レニーちゃんと学院祭 後
※注意:あいつの脳内が花畑です。
※※※
良い夕日だな! 明日も晴れそうだ。雨はレニーの体調が悪くなりがちだから、俺は晴れている方が好きだ。
学院祭が終わった。
俺はヘリットと一緒に今日使った荷物を自分達の部屋に運び込んで、研究科の仲間が出し物の後片付けをしている所に顔を出して軽く挨拶をする。そのまま打ち上げのような集まりに巻き込まれそうになったが、今日使った術式の資料を放り込んで事なきを得た。あれでしばらく議論のネタに困らないだろう。ヘリットも今頃は自室で俺が使い倒した武器の使用結果の分析に夢中になっているはずだ。
さあ、これで今日の俺は自由だ!
軽い足取りで一直線に研究科棟の奥へ向かう。目指すはもちろんレニーのいる病室だ。
治療計画の関係で現在彼女は外に出られない。学院祭の騒がしさで彼女が寂しい思いをしていなければいいんだけど
「レニー! 俺、……どうしたの!」
「み、ミリオン!」
意気込んでレニーの部屋へ飛び込めば、彼女は真っ青な顔で俺を見た。
「すまなかった!」
どこか体調を悪くしたのではと駆け寄ると、いきなり謝られた。
「まさかお前が本当に出場するなんて……け、怪我してないか?」
そう言って全身あちこち調べられた。頭、顔に触れられ、腕、足、背中や腹を服の上から軽く叩いてくる。やばいやばい、それやばいからレニー! できれば直に触っ……一瞬、本能の叫びのようなものが口から飛び出そうになったな。
「俺はなんともないよレニー。一体どうしたの?」
俺は自分の欲求を抑えこみ、なんとかレニーと目を合わせ、普段通りに振る舞う。ああ、振る舞ってみせるとも!
「だ、だってミリオン、お前、騎士科の大会に出たって……」
「大丈夫だから、はいこれ」
「?」
落ち着かせるために彼女の肩に触れ、さりげなく抱き寄せつつ、先ほどもらった金属板を手渡す。
「俺、優勝したよ」
俺の言葉と、光る金属板の表面の文字を読んで、レニーが両目を見開き驚きをあらわにする。
「な、なにを言ってるんだミリオン」
「だから、俺、騎士科の出し物で優勝したんだよ」
「ほんとうに?」
「本当」
喜んでくれるかと思ったら、レニーはいきなり睨んできた。目元には涙が浮かんでいる。
「ばか! おまえ、本当に怪我はないのか! 自分で気付いてないだけかもしれない。痛い所はないのか!」
そう言ってまた身体にしがみつかれて調べられそうになったので、慌てて椅子に座ってもらう。流石に二度目は本気でやばい。ここ数日動き通しだったから、俺の理性もだいぶぐらついている。
「どこも怪我してないから」
なんとか微笑んでみせて、レニーの目尻にうかんだ涙をそっと指ではらう。あ、レニーのほっぺた、すごく柔らかい……
「すごく心配したんだからな」
レニーが俺のことをこんなにも心配してくれたんだ。これだけで頑張ったかいがあったな。レニーが泣きそうなのをこらえている表情にまた俺の理性がゆさぶられ、もうぎゅうっと抱きしめたくてたまらなくなるが、ここでレニーを泣かせるのは良くない。良くないんだぞ、俺!
「レニー、俺けっこう強いんだから」
安心してと、笑ってみせるけれどレニーはなかなか笑ってくれない。困ったな
「わ、私が変な欲を出したせいでお前が危ないことをするのは駄目だ」
ああでも、今目の前にしている泣き顔が俺を思ってのものだと思うと……
「聞いてるのか? ミリオンが危ない目にあっちゃ駄目なんだからな」
可愛いなあ、もうこれキスしちゃっていいかな? いいよね? 頑張ったご褒美ってことでさ
「ミリオンはやさしいのに、戦うだなんて」
さりげなくレニーの腕を引き寄せ、顔を近づける。可愛い桜色の唇までもう少し。あとちょっとの距離で……
「そいつのやさしさは君限定だ。その男は君が思っているよりかなり攻撃的で、性格も悪いぞ」
「ふぇ?」
あああああ! レニーの目の前でなければその言葉をそっくりそのまま、完璧に証明してやるんだけどな! 病棟内の帯剣禁止が恨めしいと思うなんて初めてだ!
「じ、ジルニトラくん?」
レニーは目を丸くして俺の背後、扉に立つ黒髪の男を見ている。驚いた拍子に涙は引いたらしい。
「応援してもらったようなので、直接報告に来たんだ。入ってもいいか?」
「は、はい。どうぞ」
レニーの返事を受けてジルニトラは部屋に入ってくると俺を押しのけ、彼女の前に膝をつき、いまいましい手つきで俺のとは違う金属板をそっと手渡した。
「え、これ……」
「準優勝してきた」
「そ、そうなのか! すごいな!」
「君のおかげだ。礼を言う」
おい、おい! 俺もまだ褒めてもらってないのに!
「私は何もしてない……です」
「いや、君の応援のおかげだ」
そう言って奴は俺をちらりと見る。
やはり気づいていたか。
「それと、これは養護教員から預かってきた君の配当金だ」
そう言ってジルニトラは厚みのある封筒をレニーに手渡す。
「あ、うぇ、ええと」
封筒を持ち、レニーは気まずそうに俺を見る。
「レニーがカードに書いた通りの結果になったんだから、けっこうな金額になったと思うよ」
気にしないでと、笑顔でレニーに語りかける。
「……まあ、見事に予想的中だったからな」
苦いものを口に含んだような表情でジルニトラがこちらを見る。これはレニー専用の笑顔なんだからお前は見るな。
こいつを勝たせようと助言するんじゃなかった。余計な事を喋られると面倒だな。
「あのカードの目的なんて最初から知ってたさ。気にしなくていいんだよ。それはレニーが応援してくれた結果なんだから」
「う、うん。最初に説明しなくてごめん」
「レニーの役に立てたからいいよ。でも俺も頑張ったんだから、いつものように褒めてほしいな」
「もう、相変わらずだなミリオンは」
レニーがようやく笑顔になってくれた。よかった。
「君の役にたてたようで俺も嬉しい。ちなみに配当金は何に使うんだ?」
ジルニトラが(まったく余計な)質問をすると、レニーが両手で持っている封筒を見つめ、もじもじしながら顔を赤くする。ああ、いますぐここからこの忌々しい男を消し去って二人きりになれる良い方法はないだろうか。
「手紙代とか日用品とか、あとその、もう少ししたら外に出かけられるかもしれないから、それ用の服とかも少し欲しいんだ。あんまりよそ行きの服、持ってきてなかったから」
「そうか、もし買い物に出かける用事があれば付き合おう。女性の服の見立てはわからないが、道案内や荷物持ちくらいなら俺でもできる」
お前は黙れ。本当に黙れ。というか今すぐ立ち去れ。どうしてそんな誘いの言葉が息を吐くように出て来れるんだ?
「街の方まで出かけるのはまだ難しいんだが、そうだな、出かけられるようになったら頼もうかな」
レニー、それ俺も一緒だからね。というか俺に真っ先に頼んでよね?
でも良かった。彼女は先々の事を考えているんだ。長く続いている闘病生活、それも実験的な治療が続く中で未来に意識が向いているのは君の心が負けていない証拠だ。
レニーは本当に強いな。
「あと、ミリオンにも」
え、俺?
「いつもお菓子とか、色々もらってるから何かお礼したかったんだ」
一気に顔に熱が集まるのが分かる。やばい、目茶苦茶うれしい。お金のかからない俺がすっごく喜ぶお礼の仕方もあるんだけど、レニーが俺の事を考えてくれる時間が増えるのなら、それはそれでいいかもしれない。
「も、もちろんジルニトラくんにもお礼したくて」
「たいしたことはしていない」
何やったんだお前。
「そんなことない。いつもありがとう」
どういうことだ?
おいジルニトラ、決勝戦、もう一度しようか?
女性のエスコートはジルの方が慣れているようです。
でもミリオンはデート本番になったら完璧にこなすでしょうよ、レニー限定で
デート?編のフラグが立っているので願掛けとしてしばらく完結表記を外しておきます。
ネタが降り溜まってきたら書きます。