恋3話『それぞれの夢』
今回は、孝介の目線で物語は進みます。
マジ…切れとる…
そりゃぁ、もちろん里香だって、女の子ばってん恋もすりゃぁ、誰かの事を好きになるのは分かるばぃ。今までもそうだったたし…
しかし、ああも真っ向から否定されたらオレも立場がないばぃ。
物心ついた頃から、オレは里香が好きだった…
オレの横には、いつも里香の無邪気に笑う笑顔が輝いていた…
多少!?イヤ…かなり気が強いところもあるけど、ばってんそれも里香の魅力のひとつばぃ。
とにかく、里香がいくら恋をしたって、オレはいつでも『恋をしている里香』ごと好きになろう。見守っていようと、ずっと思っていた。
例えオレの気持ちが叶わなくても…
何かあったら、ウルトラマンのように里香のピンチを救ってやろうと思っていた…
しかし…しかし…
何か今日は無性にムシャクシャする!!
里香にはムチャクチャ言われるし、しかも今目の前にいるコイツが里香が好きな『窪田』だぁ!?
笑わせるんじゃなかとよ!!
オレは、こんなチャラけたヤツとの『里香の恋』は応援したくなか!!
「どけって言ってんだろうが!!1年!!」
窪田とかいうやつの取り巻きの男たちはオレの胸ぐらを掴んできた。
オレも男ばぃ。
もぅここまで来たら、引くに引けない。
「はは…先輩…さっきから1年1年って呼ぶとやけど、オレは1年って名前じゃなかとよ。」
胸ぐらをつかまれながらも、窪田といういけ好かない男を思いっきり睨み付ける。
「お前、窪田さんに向ってなんだその生意気な口のきき方は!!」
握り絞められた胸元の力が次第に強まり、呼吸が苦しくなる。
もう我慢できねぇ!!
絶対殴ってやる…コイツら…!!
こうなったら、1年も3年も関係ないばぃ。
「ちょっと!!やめなさい!!孝介!!」
今にも右コブシを振り上げそうになった時、急に里香がオレたちの間に割って入った。
「スイマセン!!窪田先輩!!そして、先輩方…!!」
「なんば言うとね。里香、通路の邪魔してるのはコイツらばい!!」
―――バシ!!
一瞬何が起こったか分からなかった。
オレは…
オレは…
里香に思いっきりビンタをされ、その音が1年生の棟じゅうに響き渡り急に一瞬周りからノイズが消えた。
「先輩…ホントにスイマセン。ほら、こうやってコイツも頭下げてる事だし、今回の事は許してやって下さい。」
コラコラ…里香…頭下げてるって、里香が無理やりオレの頭に手ぇ乗せて押さえこんでるだけやとね。なんでこんなヤツらに頭下げなきゃいけなかとよ…里香ぁぁぁ…
オレは、頭に力を入れ頭を上げようとするが、里香はそんなオレの頭を両手で押さえ込みにかかってきた。
「なんばしよっと…ね…、さ…とかぁぁぁ…」
オレは里香に頭を押さえつけられながら、怒りに満ちた表情で里香の方を見る。
しかし、そんなオレの事はお構いなしに、思いっきり右足のかかとで、オレの左足のすねを蹴りあげる。
―――いだぁっつ!!
そしてその後、精一杯の笑顔を窪田といういけ好かないヤツに向け、真摯に謝る。
「先輩、ホントすいません!!コイツ転校してきたばっかで、先輩の事あんまりよく知らなくて…、あ…ホラ…!!それから、コイツ見るからにバカそうじゃないですか。先輩方もコイツの相手してたら、バカがうつっちゃうんで、今回の事はどうか私に免じて許してください。」
「ホンットこの度はすいませんでした。」
里香は、礼儀正しく3年に頭を下げる。
そんな里香を見て、3年の連中は笑い声を上げる。
「ハハハ…このもじゃもじゃ頭は転校生だったのか。まぁいい、とにかく今日はコイツとケンカしに来たわけでもないし…。そうそうマネージャー、来月の練習のスケジュールの下書きをしたんでコレをキミに清書してもらおうと思ってね。それで、清書したのを、今日の部活までに人数分コピーしてきてもらえないか?」
「はい!!喜んで!!」
窪田に頼みごとをされた、里香は今までオレには見せた事のないようなとても可愛らしい笑顔で窪田に挨拶をした。
そんな二人のやり取りは、オレの心を深い悲しみに包み込んだ。
里香の心に、もうオレの居場所なんてきっとこれっぽちもないんばぃ。
その日の夕方、オレは校門の前で里香が部活を終えるのをずっと待っていた。
別に里香と話しをしたからって言って、オレの気持が里香に通じる事はないのは分かっていた。しかし、今日はどうしても里香と話がしたかった。
「よぅ!!」
オレは校門にもたれかかりながら、里香にスポーツドリンクを投げ渡す。
「お疲ればぃ。里香。」
「サンキュー。…って何待ち伏せなんかしてんのよっ。スケベ通りこしてストーカーにでもなったとですかぁ!?」
里香はおどけた口調で、オレをからかう。
昼間の事はもう何にも思ってないようだ。
そう、里香は昔っから結構気が強く、オレと何かある事にケンカしてきたけど、何があっても根には持たないヤツだった。
言いたい事はその場で言う。ホントに裏表ないはっきりした女の子だった。そして、そんな里香を、昔っからオレはどうしようもなく好きだった。
落ちてゆく夕日が眩しく、鮮やかなセピア色に染められた表参道をまっすぐ渋谷駅の方へオレたちは歩いていった。
去年の文化祭の話や、数学の先生の悪口など、たあいもない話をしながら、二人で夕焼けの渋谷の街を歩く。
オレの左側で、時折見せる里香の笑顔が、夕日と重なりとても眩しい…
そして里香の眩しい笑顔が、余計に切なさを込み上げさせる。
「なぁ…里香ぁ…アイツの事そんなに好きなのか?」
里香の笑顔を見ていると今にも涙がこぼれそうになる。
オレは、歩いてゆく二人の歩幅を見ながら、里香にそっと呟く。
「何暗い顔しながら、ボソボソ言ってんのよ。ストーカーの次はネクラ君にもなったのかな…キミは…」
里香はくったくのない笑顔で、下を向いている俺の顔を覗きこむ。
思わずオレは目をそらし、そっぽを向いてしまった。
「キャハハハ!!孝介、可愛い!!ナニ照れてんのよっ!!二人は一緒にお風呂に入った仲なんでしょ。」
「なんば言うとね!!誰が里香なんかに照れなきゃいけなかとね!!あっちの空にUFOが見えただけばい。」
「バーカ。」
夕焼け空が切ない。
そこには精一杯強がることしかできない自分がいた。
「ねぇねぇ何か聞こえない!?」
ふと急に里香が何かに気づく。
確かに…どこからともなくギターの音色が聞こえてくる。
「あっ…あっちからだ…!!」
里香は嬉しそうに無邪気に走ってゆく。
ギターの音色は、渋谷のハチ公前で引き語りしているストリートミュージシャンから奏でられるものだった。
セピア色に染まった渋谷の街で奏でられる、力強くもどこか繊細なストローク…そしてその歌声に、オレ達は思わず足を止め聞き入った。
こんばんわ…
モウキと言います。
渋谷で路上ライブやってます。
聞いてください、
『この場所から〜夢へ続く道〜』
今この場所から歩きだす
夢がない僕に夢をくれた
勇気がない僕に勇気をくれた
だからこの場所から歌うんだ
支えてくれた人に
これから出逢う人に
精一杯の愛を込めて
精一杯の感謝を込めて
そして
夢へと踏み出す勇気をくれた
この場所から
夢へ続く長い道を
手を取り合って歩いていこう
里香は嬉しそうに惜しみなく拍手を贈る。
そのミュージシャンの前にはオレたち二人しか立ち止まっていなかったが、二人だけの最高のコンサートだった。
里香の左側で同じ時を過ごす。
里香の左側で同じ歌に耳を傾ける。
―――そして
願わくば同じ『夢』をみたいと思った。
「ねぇねぇ、二人の夢ってなに!?」
そのモウキというミュージシャンはオレ達に問いかける。
すると、里香は思いっきり両手を広げて話す。
「私の心に生まれた、この大きな大きな恋を大好きな人に届ける事だよ。」
里香のその言葉に涙がこぼれる。
里香は真剣に窪田というヤツに恋をしているようだ。
オレは、涙がばれないように、上を向きずっと夕焼け空を眺める事しかできなかった。
「ねぇねぇ、孝介の夢は!?」
里香は、ずっと空を仰ぐオレに、無邪気に問いかける。
「オレは…オレは…」
「なに!?なに!?…言ってごらん。」
―――里香とずっと一緒にいたい!!
「好きなヤツと日本中旅行する事ばぃ!!」
今ここで里香に自分の気持ちを伝えたら、きっと今みたいに二人で笑えあえない…
オレは自分の気持を心に閉じ込めそう言った。
「へー、好きなヤツと日本中旅行したいって、孝介に好きな子なんているんだ。ねぇ、ねぇ何組の子?教えて…教えて…誰にも言わないからさぁ」
里里香は嬉しそうにオレに問いかける
―――ずっと里香の事が好きだった
「バーカ。好きなヤツってオレの相棒ばぃ。バイクで日本中をツーリングするのがオレの夢ばぃ。」
里香に涙がばれないように、くるりと背を向け、震える声を抑えながら空を見上げ大きな声で、オレはそう叫んだ。
ちくしょう…
もうすぐ春っていうとやのに…
なんばしよっとね!!オレは。
行き場のない自分の恋心が出口を探し、の中を彷徨っていた。
こんばんわ。
あいぽです。
恋3話いかがでしたでしょうか?
話が進めば進むほど、孝介と里香の距離は離れていくばかり…イヤハヤ2月14日に結ばれるのは、一体誰なんでしょう!?(笑)
今回は、ラストを全く考えてませんので、正直3人の恋の行方は、あいぽも分かりません!!(笑)
しかし…執筆が進むにつれ、この孝介って男の子に頑張って欲しいなと思ってきました。
みなさんからの、孝介くんへの応援メッセージ待ってます。




