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レニーの入院生活日記  作者: やまく
後日談2
7/15

チョコレートとココア(バレンタインネタ)

思いついたので書いてみました。

「チョコレートか…」

 こっちの地方では年に一回、大切な相手や感謝したい相手へとお菓子などを贈る日がある。特に女性は恋人へチョコレートという菓子を贈る。この異国の茶色い菓子は興奮作用があり、恋人同士の気持ちを高めるのに効果がある。

 そこまで読むと私は食文化辞典を閉じ、雑誌の上に置いた。

 この菓子の日というのは、五日後。私がこちらへきてからは初めてだ。


 せっかくだから私もお世話になっている人達に何か贈ろうと思う。手元にあるもので作ってみようか。

 そこまで考えてやっかいな顔が思い浮かんできた。奴は私が何か贈ってくるか期待しているかもしれない。しかしこれまで応援するつもりで手持ちのもので作ったものを贈っていたので、もうあらかたネタは出し尽くしている。

 元々菓子を作るのは苦手だし、街まで買いにいけるはずもない。どうしたものか…

 寝台の上で腕を組み、狭い部屋の中を眺めていると机の上に置いた便箋に目が止まった。



「おお、返事がきたか」

 窓を空けて灰色の小鳥を中へ入れてやる。用意しておいた水と雑穀をあげて、片足に結び付けられた手紙を取り、広げる。先日友人になったジルニトラくんからの返事だ。中を読むと、昨年までのミリオンの状況が書かれていた。

「…私が贈る必要なさそうじゃないか」

 奴は毎年何人もの女の子たちからチョコレートやら菓子やら贈り物を貰っているらしい。学年を問わず、朝から列をなして贈りにやってくるのだそうだ。

「食べ過ぎもよくないから、私のはいいか」

 これで心置きなく他の人たちの分の贈り物作りに専念できそうだ。


 当日。作った栞とビスケットをひととおりお世話になった人達に渡し、実家にも手紙と共に送った。ちなみにビスケットと栞の材料は学院内にある店で教員さんと一緒に買った。

 最後にジルニトラくんへの分を鳥さんに運んでもらおうと、封筒に紐をつけて用意をする。すべてを無事にやり遂げて満足した気持ちに浸っていると、ミリオンがやってきた。

「レニー!」

「もう授業が終わる時間だったのか」

 なんだかいつになく一日が早く過ぎ去ったな。


「レニー、その、あのさ、」

 奴はなんだかそわそわしている。

「どうしたんだ? 何かいいことでもあったのか?」

「いや、これからあるっていうか、レニー今日ってなんの日か知ってる?」

「ああ、贈り物をする日なんだろう? 今日は私も色んな人に贈り物をしたんだ」

「そ、それで…あの」

 もじもじするミリオンに首をかしげていると窓で羽ばたきの音がした。ああ、来てくれたか。鳥さん。


「今日はちょっと大きいんだが、コレを運んでもらいたいんだ」

 用意していた封筒の紐を鳥さんの首にかけ、安定するよう位置を調整する。鳥さんは心得たと封筒を踏まないように歩き、窓枠の所で何故か一度ミリオンを見て目を細めると、羽ばたいて飛んでいった。

「…今のって、ジルのとこの?」

「そうだが。よくわかったな」

「…まあね」

 やっぱり仲がいいんだな。いいな、親友ってやつか

「今日は鳥さんに彼の分の贈り物を運んでもらったんだ。他にも研究科の人たちにもあげて、なんとか今日中に全員分渡せたんだぞ」

「えっ」

 私が自慢するように言うとミリオンは驚いたような声を出し、硬直した。

「ん? どうした?」

「…ねえ、レニー。その、俺の分は?」

「え?」

「えっ?」

 なんだかミリオンの雰囲気がおかしくなってきた。

「…お前、毎年沢山の女の子達からもらっているんだろ? だから食べ過ぎてもよくないと思って…ないんだ」

 チョコレートって、興奮作用があるらしいから、あんまり食べるのも体に悪そうだと思ったんだ。

 『ないんだ』の所で、見開いた奴の目から静かに涙が…な、なんで涙が!

「な、泣くな」

 びっくりして思わず駆け寄ると、奴はしがみついてきた。なんだか前にもあったなこういう状況。


「レニーからの贈り物、俺、すっごく、すっっっごく楽しみにしてたのに」

 奴は静かに涙を流しながらとても悲しそうに言う。

「ご、ごめん。けど、お前毎年いっぱい貰ってるそうじゃないか」

「全員に配ってるやつは貰うけど、俺個人への贈り物は全部断っているよ」

 え、そうなのか? もったいないな

「個人的にチョコレートを贈るのはちゃんと意味があるから、そういう意図があるものは受け取らない」

 そうなのか、けっこう深い意味があるんだな。じゃあ益々私がやんないほうがいいんじゃないのか、それ


「ねえ、俺が毎年贈り物貰ってるって、誰が言ったの」

 お、泣き止んだ。

「ん? んー? 誰だったかな」

「まあ、大体予想つくけどね」

 今度は笑った。すねるかと思ったが、良かった。

「ミリオン、チョコレートとやらはないが、教員さんがココアという飲み物の材料をくれたんだ。簡単に作れるらしいんだが、一緒に飲むか?」

「もちろん!」


 お菓子はないが、一応ミリオンの分の栞はちゃんと作ってある。

 ココアを飲んだ後に渡したら非常に喜んでくれた。良かった良かった。


レニーちゃん、ココアがチョコレートの原料の一部と知りません。

彼女が当初ごく自然にミリオンへチョコレートを贈ろうと考えた事は、奴にとっては鼻血ものでしょう。

そしてどさくさにまぎれて抱きついています。


その後のジルニトラくんがどうなったのかはご想像にお任せします(笑)


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