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星屑クラブ  作者: 氷月 蓮
其の一
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第四話  強制入部。……かも

「早瀬~。前に頼まれたイラストできたぞ~」

 ぱちぱちと、ペンタブがつながれているパソコンを操作する。すると、部室の隅に置かれていたプリンターが起動し、印刷を始める。それが完了すると、織田さんは立ち上がってプリンターへ向かう。プリントされた紙を取ると、早瀬に渡した。そして、プリンターの横に置かれていた折り畳みの椅子を、俺に渡した。

「それに座っとけ。

 早瀬、そんなのになったが、どうだ?」

「うん。これでいいよ」

 ちょっと横から覗いてみるが、さすが特待生になる程の才能の持ち主というだけあってとてもうまい。

「そのイラスト、何に使うんだ?」

「これ? 今度のアルバムのジャケットにしようかなって思ってるんだけど」

 なるほど。こんなものを見ていたら、やっぱりプロだなと思う。


 ドアが開かれて、月見里が部室に入ってきた。こっちも、ビニール袋を持っている。

「ただいま。ジュース買ってきたよ」

 そして、俺を見る。

「真も来てくれたんだ」

「まあ、誘われたわけだからな。わざわざ誘ってくれて、ありがとな、月見里」

「天乃って呼んで。友達でしょ?」

 と、首をかしげる。友達か……。

「やっほ~! あっりがとー天ちゃん! さっき閏くんがアイス買ってきてくれたんだよ。次郎の冷蔵庫の中にあるよ」

「アイスあるの!?」

 天乃の顔が、パッと明るくなる。アイスが、そこまで好きなのか。

「うん、好き!」

 言ってないのに、何で思っていることが分かったんだ?

 俺を見る天乃の瞳が、きらきらと輝いている。

「どんなアイスなの?」

「チョコパフェ風だよ! よかったね、お気に入りのやつだよ」

「閏さんありがと」

「気にすんなよ~。たまたま売ってただけなんだから」

 そんな織田さんの言葉を最後まで聞かずに、天乃は次郎のほうへ行ってしまった。ジュースの入ったビニール袋を持ったまま。

 今気が付いたが、文化部で冷蔵庫があるって……変えありすぎてないか? 運動部なら、まだ分からなくもないが。一体、次郎と呼ばれている部屋には、何があるんだ。

「よし、真。これに、サインしてくれ」

 と、叶先輩が持ってきたのは入部届とペン。

「入部するなんて、一言も言ってませんよ」

「何を言っているんだ? 見学しに来たんだろ。だったら入るべきだ」

 どこからどうしたら、一体そんな理屈が生まれるんだ。

「まあ……入部のことは、考えておきます。さようなら!」

 カバンを持って、部室から飛び出す。簡単に言うと、逃走。本能的に、身の危機を感じたからだ。

 今の自分の出せる最速のスピードで、廊下を走る。教師に見つかったら、怒られるだろうな。

 ……おいおい。かなり部室から離れても、星屑クラブの本拠地からは叶先輩や織田さんの『待て!』や、『入部しろ!』というような声が聞こえてくる。

 そんなことで、俺がスピードを緩めることはない。

 ダッシュで階段を降り、教室棟のほうへ、渡り廊下を使って移動。下駄箱で、靴を履きかえる。

 ふと後ろを見ると、廊下の向こう側に織田さんの影が。右手にはペン。左手には入部届を持って、獲物を追うチーターのように俺を追いかけてくる。

「速!」

 追いつかれまいと、俺は再び走り出す。

「おい待て! これ書いたら終わりだろう!」

 それを書いたら、精神的に死んでしまうような気がする。

 本能が、俺にそう伝えている。

「は……はっ」

 やはり、ずっと部屋にこもって小説を書いているだけの生活を今までしてきた俺には、このような激しい運動をするのはつらい。

 イラストレーターのはずの織田さんは、全然息が上がってない。なぜだ? 運動まで、できてしまうのか。本当にただのイラストレーターか! あ、天才イラストレーターか。

 角を曲がり、地下鉄の改札への階段を降りる。そして、急いで改札を通り、ちょうど発車するところだった電車に乗り込んだ。

「はーっ」

 とりあえず一安心。ということで、深いため息をついた。いくら走るのが速い織田さんも、ホームのほうまでは入ってこれていない。

「お前、なに駆け込み乗車してため息ついてんだ?」

 声の主。中田が、陸上の本を持って椅子に座っていた。何でこんなところに? と、思わんこともないが、帰宅部の生徒は下校してもおかしくない時間帯なので、気にしない。というよりも、何で陸上の本を持っているんだ。そっちのほうが疑問だ。

「いや、別に。部活見学が終わったんで、帰ろうとしているところだ」

 今日起こったことは、言わないでおこう。

「本当に行ったんだな。あの部に。で、どうだったんだ?」

 やっぱり聞いてくるか。

「誰もが、一週間でやめた理由がよくわかったような気がする。とだけ言っておこう。よさそうな人たちなんだが、なんというかな」

「やっぱりな。織田さん以外は、そうだっただろ」

「はい?」

 耳を疑ってしまう。

 いやいや違うだろう。中田くんや。あの人が、一番まともじゃないだろ。

「勉強ができて、かっこいいし、絵はうまい。ってことで、完璧人間で女子にモテる人だよ」

「運動もできるのか?」

「おう」

 当然だろうといわんばかりのいい返事だ。

「話は変わるが、お前その本持ってるが一芸試験の時何したんだ?」

「……」

 おお、元気な中田が黙っている。

「椎名。転入してきたときに言われなかったか。自分の才能は隠せって」

 何やら、ファンタジーマンガでいいそうなセリフだな。

 何か言われたか、少し思い出してみる。

「何か言われたような気がする。が、思い出せないな」

「ウチの学校では、一年の二学期まで一芸は秘密にしとくんだよ。月見里とかみたいに有名だったりしない限りは」

「何で、そんな面倒なことをするんだ」

「二学期のはじめ、みんなが学校になじんどきたころに全員ぶっちゃけてワイワイ似た者同士で楽しもうってイベントだよ。イベント」

「なるほど」

 早瀬の一芸を知っているが、そういうのは伏せておいたほうがいいのか。

 電車が、次の駅に着いたので止まった。

「じゃあな。オレここだから」

 と、中田は席から立ち、電車から降りた。

「ああ。また明日」

 そう声をかけ、中田の姿が見えなくなったのを確認すると、カバンからタブレット端末を出す。俺が、小説のネタを考えたりするときに使っているものだ。

「今日も、長い夜が来るのか」

 誰にも聞こえないほど小さな声でつぶやく。

 学校に行っているので、原稿を書く時間が限られている。それは小学生のころから変わっていないのだが、そのせいで睡眠時間を少し削って夜に書いている。

 電車が、家の最寄り駅に付いたので、急いでタブレットをカバンに姉妹、急いで降りる。そして、家に向かう。


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