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星屑クラブ  作者: 氷月 蓮
其の一
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第一話  初夏。一年A組にて

 初夏。太陽が、ジリジリとその輝きと熱気で体力を奪っていく。

 全国各地から優秀な生徒を集めている桜庭学園。地方から来た生徒のため寮まである、かなり複雑なつくりになっている初等部から高等部の校舎が並ぶ広大な敷地。そこから大通りを一本東側に行くと、幼稚部。北側と西側には大学がある。そんな学園の高等部。一階に並ぶ一年の教室。その一つに俺はいた。

「あ……つい……」

 俺は、教室の自分の席で、机に身を投げ出し、できるだけ体力を失わないようにしていた。

 頭の中は、暑いということはもちろん。昨日の少女のことでもいっぱいだ。

「大丈夫かよ? ほい」

 頬に冷たいものが触れた。

「冷たっ!」

 驚いてしまい、はねるようにして起き上がった。

「うっす。椎名」

「ああ」

 チラリと、横目でそいつを見ると、クラスの中で数少ない俺が名前を覚えている中田というやつが、炭酸飲料のペットボトルを持って立っていた。

「どうしたんだよ?」

 よほどぼーっとしていたんだろう。そうきいてくる。

「いや。別に何もない」

「そんなことねーだろ。何があったんだ? ダチなんだから、なんでも相談しろよ」

 背が平均よりも高く、女子から見ると『かっこいい』という部類に入るらしい中田が、俺の隣の席――自分の席にガタガタと椅子を引き、座る。

「ま、まさかとは思うが、恋でもしたか」

「ああ……」

 言ってしまった後に気がつく。

 やってしまった! つい、恥ずかしいことをさらっと言ってしまった!

 無意識に、そう答えてしまった!

 中田は、先ほどのペットボトルを開け、炭酸飲料をぐいっと飲むと、再び会話を開始する。

「マジか! で、相手はだれなんだよ」

ニヤニヤと面白がって聞いてくる。

……もう遅い。

「なんで、そんなことをきくんだ?」

 なんのメリットもないだろうに。

「そんなもん、気になるからだろ。相手は、だれなんだよ」

 そんな単純なことで俺のプライベートに入ってくるのか。

「……昨日初めて会った。だから名前は知らないが、いきなり俺に質問してきたんだ」

「なんてだよ」

「星は好きか? だと」

 すると、ガタっと驚いたように椅子から立ち上がった。そして、俺の肩をつかむ。

「椎名。いいか? そいつだけは、やめておけ」

「それは、本人に失礼じゃないか」

あんまりだ。

 

 ドアが、ガラガラっと開かれ、クラスほぼ全員の視線が、そちらへ集まる。

俺もその流れでそちらを向いた。

見たことのある少女だった。

  なんと、昨日の少女だ。

 少女は、キョロキョロと、何かを探すようにクラスの中を見渡す。

「見つけた」

 そして俺の方へ、向かってくる。

 こいつ、同じ学校だったのか。気がつかなかった。

 だから、昨日あんな風に言っていたんだな。

 これからは、真面目にクラスのやつの顔を覚えないとな。

「ねえ。真って呼んでいい?」

と、俺の机の前に立ってきく。クラスの視線が、かなり気になる。

「ああ。構わないが……」

「そう。よかった。気になったら、放課後に部室棟三階の『星屑クラブ』に来て。わたしも入ってるんだけど、みんな歓迎してくれると思うから」

 メモを、俺の机に置く。

 そんな風に、見られているのだから、彼女は人気者なんだな。と思っていたら。あたりから、ヒソヒソとした、

「『あの』部活に?」

 や、

「転校生を勧誘するなんて……椎名くんがかわいそう」

 なんていう会話がきこえてくる。どいういうことだ。

「それじゃあね」

 と、彼女は言い残し、かなり離れた自分の席について、分厚い難しそうな本を読み始めた。同じクラスだったんだな。


「お前、すごいやつに目をつけられたな。さっきのやつのことだろ。恋のお相手は?」

 中田が、小さな声で話しかけてくる。

「そうだ。間違いない」

 俺は、彼女が机に置いていったメモを見る。

 彼女の名前は、『月見里天乃』というらしい。

「ツキミザトアマノ……」

「そう読むんじゃねえんだよ。あいつの名前は。

 それは『ヤマナシソラノ』って読むんだ。普通読めないよな」

 へえ。そんな風に読みづらい名前もあるんだな。

「で、この『星屑クラブ』ってのは、天文部……」

「違う! 全く違うぞ!」

田中はあまりにもオーバーなリアクションをした。

「天文部みたいな平穏で普通のクラブじゃない。な、なんというか……と、とにかく、行かないほうがいい」

 普通じゃないのはまだいいが、平穏じゃないってなんだ? 平穏じゃないって。

「なんでだ」

「まず、星屑クラブってのは、全員特待生なんだよ」

「すごいな。で、それが、どうしたんだよ」

 だからなんだというんだ。

「多少近寄りがたいのはわかったんだが、誘われたんだから行かないとな」

「そんなに行きたいんだったらとめないけどよ。そいつらただの特待生でなければ、ただの天才でもねえんだよ」

「月見里もか」

「おう。あいつは、天文学のエキスパートだ。小学生の頃に、なんかよくわかんねえがすごい論文を出したらしい。宇宙の謎を解いちまうようなやつ。ノーベル賞ものだと」

 普通の人間とは、いる世界が違うということか。

「あ、あと、星屑クラブについて、まだあるぜ」

「なんだ?」

「いま、五人いるんだが、その五人以外で入部した奴は、全員一週間以内にやめてるんだと」

 いったい、何が起こってるんだ……

「だとしても、行ってみないとわからない」

「……そうか。まあ、頑張れ。俺は、お前の味方だからな」

 何を言ってるんだ。こいつは。


「おーい。席につけ」

 担任の教師が入ってきた。


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