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27話:恋する乙女は最強ですか?




太秦先輩が今手に持っている黒い目のマークが刻まれているペンダント。このペンダントを使えば全ての動物を操れるらしく、人間も例外なく操れる。



もしそれをアタシにされたらどうなってしまうのだろう。正気に戻ったとき、果たして自殺せずにいられるだろうか。そのもしもを考えるとアタシは怖くて仕方ない。今すぐここから逃げ出したい。



動悸が止まらない。肝が冷える。寒くて寒くて凍えそうだ。意識が朦朧としてきた。周りの音が聞こえなくなっていく。息が上手く吸えない。



「この銃もアーティファクトなんだぜ?こいつもありゃ俺は無敵だ。」



こう会話していれば戦わずに済み、時間稼ぎになる。本当は優希くんの助けに行きたいけど、仕方ない。だって目の前にいる太秦先輩は学校だとTOP8に入るであろう実力なのだ。アタシじゃ勝てない。そもそもアタシは下級生。ガーディアンに入っている事により多少の実力はあるってだけの、1年下の後輩なんだ。だから、仕方ない。



そう、全て仕方が無いの。



ここで負けるのも仕方ない。誰かを守れなかったのも仕方ない。大切なものが壊れちゃうのも、友人が傷付くのも、アタシが汚れるのも仕方ない。



何故ならアタシは弱くて、男の人が実は怖くて、相手が強力なアーティファクトを持っているから。だから全て、仕方がない。



……もしアタシが汚れても、彼はアタシを好きになってくれるだろうか。



きっと彼は優しいから気にしないでいてくれる。でも、そんなのアタシが許せない。だって綺麗なアタシを見て欲しいし触れて欲しい。初めてはやっぱり彼がいい。アタシは彼が大好き。



だからやっぱ、どんなに怖くても、これだけは譲れない。



幸いな事に太秦先輩は、いや太秦はアタシの事を舐めている。これは好機だ。それに、いかがわしい能力をしたアーティファクトのペンダントは太秦の手にある。なら魔術で彼の手から吹き飛ばすことは可能。



でも、それをするには魔術を無詠唱で使う必要がある。さらに太秦の技量の高さを考えると魔道具を通さずに魔術を使わなくてはいけない。昔は出来ていたノーモーションでの魔術の使用が必須だ。



魔術具なしの魔術の使用は中学生の頃のレイプ未遂依頼。今の私に出来るだろうか。



いいや、やるんだ。絶対に成功してみせるんだ。



息を整える。思い浮かべるのはもちろん彼。もう、いい。依存で構わない。私は彼が好きだ。大好きだ。愛してる。助けられたから好きになったなんて単純な自分で構わない。重い女でいい。ヤンデレ呼ばわり喜んで。私は彼が好き。そんな彼が今頑張ってる。なら、私も頑張らなきゃ。



私はこいつなんか怖くない!



「おっ、泣いちゃった?俺泣いてる女の子大好きだぜ?俺のサディストな部分が。」



煽り散らしてくれる。随分とよく喋る男だ。だけれど、その長い長いセリフを待ってなんてあげない。心の中で、魔術を簡易詠唱する。



インパクト・ギアショット。



無属性の攻撃魔術インパクトの上の魔術。違いは威力。当たれば骨が砕ける。指なんて簡単に折れちゃう強力な魔術で、人に向けて放っちゃいけない魔術。ペンダントを吹き飛ばすには十分な威力だ。



「疼いちゃ!あ゛っ!いっ!痛ってぇー!」



手のひらに向けて撃ったインパクト・ギアショットが当たり、指が折れる。それにより宙に舞ったペンダントに密度を高めたファイアーボールを放つ。するとペンダントの目のマークの中央にある魔石が割れた。アーティファクトはオリハルコンで出来ているため壊れない。だけど、中央の魔石は壊れる。魔石を狙うことでアーティファクトの機能を無くした。



アーティファクトを壊し、一安心すると何かが足元に飛んできた。無線機だ。生徒会と風紀委員が付けてるいつもの無線機。



「優希です。アリサ先輩聞こえますか?」



優希くんの声が落ちている無線機から聞こえる。



「目の前に太秦の野郎がいると思います。きっと太秦はアリサ先輩のトラウマを思い出させることを言ってくるでしょう。でも、先輩なら大丈夫です。」



自分も大変であろうにアタシのことまで気にかけてくれる。やっぱり彼は優しい。でも。



「ちょっと励ますのが下手なんじゃないかな?」



「俺の知ってる先輩は絶対にこんな品のないやつに負けません。」



妨害電波によりこちらからは電波をおくれない。そう思っていたけど、どうやら送れるみたいだ。インパクト・ギアショットで太秦の持ってた妨害電波装置が壊れたか電源が落ちたのだろう。理由なんてなんでもいい。彼と話せるならそれでいい。



「そんな慰めどうでもいいから、代わりに私のこと一行で励まして。」



「え!なんで音声送れるんですか!?」



「よくわかんないけど今忙しいんでしょ?ほら早く、アリサ頑張ってって言って。」



「えっとー、アリサ先輩。」



「アリサ。」



「……アリサ、頑張れ。アリサなら出来る。これで良。」



「ありがと。優希くんも、負けないで。またね。」



ブツリと切る。優希くんの声を聞いてるとつい頼りたくなるからだ。自分にムチを叩くみたいに無線機の電源を切った。



「痛ってぇーなぁ!お前絶対ボコす!顔面ぐちゃぐちゃにして二度と女として使えねぇ身体にしてやるよ!」



アタシの思考はさっきと比べてずっと冷めている。状況を冷静に見ることが出来、酸素が脳までちゃんと行き届いている感じだ。



「さっきから黙ってねぇでなんか喋れよ、おい。」



「悪いけど雑魚に喋る言葉は持ち合わせてないの。」



「生意気言ってんじゃねぇぞ雑種がぁあああ!!!」



さっきまでペンダントを持っていた右腕をだらりと垂らし、左手の銃を向けて魔術を使用した。持っていたナイフは痛みで落としてしまったのか地面に転がっている。左手の拳銃型アーティファクトに魔力が通り、鋭く尖った形をした中級火炎魔術ファイアーランスを連射させる。照準は定まっていなかったが、火球はアタシを捉え向かってきた。腕に付けていた腕輪型魔道具を外して落とす。もう、こんな玩具はアタシにはいらない。



「シールド。」



「……何でただの無属性の初級防御魔術で俺のファイアーランスが防げんだよ!」



「魔力を濃くして魔術使ったからなんだけど、太秦さんじゃわからないか。」



「そもそも!そもそもどうして魔道具無しで魔術使えんだよ!なんで俺には出来ねぇ事がお前にできる!」



「さぁ?お得意の研究でもしたらどうです?元魔術研究部部長さん。」



「殺す!殺す殺す殺す殺す!ぜってぇお前だけは、殺す!」



ファイアーランスを撃ち、サンダーボルトを撃ち、アイスランスを撃ち、アイアンショットを撃つ。しかし、その全てが私には届かない。私のシールドが全てを防ぐ。



「なんで!どうして俺の魔術が!」



「さぁ?きっと貴方が血統書付きのお坊ちゃんだからじゃないですか?」



「雑種風情が調子乗りやがって!死ね!」



拳銃型魔道具に太秦のありったけの魔力が流させる。



「湧き煮立つ鋼鉄の水流よ。我が願望に答え、敵を焼き殺せ!フェルルム・サーペント!死ね北西アリサ!」



金属溶融液が龍の形を成して拳銃型魔道具が作り出した魔法陣から現れる。



「1500℃の溶けた金属で出来た龍。土魔術と火炎魔術の合わさった上級魔術。雑種には出来ねぇ人間族様にのみ許させた特別な力だ。お前の無礼を詫びて土下座すんなら許してやるぜ?もちろん全裸でだがな。」



「そう、もう戯言はおしまいですか?なら、貴方に用はもうないですね。」



1500℃の龍を模した金属がアタシに迫る。さらに太秦がファイアーランスを連射し、逃げ場を塞ぐ。フェルルム・サーペントは誘導性能を付与できる拳銃型アーティファクトで撃ったことにより逃げても避けても無駄。すぐに身体を曲げて襲ってくるだろう。フェルルム・サーペントとファイアーランスにより絶体絶命。しかし、その二種類の魔術が彼女に害をなすことはなかった。



上級魔術フローズン・コキュートス



ありとあらゆるものを凍らす水属性と闇属性の混合魔術。フェルルム・サーペントが1500℃と物理現象であったのに対し、フローズン・コキュートスは概念。凍ると言う現象を押し付ける魔術なため、フェルルム・サーペントは魔力ごと凍り、ファイアーランス

は消える。



そして、太秦は凍った。



「これで、良し。もしもし優希くん?あれ、繋がらないな。これは困ったや。」



















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