第五話 妹。そして家族事情
家に入って、家事をしているところだった母さんに一声かけると、階段を登って仕事部屋でもある自分の部屋に入る。
部屋の中には、ベッド、デスク、そして自分の作品やそのイラストを描いてくれたイラストレーターの画集やサイン。コミック化したデビュー作や作品のマンガもある。
カバンをデスクの横に置き、ベットに座る。
「はあ、一日でふつう疲れるか」
と、一階から誰かが二階に上がってくる音がした。
「真~。ご飯できたけど、どうする?」
マンガ見たくおたまを持った母さんが俺の部屋に入ってきた。
「服を着替えたら降りる」
「じゃ、リサも帰ってきたし先に食べ始めちゃうわね~」
じゃ。と、ドアをパタリと閉める。一階へ降りていく音が聞こえてくると、ベットの下から部屋着の入った箱を出し、着替え始める。
一階に降りると、母さんが先ほど言っていた通り、妹のリサと共に先に夕飯を食べていた。
「兄貴遅い!」
この口の悪いのが、小学六年生の妹とはあまり思いたくはない。疲れて帰ってきた兄に向っていう言葉じゃないだろ。
「まあまあ、真はあたらしい学校になじむのに大変なのよ。仕方ないでしょ」
と、かわいそうな息子をフォローする母は、とてもいい人だ。
「悪かったな、リサ。クラスメイトに部活の勧誘をされたから、見学に行っていただけだ」
とりあえず妹の隣に座る。そして、用意されていた夕食を一口ほおばる。
「小説書けなくなるけど、部活初めて大丈夫?」
「そのあたりは心配しなくてもいい。母さん」
「そう? お母さんは二人の味方だから、困ったことがあればいつでも言いなさいよ」
リサの食事をする手が止まる。
「お父さんのこともか」
俺の父親は、いわゆる有名な政治家でテレビや雑誌、新聞でもよく名前を見る。なぜか、俺が小説家をしていることに反対をしていて、あらゆることに厳しい。仕事が忙しいらしく、なかなか帰ってこない。いや……母さんが俺たちが自由に生活できるように追い出しているのかもな。
母さんとは違い、最低な父親だ。
「ええ。そうね……。あ、真。今日、どんな部の見学してきたの?」
「そうだよ兄貴! 何部の見学してきたんだよ」
二人同時に聞かれると、答えるしかない。
「……異常だった。一言で言い表すと」
「一言で言い表さなくていいから、具体的には、どんな感じだったの。気になる女の子でもいたんじゃない」
「ゔっ」
さすが母さん。親なだけはある。図星だったため、少しひるんでしまう。
「いるの! そう。今度、お母さんに紹介してちょうだいよ!」
「こんな兄貴にも、春は来るんだな!」
「春という季節がこの世にある限り、誰にでも来るだろう」
我が家の女子二人は、きゃっきゃと騒いでる。そのまま、部活の話なんぞ忘れてしまえばいいんだが。
「どんな子なの」
「何て名前なんだよ。写真はあるのかよ」
「えぇと、月見里天乃って名前で、少し変わっているがかなりの美人で」
「うんうん」
興味津々だな。
「どこまで言えばいいんだ」
「知ってること全部に決まってんだろ」
今後、リサには女の子らしい言葉使いを身に着けてほしいものだ。
「明日、お父さん帰ってこないらしいから、その天乃ちゃんは明日連れてきてね。もう、アドレスとかの交換はできてるでしょ?」
「いやいや。相手にも予定というものがあるだろう」
「聞くだけ聞いてみなさいよ~。真にはアタックする力がないから困るわ。早く孫の顔を見たいのに」
今の俺の歳だと、逆に早すぎだろ。
「あと十年は待ってくれ」
「楽しみにしておくわ。十年後は、二十五、六歳ね」
どうやったら、話題を変えることができるんだ。
「よし。ごちそう様」
空になった食器を重ねて、台所に持っていく。そして、すぐに自分の部屋に逃げるように戻る。
「逃げんなよ!」
リサがそんなことをダイニングから言っているが、完全に無視する。
急いで、自分の部屋のドアを閉める。
「一日でこんなにも疲れるものなのか……」
珍しく、パソコンを開かずベットに横になり、すぐに眠ってしまった。