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星屑クラブ  作者: 氷月 蓮
其の一
22/37

第二十話  お使い。カフェ

「こちらになります」

 店員が、レジの奥から店のロゴが書かれている白い箱を持ってきた。

「でかくはないか」

「そうだね。マコ、持ってくれないかな」

 箱の大きさは大体、家族の海外旅行で使うトランクといったところだな。

「注文通りのサイズ、デザインでお作りしております」

 もう服になっているのか。仕事が早すぎるな。

 すでに取っ手のついている箱を受け取る。

「ここでは、もう買う物はないか」

「ないね。次は、スーパーに夕飯の材料を買いにいこう。と言っても、ほとんどが学校の調理室にあるらしいから、ちょっとだけだね」

「これを持ってか?」

「それしかないでしょ」

 手芸店の自動ドアを抜けると、そこから一番近いスーパーに向かうため、右に曲がる……はずだったが、早瀬はなぜか左に向かった。

 空を見上げると曇っていて、今にでも雨が降りそうだ。

「雨が降りそうだぞ。急いで買い物を終わらせないと」

 早瀬は、それでも進んでいく。

「こっちのスーパーのほうがいいんだよ」

「そっちのは、遠いと思うぞ」

 わかってるよ。と笑顔で早歩きで行く。

 思い荷物を持っている俺のことは、気にしないのか。

 あの笑顔。何か考えているな

「スーパーの方は、早瀬が持ってくれるんだろうな」

「重さによるよ。僕、体力無いから」

「今朝、廊下を走っていただろ」

「逃げ足だけ早いんだよ」

 なるほど。

 それから歩いていると、すぐに雨がポツリポツリと降り始めてきた。

「俺が持っているこれは、衣装なんだろ? 濡れたら大変なんじゃないか」

「そうだね。うん。そうだよ! あの店で雨宿りしようよ」

 早瀬が指さしたのは、とあるカフェ。おしゃれな雰囲気で、女子が好きそうだ。

 ガラス張りの正面からは、ケーキの並ぶショーケースやカフェスペースが見えている。

 横の早瀬は、それらを見て瞳を今まで以上に輝かせている。

「……このカフェが、目的か」

「エ、チガウヨ」

 明らかにウソをついているな。それは、言葉からだけではなく、表情。そのほかにもバックからいつもつけていルヘッドフォンを取り出し、頭に装着して完全に現実逃避のようなことをしている。

「そんな事だったら、初めから言っておけばいいものを」

「これ以上ここにいたら、本当に濡れちゃうね。急ごう」

 はいはい。やれやれ。


 ガラスのドアを早瀬に開けてもらい、中に入る。ドアのベルが、小さく鳴った。

「いらっしゃいませ!」

 どこかで見たことがある店と思えば、この前早瀬がネットで見ていた小山の店か。

 パティシエ……女の人だからパティシエ―ルか。その恰好をしている小山が厨房から出てきた。

「椎名くんって、彼女いたんだ! クラスの作業ほったらかして、デートかぁ」

「違う違う。椎名には、月見里がいるからな」

 カフェスペースの奥には、ウェイトレス姿の中田。

「何で二人ともここにいるんだ」

「あたしの両親が、ちょっとお店にいられなくなったから、あたしが店番に来たんだよ」

「中田は、居る必要がないだろ」

「バイトが、珍しく誰もいなかったんだよね~。だから、クラスで女子に人気の中田くんに援護を頼んだってわけ。で、今はお客さんがいないから、くつろいでもらってた」

 なるほど。そういうことか。

「でよ。椎名。その子誰だよ?」

 と、中田は早瀬を見る。

 本当に男だってばれてないのか。すごいな。

「前に一度捕まえようとした相手を忘れるなんて、なかなかいい度胸してるよね」

 バックの中から、生徒手帳をだし、貼られている自分の写真を見せる。

「君、人の大事な物勝手に取ってくるのよくないと思うけど」

 真っ白なクリームが付いた泡立て器を片手に、小山がカフェスペースに出てきた。

 そこまで気が付かないのか。写真と顔が似てるから、もう気が付いていておかしくないはずなんだが。

「あっ! C組の女装が何とかってやつか! 茅蜩ってのか。こっち座れよ」

 俺が客への言葉か。

 早瀬は、一番近かった四人席に座る。

 小山は、まだ早瀬を疑っているらしく、ギロッと俺や中田を見ると厨房の方へひっこんでいった。

「お前も座れよ」

 中田が早瀬の前に座ったので、俺はなんとなく真剣にメニューとにらめっこをしている早瀬の横に座る。

「すぐ決めて、すぐに食べて帰るぞ」

「うん。そうしようか」

「何で、持ち帰りとかにしないんだ?」

「カフェスペースでしか注文できない、パフェとかワッフルとかもあるんだよ。マコも、中田くんも、よくそんなことも知らないでこの店に来たよね」

 俺は、早瀬に連れてこられただけなんだが。

 中田は、そうなのか。と、なぜか納得している。

「僕。これにしようかな」

 一つの写真を指す。チョコレート生地のワッフルに、フルーツやアイスが乗っている。

「それは、俺に奢れと言っているのか」

 お値段七百五十円。紅茶付のセットだと、八百五十円。写真の下に、そう書かれている。

「どう?」

「だから、どういう意味で言っているんだ」

「ありがとう。払ってくれるんだね」

「誰がそんなことを言ったんだ?」

「じゃあ、自分ではらうよ」

 うん。それが普通だ。

「中田くん。これの単品お願い」

「よし、わかった」

 なぜか、中田は注文用のメモにメニューの名前だけでなく、値段まで丁寧に書いて厨房の小山のもとへ行く。

「了解! 偽生徒、そこで待っとけ」

 どこかのアニメのキャラが言いそうなセリフを吐くと、

「シャーァァ!」

 厨房の中から小山のものと思われる奇声が聞こえてきた。

「何だ、今の声」

 びっくりしたのは、おれがけではなかったらしい。

「マコ。部活がなくなるのは、何かの悪い冗談なんじゃないのかな」

 いきなり、重い話になる。

「事実だろうな。俺の父親は、冗談なんかを言うような人間じゃない」

「どうしてそんなに無くしたいんだろうね。マコのお父さんは、関係ないはずなのにね」

「親父は桜庭学園の卒業生らしくてな、今のだらけた学園が自分のフライド的に許せないらしい」

「へえ。時代は、常に変わりゆくものだから、仕方ないと思うんだけどね」

 ダン!

 そんな大きな音が、もやっとした空気をどこかへ吹き飛ばしていった。

「お待たせしました~。偽生徒さん」

「小山。こいつは本当にウチの学校の生徒だ」

 中田が、小山を説得(?)する。

「本当に?」

「本当だ。今度C組に顔出してみろよ」

「中田くんがそこまで言うんだったら、本当なんだろうね。ごゆっくりどうぞ。女装がお似合いの茅蜩くん」

 ピキッと一瞬。ほんの一瞬だったが、早瀬の額に青い筋が見えたような気がした。

 小山が持ってきたワッフルをがつがつと食べる。

「なんか悔しいけど、やっぱりおいしいね。お代はここに置いておくよ」

 カバンを持って、椅子から立つ。

「どこに行くんだ」

「どこって……スーパーに決まってるじゃんか。雨はもう上がったよ」

 ここに寄りたくて仕方なかったやつがよく言う。

「はいはい。そうだな」

 俺も立ち、大きな衣装の入った箱を持つ。

「ごちそう様。美味しかったからまた今度来るよ」

 厨房の小山に一声かけると、早瀬は店を出た。俺もそれに続く。

「マコ。もうスーパーはいいって。足りそうだし、明日の朝は明日でコンビニに買いに行けばいいってことになったって」

「そうか。じゃあ、部室に戻るか」

「うん。どうやら、みんな一品ずつ作って、みんなで食べるって。僕はもう決めたけど、マコは何作る?」

 料理か。調理実習でしかしたことないぞ。何だったら作れるだろうか……

「じゃあ、卵焼きでも作るか。早瀬は、何にするんだ」

「肉じゃがだね。一番の得意料理なんだよ。綾芽は仕事が忙しいから、家のキッチンは僕の領域なんだよ。だから、ある程度は作れるよ。おいしいかどうかはわからないけどね」

 歩き始める。

「お前のところも、東雲のところも、両親とも働いているということか?」

 その瞬間、早瀬の表情が曇った。

「僕の方も、綾芽の方も、僕らが小学生だった頃に海外へのライブへ行く途中の飛行機の事故で亡くなってるよ。僕はもう平気だけど、綾芽の前でその話はやめてね」

「すまなかったな。そんなことを思い出させてしまって」

「いいよ。今でも写真を飾ってたりしてるし」

「よければ、どんなことをしていたか教えてもらえないか」

「みんな歌手だったり作曲家だったりだよ。バリバリ遺伝子を受け継いでいるとおもってくれればいいよ」

 ほお。すごいな。家族で音楽家なのか。

「東雲は、合宿に来れそうなのか?」

「うん。夕方には来れるって今朝言ってたんだけど。もしかしたらもう着いてるかも」

「そうか。叶先輩や織田さんは別として、ユーさんや天乃は料理できるのか」

「どうだろうね。ソラは料理したことないって言ってたけど」

 赤になっていた信号が、青に変わったので、再び歩き出す。

 空が、徐々にオレンジ色へ染まっていく。


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