水素固定
おお、ヨリス!!
お前の肉体は落胆し、
命の生きられない
極限の無為の暗黒へ堕ちていく。
海底という
神の底知れぬ秘密に吸い込まれる様に。
それは不運に飲まれた
船乗りの特権なのだ。
おお、ヨリス!!
ほんの数日前に
お前は陽気に笑い、
船上の魚臭い机で
モッセレンの唄を歌い、
ボンゴレの二枚貝の中に
閉じた死者を見つけていたというのに・・。
おお、ヨリス!!
お前は今では、
熱で開かぬ死んだ二枚貝(紛れ込んだ死者)の様に、
その不可視の殻の内側に堕ちている。
あぁはっはっ・・
その命をただ無意味に殺し、
暗黒の熱に呑み込む
異様な高温の海で、
無数のヤンナスキイ達が
お前を見つめている・・
一方で、
色の無い海藻の生した十字架の影から
盲の羊飼いも
臓物を曝け出した瀕死の羊を見る様に
脅えた目で、お前を見ている・・
欠如した膜に囲まれ、
紐のついた不揃いな球体であるヤンナスキイ達は
何も想わない・・。
ただ、水素固定の欲の影に、
想う者への羨望があり、
その意思を知る者は皆、
恐ろしい熱水噴出孔の白い煙で
全て煮え切れてしまうので
その想いを認知する事は不可能なのだ。
おお、ヨリス!!
お前は何処にも行けない船乗りだった。
そのお前が、この神の暗黒に堕ち、
煮えたぎり自由に朽ちていく事は
滑稽だろうか?
おお、ヨリス!!
お前は、アフリカの夜の闇の中に・・
あるいは、
ある市場で・・
獣の顔をした者を見た!!
その者は強張った豹の顔をしていた。
まるで患者の様に・・!!
海底の熱水噴出孔の高温の中に蠢く
メタノカルドコックス達は、
その男を知っているだろうか?
この世界は限りなく極少になっても
闇の中にまだ続き、
存在自体が無という完成に対する
瑕疵として神と出会う。
(それは与り知らぬ事でしかない・・
ああ、まるで人生は
神のアルカエラを掴む様な・・・・)
ああ、ねぇ、みんな・・・
明るい戦場でも
貝の肉は煮えたぎり、
洒落たボンゴレとして提供される。
「そこにいろ!!」
「みんなの為に!!」
なんて言わないでくれ!!
もっとヨリスを自由にしてやってくれ!!
もう、獣の顔をした男の所へ
行かせてやってくれ。
どうせ、腐肉は熱泉の果てに
神の放射に散るのだから・・・




