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星屑クラブ  作者: 氷月 蓮
其の一
14/37

第十三話  住宅街。おおきなお寺

外は蒸し暑く、体中からじわじわと汗が出てくる。

「一番近いコンビニって……」

 住宅街ということもあって、あたりの家の明かりがあるので暗いとは思わない。

「おっ。マ~コくん!」

突然後ろから聞こえてきたユーさんの声。

「ユーさん。何してるんですか」

俺は振り返った。

「コンビニにアイスを買いにきたんだよ」

ほらほら〜。と、持っているビニール袋を俺に見せる。

その時、ケータイが鳴った。叶先輩からの電話だ。

「もしもし。なぜかユーさんが居るんですけど……」

『よし。成功だな。友華に案内をさせる』

ブチッ。

電話を切られる。

「あ、そうだった! マコくんを案内しないとだったよ!」

と、ユーさんはビニール袋を振り回す。

「どこに案内されるんですか?」

「あたしの家だよ。朝まで、あたしとマコくんとかなちゃんでガールズトークでエンジョイしちゃおうよ」

俺は男なんだが。

「ごめんね。アイス二人分しかないや」

「そんなの気にしませんよ」

「そっか。マコくんはカナちゃんにプロポーズするんだね」

なぜそうなるんだ。

「違いますよ」

「そんな隠さなくたっていいよ」

「本当に違うんですけど」

「そんなデレデレしなくていいから」

もういい。

叶先輩にちゃんと説明すれば、わかってくれるだろう。そのくらいの常識とかはあるはずだ。

「ほらほら。早く行こうよ! アイスがなくなっちゃう」

「アイスは無くなるんじゃなくて、溶けるんですよ」

「なるほど。さすが小説家だね」

関係ないだろ。

「あたしの家はこっちだよ!」

「ちょ、引っ張らないでくださいよ」

ビニール袋を持っていない方の手で、がっちりと腕を掴まれる。

「にょくにょくにょ〜く」

訳のわからない歌を歌いながら、俺を案内というよりは、スキップしながら引っ張って行く。

――寺の階段を。

階段でスキップって。どんだけ器用なんだ? それよりも、危険だ。

「危ないですって!」

「なにがかな」

「おわっ!」

 急にスキップをユーさんがやめるので、落ちそうになる。

「人の腕をつかんだままスキップして階段を登るのがです」

「で、どうして欲しいのかな。マコくんや」

「一人で歩くんで、手を離してください」

「よし。いいだろう」

ぱっと俺から手を離すと、またスキップして階段を上がっていく。

「にょくにょく、にょくにょく」

「さっきから気になってたんですけど、その曲何ですか?」

「う〜ん。タイトル忘れた」

てっきり、ユーさんが自分で作った曲かと思っていた。

「パソコンで調べたら、出てくるんじゃないかな」

「早瀬が作った曲じゃないんですか」

「そんなわけないよ。ハヤくんのは、もっと桁違いにすごいもん」

そういえば、早瀬の曲を聞いたことがないな。家に帰ったら調べてみるか。

なんて考えているうちに足がそろそろ限界になった頃、やっと階段が終わった。

「ユーさんがの家って、お寺だったんですね」

「そーだよー」

「広いですね」

ぐるりと、辺りを見渡す。

茂みの奥にあるガレージからは、高級車が見えた。

「ベンツ!」

「そだよ。パパの車だね。あ、あたしの家はこっちだよ」

 本殿らしい大きい建物の裏へまわり、さらにくねくねと奥へ向かって行く。

「ここですか」

「ここだよ」

 平屋にしてはかなり大きい。というか、大きすぎる。

「友華、遅かったな」

 叶先輩が中からでできた。

 高そうな服を着ている。

「カナちゃん! 言ってた通り、マコ君を連れてきたよ」

「よく来たな」

 自分の家のように言う。

「あのねあのね。マコ君はカナちゃんにプロポーズしに来たんだって」

「そうなのか? ふっ。告白もしていないというのにプロポーズとは、なかなか面白い頭脳を持っているな」

「いやいや。違いますから」

「照れなくてもいいぞ。私は、椎名からの愛をすべて受け止めよう」

「だから違うって!」

 俺は、人の家の玄関に膝をつき、がくんと四つん這いになる。

「叶先輩だけは……」

 ちゃんとわかってくれると思っていたんだが。

 ちょっとした絶望の渦にのみこまれていく。

「あああああ~」

 一方二人は立っているだけ。

「マコくんって面白いね」

「そうだな」

「面白いから、動画にとっていいかな」

 俺には見えないが、ユーさんの目はきっと輝いているだろう。

「私のケータイを使うといい。最近画質のいいものに変えたからな」

 ぴっこん。という音が聞こえたので、撮影を開始したらしい。

「って、何してるんですか? 叶先輩のケータイと思われるもののレンズが、俺の方を向いているような気がするんですけど」

「そうだね」

「すぐ止めて、消してください」

 ユーさんは、叶先輩にケータイを返した。

「おっとお」

 わざとらしく、叶先輩が言う。

「すまないな椎名。今の動画を間違えて閏に送ってしまった」

 完全に棒読みだ。

「今の、完全にうっかりじゃないですよね。どう考えても、わざとですよね」

「そっかー。マコくん残念だったねー」

「ユーさんまでわざとらしく言わないでください」

 そんな時だというのに、知らない番号から電話がかかってきた。

『ぎゃははは! お前面白いな。カナさんも、たまにはいいもんを送ってきてくれんな』

 相手は誰かわかった。ブチリと電話を切る。

「……なんだったんだ。今のは」

 ブーブーと、再び同じ番号から電話がかかってくる。

「何ですか。織田さん。俺の電話番号は、リサから聞いたんですか」

『お、わかってんじゃねーか。そうそう。今度から、かってに電話切るなよ』

「はいはい」

『あと、登録しとけよ』

「連絡の時、便利ですからね」

『じゃあな』

「はい、さようなら」

 やっと、電話が切れた。

「いつまでもここに立っておらずに、友華の部屋へ向かおう。暑いからな」

「そうだね。あたしはお茶とお菓子を持っていくから、先にマコくんとカナちゃんは先に行っておいてよ」

「わかった。では、先にアイスをもって行っておこう」

 どうやら叶先輩はユーさんの家に詳しいらしく、迷わずにさっさと歩いていく。俺は、それについていく。

 長い廊下をわたり、一つのドアの前で叶先輩は止まった。

「ここがユーさんの部屋ですか」

「そうだ」

 ドアに『友華の部屋』と書かれているのだから、一瞬で分かった。

「早く中に入るぞ」

 ドアを開けると、中からツンとしたにおいがしてきた。

「墨のにおいだから安心しろ。何も害はない」

 叶先輩が中に入るので、俺もついて中に入る。

「ウ……」

 中に入ると、においは余計にきつくなる。

「少し空気を入れ替えよう。蒸し暑いかもしれないが、我慢してくれ」

 電気のついていないくらい部屋の奥へ行き、カーテンを開け、窓を開ける。

 風が部屋の中に入ってくると、パラパラと紙がめくれるような音。

「あれれ? 電気もつけずに何をしているのかな」

「部屋の中のにおいがひどかったんで、叶先輩に換気してもらってたんですよ。部屋が暗いのは、スイッチの場所がわからなかったからです」

「この部屋、スイッチないよ」

 どうやって明かりをつけるんだ。

「今からあたしが電気をつけるから、よ~く見ておいてね。開けごま!」

 それ、扉を開ける呪文だろう。

 パッと、電気が付いた。

 部屋の姿が明らかになる。

「……」

 変わっているとか、面白いとか、もうそんなものじゃない。そういう物なんかじゃなく。どちらかというと、恐怖。お化け屋敷とか、そういうのが苦手な人だったらすぐに悲鳴を上げるだろう。

「ようこそ! あたしの部屋へ!」

 自分の部屋の中心で、ユーさんはゆるりと回った。壁一面に札が張られた部屋で。

「オカルトの方に興味でもあるんですか」

「ないよ」

 ならば何で札がこんなに。

「椎名。諦めてくれ。少し不気味な気もするが、こんなものだ」

「あたしの部屋は、ずっとこんなのだよ。あ……アイス溶けちゃうよ。急がないと」

 俺は部屋のドアを閉めた。

 ユーさんは、お盆を叶先輩に渡すと、ふすまを開けて中から折り畳み式の机を出す。

「ユーさんの部屋って、書道道具以外はほとんど何もないんですね」

「そうだね。昔から、それ以外に興味がなかったからね」

 叶先輩がどこからか持ってきた座布団に座る。

 溶けかけのアイスを、二人は食べ始める。ユーさんはかなり急いで食べているのだが、叶先輩は溶けかけでもゆっくり食べている。ソフトクリームなのだから、余計に急いだ方がいいのだと思うなだが。

「あ、でも、バラエティグッズならいっぱいあるよ」

 そういうのもあるのか。

 ユーさんは、アイスの食べきるとふすまを開けてファンシーな柄の箱を出す。

 その一つで終わりなのかと思いきや、次々といろいろな大きさのこれまたファンシーな柄の箱が出てくる。最終的には、サンタクロース屋良魔女やらのコスプレ衣装らしき物のクリーニング済みだと分かるビニールのカバーがかかったものもでできた。

「……大量ですね」

「毎年買ってるからかな」

「そうだろうな。毎年買っては、部室で祭り騒ぎをしているからな」

 なんとなくその光景を思い浮かべることができるような気がする。

「って、そんなのんきに話してる場合じゃないんですよ」

「そうだったね。マコくんはカナちゃんにプロポーズしに来たんだもんね」

「だから、違いますって」

「そうだな。プロポーズをするんだったら、花束くらいは持ってきてもらわないとな」

「はいはい。本題に入りますよ。重要な話何でちゃんと聞いてください」

 座りなおす。

 俺のその行動を見てか、叶先輩の表情は引き締まる。

「実はですね――」

 親父が帰ってきて起こったことをすべて話した。

 ユーさんはものすごく驚いていたが、すぐにおとなしく話を聞くようになった。


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