらいいってことですか」

「「そういうこと」」

 この二人は、よくハモるな。

「ま、入部しませんけどね」

 予想外の反応だったらしく、目を丸くしている。

「いいの? これ、玄関に貼っちゃうよ」

「いいですよ。後で剥がすんで」

「オレ的にズルだと思うぞ」

「そんなルール知りません」

「ずるいずるい」

「うるさいですよ。ユーさん」

 突然、織田さんは立ち上がり、ユーさんの手からかまぼこ板を取ると、部屋の窓を開けた。外を眺めるのかと思いきや、そこから落ちた。

 きれいに足から。

「え! 織田さん?」

 急いで窓の外を見下ろす。

 織田さんが、こっちに向かって手を振っている。すると、家の表札の隣にかまぼこ板をよくわからんノリで貼った。

「これで怪我してないとか、何者なんだ」

「閏くんはカナちゃんとあたしのお友達で、元気いっぱいの男の子だよ」

「元気いっぱいなのは、ユーさんの方でしょ」

「そうかなぁ」

「そうですよ」

「……」

 突然、ユーさんが黙る。

「どうしたんですか」

「何もないんだけどさあ」

「何ですか」

「閏くんは、どうやってここに戻ってくるのかなってちょっと考えただけだよ」

 忘れていた。あの人ならば、どんな方法を使うかわからない。

 部屋を飛び出し、玄関のドアをあける。

 ゴンッ! と、鈍い音が外からした。

「いってぇ……」

 ドアの前で、織田さんがしゃがんでいた。

「何してるんですか」

「いつになったらドアを開けてくれるのかな~って、鍵穴覗いてた」

「見えるんですか?」

「普通に見えない」

「じゃあ、普通に待っておいてくださいよ」

「え、何で。さっき、オレがケーサツの人に声かけられたからか?」

「逆に、そんなことがあったんですか」

「いやー。まいちゃうね~。オレって、そんなに目立ってるんだな」

「悪い意味でですよ。人気者だ。みたいなノリで言わないでください」

「わるいわるい。今度からは、壁を登るから」

「普通に立っておいてください」


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