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星屑クラブ  作者: 氷月 蓮
其の一
4/37

第三話  ようこそ。星屑クラブへ

「うぐぅ!」

 背中から誰かが突然、俺の首に腕を回し、首を絞めるようにして後ろへ体重をかけた。苦しさのあまり必死に腕を外そうとするが外れない。

「ぐ……」

 すると、ぱっと、腕が離れた。

「ごほっげほっ。なんなんだ一体」

 後ろを向いてみる。そこには、先ほどまで書道をしていた小柄な女子生徒がいた。

 右の親指を立て、言った。

「グッジョブ。いいリアクションだよ!」

 いや。本気だったんだが。

 顔や手以外にも制服にもちょくちょく、墨をつけている。

 って、人の首を絞めておいて、何を言ってるんだ、この人は。

 こんな人を特待生にしていると思うと、この学校は一体どうなっているのか、疑いたくなる。

「あなたの名前を教えてもらえませんかぁ!」 

 元気いっぱいだな。いいことだ。人の首を絞めていなかったらな。元気ありすぎだろ。この人なら、子供たちのヒーローの某アニメキャラクターにも勝ちそうな気がする。瞬殺しそうだ。

「普通なら、自分から名乗るのもなんじゃないか?」

「そうだね。リョーカイであります! あたしは、豊川友華。二年生のC組であります!」

 せ、先輩だったのか。意外だ。結構背が低いしな。何よりも、変わった人だ。

「はいはい! 次は、あなたの番でーす。お名前は?」

「俺は――」

 その時、奥のドアの向こうから、早瀬がお茶のペットボトルとグラスを六つお盆にのせて出てきた。

「待たせてごめん。叶先輩を連れてくるのに手間取っちゃって」

 早瀬の後ろから、続くようにして女子生徒が出てきた。

「すまないな。わざわざここまで来てくれてというのに、待たせてしまったようで」

 女子にしてはかなり長身で、モデルのようにすらりとしている。それだけ言うと、彼女は数式の書かれたメモだらけの壁のほうに向かい、その前の椅子に座った。

 その人の名前を知るため、デスクのネームプレートを見た。「桜庭叶」と書かれている。

「カナちゃん、カナちゃん」

 豊川先輩が、桜庭先輩にくっつく。

「どうしたんだ、友華? 閏だったら、仕事に行ってるぞ。もうすぐ帰ってくる時間だ」

「ちがうよ! もしかしたら、この子もあたしたちと同じかもよ」

 豊川先輩と……同じ? この変人とか?

「やはり、そう思うか。天乃もさっき同じことを言っていた」

 月見里も、俺と豊川先輩が同じと言っていただと?

「話、ついていけてないよね」

「そうだな。大丈夫じゃなくなってきている」

 助かった早瀬が気づいてくれて。

「ねえ、叶先輩マコが、話についていけてないって」

「マコ? ……ああ、君が、あの椎名真くんか。私は、この部の部長をしている、桜庭叶だ。できれば、叶と呼んでほしい」

「はい。よろしくお願いします。叶先輩」

 そういうと、先輩は微笑んだ。

「よし。では、さっそくこの部について説明しよう。

 椎名。この部のメンバーが全員特待生だということは知っているな」

「はい。クラスメイトにききました」

「ここが、天文学部ではないことも知っているな?

 天乃がそういったことをしているので間違える人がいるが」

「はい」

 それは、きいたことが無くとも見たらわかる。

「では。なぜ『星屑』などと劣等感を与えるような名前になっているのか。わかるか?」

 俺は、首を横に振った。

「自分で言うのもなんだが、メンバーは全員『天才』だの『秀才』だのなんだの言われているものたちばかりだ。なのに、なぜ『星屑』なのか? 星屑は、いわばただの宇宙ゴミだ。なのに、なぜ? そうは、思わないか」

 言われてみれば、そうかもしれない。

 いったいなぜ。

「正解はな、『私達天才は、一つのことにしか長けてない』からだ。だからこそ、劣等生なんだ。普通ならば、学問、運動、趣味など、様々なことができるのが普通だろう。そんな奴らは、私達にとっては『輝く星』だ。

 私たちは、それに比べたらただの星だ。そういう『クズ』ということで、『星屑』という名前にした。

 周囲の期待に応えるので精いっぱいで、答えられなければ、すぐに切り捨てられる……そんな恐怖が、いつも迫ってきているんだ。君にも、そういうことがあるだろう?」

「そうかもしれないですけど、それがどうしたっていうんですか? 俺には、関係ないでしょう」

 ばれているのだろうか――あのことが。

「君も、なぜか隠しているようだが特待生なのだろう。『天才』小説家、寿太一くん。君は、小学生の時かの有名出版社の新人賞を最年少記録をぶち破って取ったんだそうじゃないか」

なんで、そんなことまで知っているんだ。

「先輩の……」

 言っていることは、すべて合っていますよ。と、言おうとした時、ビニール袋を持った生徒が部室に入ってきた。

「カナさーん。アイス買ってきたけど、食べねーか?」

 次に登場したのは、すらっとしたいわゆるイケメンといわれる部類の生徒で、爽やかなイメージが合いそうだ。おそらく、先輩だろ。

 ビニール袋を叶先輩に渡すと、『織田閏』と書かれたプレートが張られているデスクの椅子に座った。

 オダな……あの有名な戦国武将と同じ苗字か。すごいな。

 もしかしたら、子孫じゃ……そんなわけないがな。

「今日は暑いだろ? オレの分食っていいから、先にアイス選べ。真」

 何でこの人は俺の名前を知ってるんだ? 謎だらけの部だな。

「椎名のことは、先ほど全員にメールで送らせてもらった」

 叶先輩は、自分のスマートフォンを出す。

「そうですか」

 じーっと、その人を観察する。

「んだよ? 同性愛者は受け付けねーぞ」

「なぜ、そうなる!」

 口を開くと、台無しになるパターンの人だな。

「おーい。真。さっさとアイス選べよ。溶けんだろ。メールが、戻ってくる途中に来たから、五個しかないが、気にすんな」

「はい。いただきます」

 叶先輩からビニール袋を受け取り、中を覗く。

 イチゴに最中風。オレンジのシャーベット、抹茶ソフト、チョコパフェ風の計五つ。

「じゃあ、オレンジのシャーベットを……」

 ガタン。

 何かが落ちた。音のほうを見ると、早瀬のマウスだと分かった。

 ギッと、こちらを見てくる。これを食べたいということでいいのか?

「オダ先輩は、何を食べようと思ってたんですか?」

「……」

返事が返ってこない。聞こえているはずなんだが。

オダ先輩の手が、かすかに震えてるような気がする。

「あ~。マコくん。閏君は、『オダ』じゃなくて……」

 だん! と、オダ先輩(?)は、椅子から勢いよく立ちあがった。

「いいか? よく聞け! いいか? いいか! 俺の苗字を間違ったのは、お前で千人目だ!」

 千人にも間違えられらのか。通常ありえない人数だと思うがな。本院が言っているのであれば、そうなんだろう。

「はははは……よかったな。記念すべき千人目で!」

 めが笑っていない。恐怖心を覚える。そして、『千人目』というところを、無駄に強調してくる。

 まさに、残念すぎるイケメンとは、このことだ。

「え~と。すいません。織田先輩」

「わかったんだったらいいぜ。あーと、オレ、堅苦しいの嫌だから。織田先輩ってのは、やめてくれ」

「じゃあ、織田さん」

「よし。オレ、二年だから」

 俺の手からひょいっとビニール袋を取ると、最中風のアイスを取り出し、俺に渡す。これを食べるつもりだったんだな。

 アイスは、すべてそれぞれの好みに合わせて選ばれていたらしく、せっせと渡していく。

 叶先輩には、抹茶ソフト。ユーさんには、イチゴ。そして、早瀬にはオレンジのシャーベット。残ったチョコパフェ風は、先ほど叶先輩が出てきた奥の部屋へと持っていかれた。

「向こうの部屋って、何があるんですか?」

 気になるので、聞いてみる。

「あ、次郎のこと? 部員以外には、秘密なんだよ」

 ユーさんが、答えてくれた。

「じ……ろう?」

 なんだ? 犬の名前か?

「うん! あの部屋の名前だよ。そっか、わかんないよね。書いてないもん」

 と、言うと、アイスを高速で食べきり、自分のデスクである床スペースから、硯やら大筆やらを持ってきて、木製の次郎のドアの前に置く。そして、正座。

 何をするつもりなんだ。

「いざ、ゆか~ん!」

 筆を掲げて、ドアに突き立てる。そのまま、サラサラと筆を動かし、書き上げてしまった。『次郎』と。

 ユーさんとは、豊川友華先輩のことだ。さっき、『ユーさん』と呼ぶように言われた。


「編入試験の時に言われたが、この学校は成績よりも、才能が評価されると聞いたんだが」

 同級生ということもあり、一番話しやすい早瀬に声をかける。

「そうだね」

「お前は? 二台の パソコンやら、楽器やらを使っているみたいだが」

 楽器とパソコンなんて、かけ離れすぎてるだろう。

 この学校では、入試(または、編入試験)の面接時、試験官に自分の特技を披露しなければいけないいわゆる一芸入試ならぬ、一芸試験がある。

 そして、大半がこれで落とされるという。反対に一芸試験をクリアしていれば、筆記試験はどんなに悪くとも合格になる。らしい。

「言ってなかった?」

「教えてもらってないな」

「そっちのを聞いたから、そのつもりになってたよ。椅子、どいて」

「あ。悪いな」

 ずっと座っていた早瀬の椅子から立つ。

 早瀬は、自分の椅子に座ると、よくわからんソフトを開いたりとしていく。

「これだよ」

 画面の前からどく。が、いったい何なのかわからない。

「これは、なんなんだ?」

「あ、わかんないか」

 わかるわけがない。

 早瀬は、棚からどんっかわいらしいキャラクターが描かれたDVD……らしきもの。違うんだろうが。

「とある会社が開発した、音声合成技術ってのを使って作られたソフト。これ、結構なすぐれものなんだよ」

 話が変わってきている気がする。

「どんな風にだ?」

「歌うんだよ」

 なるほど?

「最近ネット上で話題になっているやつだな」

「そうそう。僕は、これで曲を作ってるんだよ」

 次に棚から出したのは、一枚のCD。

「最近出したんだけど」

 見たことがある。最近人気で、アイドルみたいになっている声優が歌っているものだ。コマーシャルやら街中のポスターやらでだ。

 『綾野しの×ヒグラシ』と、アーティスト名が書かれている。

「これって……」

「そうだね。僕、ヒグラシなんだよ」

 ヒグラシ――数年前より動画サイトで人気沸騰中のクリエイターで、現在若者を中心に大人気のアイドル声優、綾野しのがCDを出すようになってからは、専属のクリエイターとしても活動しているという謎多き人物……

「お前、すごい有名人なんだな」

「らしいね」

 本人は、自覚していなかった。

「ユー先輩は書道家で、閏先輩はデザイナーとかイラストレーターとか……そんな感じのこと。で、叶先輩は、数学者」

 いろいろなジャンルの人がそろっているな。


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