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レニーの入院生活日記  作者: やまく
後日談
3/15

演習と巾着 前編

思いついたので続きっぽいもの書いてみました。

 ミリオンが最近暗い。半月にものぼる課外授業があるらしい。騎士科の演習とは違う、全科一緒におこなう大規模なものらしい。

「レニーに二日以上会えないなんて俺どうにかなっちゃうかも」

 ミリオンが酷く暗い顔つきで言っていた。

 私がここに来る前は会わない日がほとんどだったと突っ込めば、さらに陰気臭い顔つきになった。

 山と森に囲まれた場所に行くらしく手紙のやりとりもできないそうなので、応援の意味もこめてお守りを作ってみた。有り合わせのものを有効活用したので大したものではないが


 演習の出発日の朝、それを紙袋に入れて見送りの場に向かった。

 けっこう寒かったがわりと体調はいいし、いまだ杖を使う必要はあるがそこそこ歩ける。学院の門のところまでなのでそう遠くないから平気だと思った。たまには朝日を外で眺めるのも悪くない。

 けれど門のところまでいくと人だかりに圧倒された。一つの学年だけとはいえ全科の生徒がいるのだから当たり前だ。むしろこの状況に思い至らなかった自分のにぶさにあきれた。

 元気の良い学生たちに圧倒され、ミリオンを見つけるのは無理だと早々に諦めて部屋に戻ることにした。


 だが途中の中庭に差し掛かる辺りで、ミリオンを見つけることが出来た。彼は門に向かう途中だったらしく、男女入り乱れた仲間達と一緒にいた。それぞれが荷物を抱え、皆で楽しそうに何かを話している。

 ミリオンの世界は輝いていた。

 私にはあの集団に向かって一人声をかける勇気はなかった。

 することが無くなったので、彼らに見えない位置からミリオンの様子を見守った。草葉の陰から見守るというやつだ。

 ミリオンは時々病棟の方をみているが、なにかあるのだろうか。せっかく友人たちが話しかけてるのだから集中したほうがいいと思う。ひょっとすると私の部屋を気にしてるのだろうか? 昨日はお守りを作るのを見られたくなくて部屋に入れなかったから、少し気にしているのかもしれない。彼は心配性だ。私はそんなに寝こんでばかりではないぞ


 まさか私がここにいるとは思わないだろうな。何も告げてないし。

 挨拶はできなかったが見送ることは出来たと、彼の想像している“病弱な私”の通りにベッドに横になって大人しくしていようかと足を踏み出す。

「おまたせ~忘れ物とってきたよー」

 間延びした声とともに走ってきた子とすれ違う。元気溌剌とした女の子だった。その子の荷物と、手がぶつかり持っていた紙袋を落としてしまう。

 杖に体重をあずけながらめいっぱい手を伸ばして紙袋を拾い、身体を起こすとめまいがした。

 少々歩き過ぎたせいだろう

 病棟の裏手にまわり、目についたベンチで休んだ。

 変な汗が出てきてぐったりしていると目の前に人が立つ気配がした。

「大丈夫か?」

 見上げると、黒尽くめの服装をした青年だった。



***




「それでは散開し、各自拠点設営に入れ」

 教官の声が胸につけたボタンから聞こえ、皆この演習中生き残るために動き出す。

 俺はさっきからかけられる声を聞くふりをして、地図を広げて眺める。


 この演習は全科合同で行なわれるサバイバル演習だ。内容も簡単で、要は最後まで規定通りの状態で生き残っていられればいい。実力に自信がない奴らは協力しあう。

 すでに開始前からチームを作っている奴もいて、俺も誘われたが断った。学年トップの成績だからか俺を引き入れたい奴は多い。

 だがこの演習、完全に個人で評価される。チームだろうがなんだろうが、生き残った際の状態の良い順で成績が割り振られる。だからたとえ協力しあう関係の相手でも油断はできない。


 隙あらば蹴落とす。そんな奴らに俺の不調なんて知られるわけに行かない。特に成績上位を競う相手にバレる訳にはいかない。

 俺は早々に森に入り、事前に目を付けていた巨木を拠点にすることにした。目眩ましの仕掛けをかけ、あとは他の奴らにここがバレないように動き、最低限のミッションをこなした後はここで演習が終わるのを待とう。

「ああ、レニー不足だ……」

 正直、学院に来たレニーと再会してから俺のレニー病は加速する一方だ。会えば会うほど、触れれば触れるほど彼女を求める量が増える。少しでも彼女と離れる時間があるのは嫌なくらいだ。

 昨日なんて声しか聞けなかったのに、これから何日も会えないなんて。

 この演習が成績に大きく関わるのでなければサボりたいくらいだ。


「おい、」

 レニー、元気にしてるかな。最近また寒くなってきたし、体壊してないかな。毛糸の上着と帽子とマフラーとでもこもこになったレニーは可愛いだろうな。きっと抱きついたら真っ赤になって怒るんだろうな。

 ああ、会いたい。声だけでも聞きたい。

「おい、ミリオン、なんだにやにや笑って気持ちの悪い」

 うるさいな

「なんだよ」

 見ると同じく巨木に拠点を定めた騎士科の奴がいた。

「お前ここでもその黒い服着ているのか」

「ほっとけ。夜だとこっちのほうがいいだろうが」

 この巨木、周囲に獰猛な肉食植物が生い茂り、毒ガスの出る沼が傍にあるので対処法を知らないと滞在するだけでかなり危険だ。毒に詳しく肉食植物に襲われても対処できないと立ち入れないので独占できるかと思っていたが、学年二位のこいつも拠点にしていた。

「さっき不可侵の約束をしたのに、何だよ」

「何だ、機嫌の悪い奴だな……。ちょっと聞きたいだけだ」

 そう言うと奴は俺の隣に腰掛ける。なんだよ一体

「ミリオン、お前病棟に出入りしてるだろう。俺たちくらいの年で杖をついて歩く女の子を知らないか? 不思議な色の長い髪をしている」

「……その子がどうした?」

「いや、ちょっと助けたんだが、気になってな」

「助けたって、何を? どこで?」

「病棟の裏手だ。体調が悪そうにしていたから病室まで送っていった」

「それ、いつの話」

「俺達が出発する時の朝だ。集合場所に向かう際にな。御礼にと、これを貰った」

 そう言うと奴はポケットから派手な色の巾着を取り出した。

「珍しい色だね」

「その子が助けたお礼にとくれたんだ。中に滋養強壮の飴が入っていた」

「ふぅん」

 落ち着け、落ち着け俺。冷静な顔をするんだ。

「きっとそれ、彼女の手作りだよ。縫い目、ちょっと荒いでしょ」

「そうなのか、それは大事なものを貰ってしまった。帰ったら何か御礼をしようと思うんだが…なあ、あの子は何か病気なのか?」

「患者のプライバシーは訊かないほうがいいよ。本人も知らないところで訊かれるのは傷つくだろう」

「そうか。すまん」

「もう演習も始まった。雑談はなしだ」

 そう言って俺は木から飛び降り、走りだした。


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