後編
なんで私はバカなんだろう。
慎重に音を立てないようにしていたはずなのに、最後の最後で私はゴミ箱を勢い良く倒してしまった。
「……なにしてんだ」
私の祈りも虚しく、やつは起きてしまったらしい。
言い訳をあれこれ考えてはみたけど、思いつくはずもなく、私は諦めて散らかしたゴミを黙々と片付け始めた。
「お前バカだな、倒したのかよ」
「悪かったわね。別に好きで倒した訳じゃないわよ」
一緒にしゃがんでゴミを拾い始める篠崎に、申し訳なく思うけどどうしても憎まれ口を叩いてしまう。素直にありがとうも言えない自分が腹立たしかった。
「お前……可愛くねぇな」
ため息混じりに言われてムカつく反面、気分が落ち込んだ。
確かに自分でも可愛くないとは思う。だから好きな人にも選んでもらえなかったんだ。
けど、面と向かってそうはっきり言われると正直傷付く。まぁ自業自得なんだけど。
「はいはい。私は可愛くありませんよ」
「お前なぁ……ったく、なんで俺はこんなやつを……」
「は? 何?」
最後の方からゴニョゴニョと声が小さくなって聞き取れず、イライラした私は篠崎に食ってかかる。
「言いたいことあるならはっきり言えば?」
拾ったゴミをゴミ箱に突っ込んで、立ち上がった私は篠崎を見下ろす。するとやつは何を思ったのか、私を睨みつけてきた。
「……鈍感な奴」
「はぁ? なにそれ。あんたね……っ」
言い返そうとした私の言葉は、声として発せられる前に消えてしまった。
突然された甘い行為。離れていった温もりに、思わず確かめるように唇に触れた。
「……お前が好きなんだよ」
ぶっきらぼうにそう告げて、篠崎はさっと視線を逸らす。
「……は?」
「は?って……お前な、人が告ってんのに……」
呆れたようにため息を疲れるけど、私は頭が正常に働いていない。
「篠崎は私のこと嫌いなんじゃ……」
「なんでそうなる」
「だって……いつもからかうじゃん」
いつもの言動を考えると、好きだなんて言われても信じられない。すると篠崎はガシガシと頭をかいて、グイッと私を抱き寄せた。
「あれは……悪かった……その、ついな……」
抱き締められた腕の中、そっと見上げればいつもと違う紅い顔。
「……見んなよ」
照れくさそうな、いつもと違う表情に、不覚にもちょっとときめいたのは内緒にしておこうと思った。




