夢
超短編です。
苦手な方はお逃げ下さい。
何故か此処に居た。
頭の上に大きな手が置かれる。
それで、私は気付いた。
これは夢だ。
そうでなければ、彼が此処に居る筈がない。
大きな手は、そのままぐしゃぐしゃと私の頭を撫でた。
撫でられるのには慣れていないが、不思議と抵抗感は無い。
それは彼の手だからだろうが。
「四季、お前はちゃんと生きろ。」
そんな声が頭上から降ってきた。
私は解ってると言うかわりに、ゆっくりと目を閉じた。
小さい頃から人見知りが酷かった。
初めて会う人は勿論、顔を知っている人でも無理だった。
その所為か何なのか友達と呼べる存在が居らず、いつもひとりぼっちだった。
遊ぶのもひとり。教室の中でも独り。給食の時間も一人。
最初は先生達も私の人見知りを矯正しようとしたのだが、無理だと知ると私は見放された。
悲しいとは思わなかった。思わなくてはいけないと知らなかったから。
それでも唯一人、見放さなかった大人が居た。
彼だ。彼は私を見放す事は無かった。第一、矯正しようともしなかった。
彼は私に色々な事を教えてくれた。
料理から勉強、刃物一式の扱い方――。
私はどれも覚えたが、中でも観察は私の唯一と言っても良い程の取得となった。
私にとってそれは、とても嬉しい事だった。こんな私にも出来る事が有ると解った瞬間だった。
私はこの事で彼に感謝し、彼を尊敬した。…まあ、今もだが。
何時しか、彼の様になりたいと思った。けれど、そう言うや否や彼は猛反対した。
自分はそんな聖人じゃない。お前はちゃんと生きろ。
彼は真剣にそう言った。とても辛そうだったのを覚えている。
私には彼が何故そう言ったのか解らなかった。
彼――お父さんが死ぬまでは。
「そろそろ起きる時間だ。」
彼が耳元で囁く。
うん。解ってる。解ってるよ。
さあ、目を開けよう。
騒々しくも楽しい、一日の始まりだ。
終わり