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18話:過去①






夢を見た。



時間軸で見たら今から10万年も前、体感にして10年ほど前の18歳。甘さだとか躊躇いだとかの日本人らしい感情がまだ残っていた少年の、勇者だと世間に認知される前の村田優希の夢だ。



トラックに轢かれたことがトリガーになって異世界に召喚されてから1年が経ち、モンスターと呼ばれる凶暴な生き物を殺生することに慣れ始めたある日のこと。俺はいつも通り召喚された国の騎士団長をしているケイロンさんと稽古に勤しんでいた。



「今日はここまでにしようか。ヒール掛けられるほどの魔力は残っているかい?」



ケイロンさんは俺の師匠だ。年齢は恐らく20代中盤らへん。金髪に青い瞳と正統派金髪イケメンで、まさに白馬の王子様。しかも性格が良いと、完璧な男だ。もし自分が女なら間違いなく惚れている。



「まだ残ってますんで大丈夫です。」



「強がりなのは君の美徳だけど、無理は良くない。魔力欠乏症は明日に響くよ。ハイ・ヒール。」



ハイ・ヒールとは傷と疲労度を回復させる回復魔術だ。踏まれると痛いSM御用達シューズのことではない。



「君が召喚されて1年が経った訳だけど、この世界には慣れたかな?」



「慣れてませんよ。この世界のパンは硬すぎますって。」



「そうかそうか。文句の第一声がパンの硬さなら心配は無さそうだね。」



俺にハイ・ヒールを掛けながらニコリと笑う。



今の俺の毎日は朝起きて魔術の勉強をして稽古をした後に寝る毎日。ご飯はあまり美味しくないけど、メイドさんは可愛いし皆なんだかんだ優しい。悪くない日常だ。ずっと魔王討伐なんか行かずにこのままだったら良いのにと思ってしまう。



そんな充実した毎日のワンページ。ケイロンさんとの稽古終わりに談笑をし、夕日を見ながら硬いパンとスープと鶏肉を食べていた日のこと。俺のぬるま湯な生活を終わらせる音が耳を貫いた。



その音の正体は国中の警報音。



魔王軍の襲来である。



即座に高価である魔力回復のポーションを飲み、鎧を着て城に向かい、指示に従って隊列に合流した。国王軍の指揮官はケイロンさん。王国軍の兵士は合計で12万。カタパルトなどの兵器が並び、まさに総力戦だ。



まさに国の存亡をかけた総力戦なのだが、魔王軍が強すぎて段々と戦力が消耗されていく。士気が下がり、兵士が疲弊していく。明らかに勝てそうにない。逆転の策はなく、秘密兵器なんかもない。絶望的だ。



後ろから声が聞こえた。



「報告します!後ろから敵兵、数にして1万、七大軍将アスモデウスの軍勢です!」



七大軍将アマデウスとは魔王を支えている七人いる幹部のうちのひとり。残虐にして残酷にして非情。破壊と拷問と強姦を趣味とする魔族で、とてつもなく強い。



アマデウスの軍勢は国王軍の兵士をゴミみたいに薙ぎ払いながら、本陣に迫り、そして俺らの眼の前まで来た。ケイロンさんは自身に身体強化魔術などのあらゆる魔術を掛けて、身構えた。



「オラの名はアマデウス。単刀直入に言う。降伏せーよ。そうすれば命だけは、助けてやらんこともない。いややっぱ土下座だ。土下座してオラの靴を舐めて裸踊りすりゃ、命は助けてやーる。いや、いやいややっぱ戦場にいる女全部差し出せ。そうすれば指揮官連中は許してやろう。他は皆殺しだ。」



「提案感謝する。だが、生憎その提案には乗れないな。アマデウス。お前の首を頂こうか。」



その風景は魔王に立ち向かう勇者のようで、俺なんかよりずっと勇者にふさわしかった。ただ見ているだけの俺と比べたら、ずっとふさわしかった。



ケイロンさんが黄色い髪を揺らして駆け、剣を振る。それを巨体であるアマデウスが剣で受け止める。初撃を防がれたが、何度も斬りかかる。だがそれら全てを受け止め、アマデウスは余裕の笑みを浮かべる。



実力差は歴然。だが、それでもなお彼には闘志があった。



剣に魔術が掛かり、光り始める。それは光剣と呼ばれている光魔術で作った剣を実物の剣に被せたもの。実物の剣に光剣を被せることで切れ味を増させ、ゲームやアニメの主人公みたいな必殺技を放つことが可能になる。



「ほぉう、それが王国の生きる宝剣とやらだーな?となれば貴様は騎士団長ケイロンか。こりゃあ生首コレクションが栄えそーだ。」



ケイロンさんが何度も攻撃をするが、アマデウスに届きはしない。



「ところで、この国で勇者の召喚に成功をしたと聞いたのだが、勇者とやらはどいつか?まさか、お前の隣りにいた若い雑魚ではあるまいーな。勇者とは人類の切り札。魔王様と対になる者があんな雑魚とは思えんよぉ。」



「勇者なら今頃魔王城の前なんじゃないかな?なんせ勇者様は魔王討伐の旅の道中。もし潜伏していたとしても、こんな辺鄙な国に滞在しているとは到底思えないね。」



剣を交えながらの探り合い。きっとこの戦に負けた時、即ちケイロンさんが負けた時の保険だろう。



「ほぉう。この国に勇者はいないって訳か。なら仕方なーい。諦めて皆殺し、……いや、違うなぁ。普通の将なるであろうが、残念ながらオラは七大軍将アスモデウス。貴様の嘘は完璧であったが、貴様の剣は嘘が付けーんよ。若干の剣のブレ。この国にはやはり勇者がいるのだなぁ?」



アマデウスは気持ち悪いニヤケ面を浮かべ、ぎゃろぎょろとあたりを見回す。



「なるほどなるほど、わかったぞぉー。貴様の隣にいた雑魚が勇者だな?いやぁ良かった。育つ前に目を摘めたのは大変幸運。しかも摘むのはこのオラ!なんて運がいいんーーだ。こらはオラの日頃の行いが良いから。神に感謝しなくてはなぁ。」



「お前が神を語るな、下衆が。」



「下衆?オラが下衆ぅぅうううう?何を言うのだ貴様は。オラはただ真っ当に、本能のままに、欲望のままに弱肉強食をしているだけ。それを下衆だなんて。貴様はオラの生きる喜びを否定するのかぁー?」



話をするだけ無駄で、ただ情報をこちらが出してしまうだけだと判断しケイロンさんは剣を構え直す。次、アマデウスと剣を交えたら最後。決着が決まるだろう。この戦の勝敗が次の1戦で決まり、この国の未来が変わる。



ケイロンさんが地面を蹴り剣を掘りながら突っ込む。光剣を纏った剣が軌道を描きながらアマデウスを襲う。しかしそれをアマデウスが避け、にやりと笑い剣を振るうが、ケイロンさんが加速魔術と衝撃魔術を使い体を立て直して攻撃を剣で受ける。



なんとか攻撃を防いだが、次々と襲ってくるアマデウスの剣戟にケイロンさんの体力が消耗されていく。長時間の戦闘は不利。それをケイロンさん自身も重々承知している。ケイロンさんは勝負に出た。



光剣を纏った剣に、さらに衝撃魔術を一瞬で掛ける。無詠唱、一瞬の発動時間、すでに光剣を被せてある剣に魔術を付与、さらにそれを相手に気付かれないようにする。無茶に無茶を重ねた衝撃魔術の付与は相当の魔力コストだろう。つまり、この策が通用しないのであれば、次はない。もし防がれたらその時は負けだ。



ケイロンさんの剣がまた、アマデウスの脇腹に迫る。当然のようにアマデウスの剣に防がれるが、今回はただの光剣を纏われただけの剣ではない。ケイロンさんの剣に掛けた衝撃魔術が効果を発動し、アマデウスの剣が弾かれて手から離れる。アマデウスの剣が宙を舞った。



絶好のチャンス。この機を逃すまいとケイロンさんが剣の柄を握る手を一層強める。そして、剣に纏わせていた光剣の光が一層綺羅びやかになり、剣から放たれる魔力が強まる。



そして、剣を縦に構え、振り下ろす。



「ホーリー・インフェルノ!」



光剣のエネルギーが前に全放出され、それと同時に剣が持つ火の魔石が作用したケイロンさんのオリジナル魔術。そのあまりにも大きく迫力のある魔術は激しい光を発し、俺は眩しさに耐えられず目を瞑る。



光が収まり目を開くと。思わず自分の目を疑った。



ケイロンさんの魔術により抉れた地面。



光剣が放たれたことで光を失った剣。



そして、腹を太く長い腕で貫かれたケイロンさんの姿。



残酷な現実が俺の瞳を移したのだった。












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