番外編 其の一 ハロウィン。間違え
ちょっと遅くなってしまいましたが、ハッピーハロウィン!!
もともとは、お祭りじゃなくて、キリスト教の悪いものを払う(悪魔とか)イベントだったらしいですよ!
(ほかにもいろいろありますけど)
「ハッピーハ~ロウィ~ン!」
そう言って教室に入ってきたのはクラスメイトの小山李那。オレンジ色のとんがり帽子にオレンジ色のマント。ハロウィンバージョンの魔女の衣装姿だ。
現在は昼休み。しかもたった五分前に午前最後の授業が終わったので、ほとんどの生徒が食堂や天気がいいので野外で昼食をとっている。教室は普段より静かになっていた。
そんなところで派手な格好をして、さらに大声でそんなことを言っておいて、目立たないわけがない。放送部のちょっとした厚意で、昼休みはずっとBGMのようなものが流れているが、小山の声と比べるととても小さい。
そして、俺、椎名真はいつも通り、席が隣の中田と机を合わせて向き合い、咲原が俺の右側に少し離れたところにある自分の席から椅子を持ってきて食べていた。始めは小山もいつも通りあれの左側に座り、二つの机を合わせることによって正方形に近い形となった机を囲んで食事をしていたのだが、急に鞄を持ってどこかに行ったかと思えば、着替えていたんだな。
「り、李那。魔女っ娘のコスプレよく似合ってるよ!」
驚きのあまり教室内に生まれてしまった沈黙の数秒間のあとの咲原の第一声は、どう考えてもフォローにはなっていなかった。
「あ、うん。アリガト。フォローしてくれて。マジで」
ちょっと落ち込んでいる。
「お、俺も似合ってると思ってるからな! 大丈夫だからな!」
なぜ、いま焦ってフォローしたんだ? それは逆効果になりかねないぞ、中田!
「う、うん。中田君もありがとう」
ずん。と先ほどよりももっと暗い返事をした。
「……で、なんでそんな恰好をしているんだ? いくらハロウィンだったとしても」
「ちっちっち。椎名くんはわかってないな~。あたしはみんなにお菓子を振りまく魔女なの! 今日限定で」
そういえば、大きなバスケットを持ってるな。
「さあ、三人とも、ハロウィンの合言葉をお願い! ……せーの!」
こ、これ、俺もいうのか? あ、言わないといけない雰囲気だな。これは。
「おっ、お菓子くれないと爆発しちゃうぞ!」
「トリックオアホリック!」
「……トリックオアトリート」
ほぼ三人同時に言ったが、順に咲原、中田、そして少し戸惑ってしまった俺。二人が明らかに違うんだが、これはどういうことなんだろうな。
「……ねえ。なんか違う人いなかった?」
「明らかに二人おかしいぞ」
おかしすぎる。今までは知っているのが常識だと思っていたが、これは知っているほうがレアなのか? いやいや。そんなことはないだろう。
「そ、そうかな。変かな? どうなんだろうね、修治くん?」
「ん~。どうなんだろうな?」
どうなんだろうな? じゃないだろ。
「ではでは、一人ずつ確認していこうか。椎名くんは正しいこと言っていたと信じてるから、他、天然二人組! まずは星華! なんて言った?」
びしっ。と小山が咲原を指差す。
「お、お菓子をくれなきゃ爆発しちゃうぞ」
「それ、ただの警告だろ」
咲原の明らかにおかしいというレベルを超えたオリジナルの合言葉にツッコみを入れる。
「それを言うなら、『お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ!』でしょ」
「そ、そうなんだね。今ちゃんと覚えたから、これからは忘れない」
いやいやいやいや。
「はい、次。中田くんはなんていったの?」
「普通にトリックオアホリック」
全然普通じゃない! なんだよホリックって。
「『ホリック』じゃなくて『トリート』。お菓子のこと。わかった?」
「お、おう。わかった。覚えたからな!」
これ、覚えるとかのものじゃないだろ。
「あ、でもさあ、ホリックってどういう意味なんだろうね。ちょっと気になる」
ずっと立っていた小山は、いつもの定位置に座った。
「確か……中毒とかって意味だったと思うよ。アルコール中毒とかの中毒」
「さっすが星華! 頭いい」
「えへへ。そうかなぁ」
「と、なると、イタズラか中毒のどちらかを選んでいないといけなかったんだな。怖い怖い」
自分で言ったんだろ。
「あ、だったら中毒は中毒でも、食中毒になっちゃうね」
と、小山。
「「あ~。はるほど」」
咲原、中田。お前らは一体何を納得したんだ?
李那が作ってきたお菓子は、スタッフが残さずおいしくいただきました。