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レニーの入院生活日記

はじめまして

様々な方の小説を読んで、触発されて書いてみました。

超みじかいです。

ヒロイン一人称 日記形式 です。

世界観はファンタジーですが とくにそれっぽいことはでてきません。


1日目(晴れ)


 今日から王立学院の付属研究科棟での治療が始まる。

 鞄一つだけの荷物は、年頃の女の子にしては少なすぎだと自分であきれた。

 本は図書館を利用出来るときいているし、あまり出歩かないので着飾る小物も持ってこなかった。


 滞在する部屋は三階の個室で、寝台と、寝台横の棚、椅子と書きもの机、衣服戸棚、あとは小さな洗面台一つがある。

 ひとつの部屋にすべてが収まる。

 あとは窓があり、研究科棟と学院棟のあいだの中庭が見渡せる。植物が見えるのは嬉しい。


 学院にいるミリオンには知らせていない。急ぎで決まった話だし、彼は繊細で心配性だから色々心労を与えたくない。

 二年前の高熱を出して近所の医院に軽く入院した時のようになっては困る。あの時は試験を放り出して帰って来た。幼なじみの体調ひとつに動揺してどうするんだ。もう兄は独立して学院にいないから、追試もしてもらえないんだぞ。


 そういえば、学院まで送ってくれた兄が去り際によくわからない事を言っていた。

「餓えた虎の目の前にわざわざオマエを放り込む必要は無い」

 学生寮は獰猛な虎を飼っているのだろうか? ちょっと気になる。





2日目(晴れ)


 昨日は契約の確認と施設の案内だけだったので、今日は朝から専任医師との顔合わせと治療計画の説明、体の進行状況を確認するための検査をした。

 夕方自室に戻るとミリオンからの手紙が自宅から転送されて届けられていた。

 秋からの新学期が始まったそうだ。今は第3学年だったと思う。前学期の成績はトップだったそうだ。彼は本当に頑張り屋だ。約束通り何かごほうびを送らねば。

 近況をどう説明しようかな?





3日目(少し曇り/肌寒い)


 引き続き検査。慣れたものと、見知らぬ装置を使った検査方法とがあった。

 午後から日用品を買いに街へでかけるから、ついでにミリオンへの返事の手紙を出してこよう。


 学院全体の地図をもらったので、ミリオンがいそうな場所を確認しておこうと思う。次の手紙で彼の日常についてきいてみよう。





4日目(晴れ/あたたかく過ごしやすい)


 検査結果待ちなので今日は図書館へ行く。研究科棟には図書館から貸し出し本の集荷と配達サービスがあるそうなので、利用申し込みをする。

 書架を回って気になる本の名前をメモして、後日研究科棟から注文するための蔵書リストを作った。

 これでこまめに図書館へ行かずに済む。


 昼は学院の食堂を初めて利用した。自分と同い年くらいの学院の生徒が沢山いた。

 職員以外はみな制服を着ていたのでちょっと緊張した。ミリオンと出くわす可能性もあるので隅の柱の陰の席でこっそり食べた。

 学院の女の子達は皆可愛いらしくて、制服がよく似合っている。髪型も凝っていて、どう編んでいるのかぱっと見わからなかった。あれは何編みというのだろうか。





5日目(曇り)


 ミリオンから手紙の返事が届く。早い。私からの返事が嬉しいと書いてあった。やはり元気であると伝えておく方が安心できるようだった。


 家への手紙にミリオンへの手紙を同封して、向こうからミリオン宛に発送してもらう事を思いつく。これなら街まで出かけられない時でも返事を出せる。

 時間があるから返事を書いた。普段の学院での生活について、怪しまれずにどう聞き出すか文面を考えるのがスパイ小説のようで楽しい。





7日目(曇り)


 検査の結果発表。症状はみごとに進行していた。

 いくつか薬を飲んで効果をためし、効果をみたあと五日後にどの治療法でいくか決定される。

 治療研究として費用を負担してもらえるとはいえ、自分で決められないのは不安だ。


 午後、学院を散策していると、ここに来て初めてミリオンを見かけた。彼は友人達と歩いていた。

 制服姿だと一瞬気付かず、危うく遭遇するところだった。

 彼は少し会わないうちに肩の辺りがしっかりして、手足も伸びた感じがした。何か運動などしているのだろうか?女の子のように綺麗だった顔には男っぽさがでていた。あまりごつくなってくれるなよ

 中庭を歩いている姿も見かけたので、どうも研究科棟に出入りしているようだ。





11日目(そこそこの雨)


 ミリオンからの返事が届く。やたら長い。便せんの枚数も多い。学生生活の、特に人間関係の事が多く書いてあった。

 ミリオンの周り友達や課題チーム仲間は男の人が多いようだ。いつも男子寮の仲間と過ごしているらしい。

 しかし誰とご飯を食べたのかはいいから、普段いる場所についてもうちょっと書いて欲しい。彼女がいないのはもうわかったから


 ミリオンは専攻が研究科のコースで、副専攻を騎士科のコースをとっているそうだ。宮廷医師でも目指すのだろうか?確か宮廷関係の仕事は騎士の資格が必要だったはず。騎士か。かっこいいな。


 看護員の人に尋ねたら、研究科棟は私のような治療研究の実験に関わる者と、学生達が出歩く場所とは明確に分けられているのだそうだ。ちょっと安心。





12日目(午後から晴れ 夕焼けがきれいだった)


 治療法が決まった。一番マシだと思った方法だ。

 ちなみに一番嫌だった方法は体をまっぷたつにして、それからひとつに繋ぎ直して治療するものだった。それよりはかなりマシだ。

 薬と道具を使って一ヶ月ほどかけて全身の命脈を停止させ、ゆっくり治療を開始する。時間も気力もひたすらかかるが、一番リスクの少ない方法だ。体に傷も残らないし、うまくいけば同じ症状で苦しむ人たちの治療に使える。一度仮死状態になるけど。

 三日後から治療開始。

 家に手紙を書こう。





13日目(晴れ 冬の気配がする寒さ)


 家に手紙を出した。

 同封したミリオンへの手紙には、年末に帰省した際に遠地で療養中で会えないと書き、なんとか完成したマフラーを一緒に送った。





18日目(晴れ)


 ミリオンに送ったマフラーはなかなか綺麗に編めたと思っていたけれど、先日部屋の窓から中庭を歩くミリオンを見かけた時、遠目からでも彼のマフラーの色は変だった。派手に目立っていて、あからさまにおかしかった。もっと制服と色の取り合わせを考えるべきだった。

 作り直すから返せと手紙に書いたら断られた。

 見かけるたびに申し訳ない気持ちになる。というか違うマフラーをしてくれ。





20日目(曇り)


 杖を使って歩くようになったので、あまり遠出しなくなった。

 あのマフラーを見かける回数が減って精神的にちょっとホッとしている。

 中庭で女の子からマフラーをプレゼントされていたので、あれを使っていてもらえると助かる。





25日目


 へんじか けないので ひろった きれい落ち ば 入れた 。





35日目(雨)


 入院から一ヶ月。ついに学院にいる事がミリオンにばれた。早い。

 なんでも封筒に入れた落ち葉がこの学院の敷地内にしかない種類だったらしい。あの時期は薬でぼうぅとしていたのでそこまで思いつかなかった。

 あとはうちの兄からの手紙に私の事が少なかった事と、最初の手紙の消印が学院のある街のものから推理したそうな。ぬかった。というかどうしてそれで気付けるのかわからない。


 ミリオンからの手紙では黙っていた事を責めていたが、どこにいるのかは分からないらしく、何科に編入したのか聞いていた。

 返事を書く気になれなかった。正直会いたくもない。


 万一この場所にいることが知られても、無許可で棟内に入れないから大丈夫だろう。





41日目(晴れ 夕焼けがきれいだった)


 運動がてら図書館に本をかえしに行ったとき、ミリオンが現れた。

 本当探偵に向いてるよ、アンタ。もしくはスパイとか暗殺者とか猟師とか。

 いぜん私が手紙に書いた読んだ本の内容からタイトルを割り出し、私の最寄り図書館が北の小図書館だと断定して、毎日いりぐちが見える場所で勉強がてら見張っていたのだそうな。

 その根性というか執念というか……驚きを越してあきれてしまった。王立学院の生徒は暇なのだろうか?


 へろへろになって杖をついている姿をみられたくなかったけれど、走って逃げられなかった。

 ミリオンは驚いたというより硬直していた。彼の顔はこわばっていた。幼なじみがこんな姿になったのを目の当たりして衝撃だったろうな。

 しかたないから説明しようとしたらいきなり抱きついて来た。びっくりしたがミリオンの腕が震えているのと、そっと抱え込まれたようなかたちだったので拒絶する気にはならなかった。

 ミリオンは小さい頃から泣くのを我慢する時に震える。

 しかたないから昔のように彼の髪をなでながら笑いかけると、ミリオンは泣き出してしまった。折角の色男がだいなしだ。あと私の肩に鼻水をつけないでほしい。





60日目(晴れ)


 面会の許可がおりてからミリオンは私の個室にちょくちょく来るようになった。いやかなり頻繁といっていい。しかもいつもやたらニコニコしている。

 あんまり来るので私が怒ると、それすらも喜ぶ。訳が分からない。

 私としてはミリオンが来て話し相手になってくれると気が晴れるからありがたい。

「レニーの治療はちょっと時間がかかるだけだから。時間さえかければ元気になるんだから」と言ってくれて、気持ちが楽になった。夜中に思い出してちょっと泣けたのは秘密だ。

 けれど、彼は学生なのだからちゃんと勉強して欲しい。最近では看護員に教えてもらって私の補助をするようになってしまった。

 すこしでも成績がおちたら二度と会わないと言うと、「成績がよければずっとそばにいてもいい」と解釈したらしく、ずっといる。成績はちゃんと専攻と副専攻でトップのまま。飛び級する勢いらしい。なにもできない私への嫌みか。

「俺とレニーあわせてちょうど二人分になるからいいんだ」

 何がだ



 腹立たしいのでちょっとでも成績が落ちたら私の髪を切ってやると脅している。最近はミリオンが手入れをしてくれるので、髪にはかつてのキューティクルと手触りが戻っている。ミリオンはこの髪を手入れすることが好きらしい。いつもいじくっている。トリートメント剤もわざわざ自分で持ってくる。

 研究科棟の食堂であまり出ないお菓子や、傷みやすくてなかなか手に入らない果物も持ってきてくれる。嬉しいけれど学生の身であまり他人へ出費しないで欲しい。研究の手伝いで少し稼いでいるらしいけど、もっと自分の楽しみに使ってほしい。そう言うといつも彼はこう言う。

「大丈夫、十分楽しみに使ってるから。それに俺は将来は二人分、いやそれ以上稼ぐからね。安心してね!」

 何をだ



<おわり>



いつもは読み専なのですが、秋っぽくせつない感じの話を書いてみました。


この話は肉付けして、描写を増やしていけば中編くらいにはなりそうだと思いましたが、このままでもあっさりしていいのではと思い、思い切って投稿してみました。しかし短い。

日記形式は「本人が書いている」という設定だけに、あえて書かれていない部分があります。レニーが書きたくないと思った事は書かれてなかったりします。


次話は追補編「彼の独白」です。


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