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10話:顔が3つあっても大型犬に該当しますか?






秋葉原ダンジョンの45階層まで難なく進む。道中キメラなどのモンスターに何度か遭遇したが、交代で倒したり共闘したりなどして進んで行った。



45階層になると、先程の44階層とは違いモンスターが全く現れなくなった。これは別にダンジョン内の異常とかではなく、仕様だ。



ダンジョンは通常、普通のモンスターが現れるモブ階層とダンジョンボスが現れるボス階層に分かれている。モブ階層のモンスターはモブ階層にしか出ず、ボス階層にはボスモンスターしか出ない。



「所で師匠。師匠は高校生にしては随分な実力を持っているが、師匠の師匠は誰なんだ?」



「俺の育ての親だよ。」



「育ての親か。お前の家庭も少し複雑なのだな。お前の剣の型から見るにお前の親はニンホア教の聖職者なのか?古式の英国流剣術はルーツが聖騎士だからな。聖職者の師匠を持つなら私の剣に似ているのも納得だ。」



「よくわかったな。俺の親は神父だよ。」



「なるほど、そうだったか。それなら納得だな。ニンホア教は武闘派だから武術を嗜んでいる神父が多い。お前の実力を見るにお前の父は相当の実力者だったのだろう。きっと信仰深い方に違いない。」



ニンホア教についてはあまり詳しくないため、武闘派なことは初めて知った。



何故教皇のジングさんが近くにいて詳しくはないのか。答えはシンプルに恥ずかしいからだ。



想像して欲しい。自分を主神とした宗教の教典を果たして読みたいだろうか。自分の趣味嗜好から恋愛を含めた人間関係の詳細まで神話として書かれた書物を熟読しようと思うだろう。



俺は否だ。恥ずかしくて読んでられない。



「お前は知っているか?主神ガイズが地上に降りられた生身の存在である勇者ユユキの好みとして有名なナシの実について、悪魔の実のモデルであるリンゴに似た食べ物を何故好んだのかは1000年間も議論されたらしいぞ。」



何故梨が好きなだけで1000年も議論されなくてはならないんだ。普通に美味しいから好きではダメなのか。



「お前の食卓にもよく梨は出たのか?もちろん私は出たぞ。なんせ我がゴールディア家は熱心なニンホア教徒だからな。私も熱心な教徒のひとりだ。よく昔は勇者ユユキの教典は読んでいた。ふふっ、当時は子供ながら勇者に憧れていたよ。……どうした?そんな遠い目をして。」



「何でもない、元からそんな目だ。」



モンスターの出ないダンジョンを進んでいく。



ダンジョンの構造や出てくるモンスターは勇者時代とそう変わらない。変わったのはダンジョンではなくダンジョンに挑む人間の道具とシステムだ。



まず、ダンジョンは冒険者協会の出す地図アプリによって迷うことが無くなった。携帯食料はカロリーバータイプのものが発売され、異次元空間に収納出来る袋であるダンジョン内でしか機能しないアイテムボックスなるものは魔石を入れるだけのものであれば安価で買えるようになった。



地域密着型であった冒険者が所属する事務所のようなものであるギルドは全国展開できるようになった事で大企業のような扱いをされるよう変化した。



つまり、今の時代は冒険者にとって大変便利な時代となった訳だ。



「ここがボス部屋、と言うやつなのか?それにしては随分と雰囲気が違うような。」



喋りながら歩いていると着いたのは大きな鉄と石の扉。扉の左右には悪魔の形をした石像が並んでおり、扉の装飾はまるで上野にある地獄の扉のよう。明らかに強そうなボスモンスターがいそうな禍々しい見た目をしている。



ダンジョンの内装は通常だと一貫性がある。例えば、 地獄の扉のようなボス部屋ならば地獄らしくマグマが流れている禍々しい洞窟で、一般モンスターは悪魔だ。なのにここの一般モンスターはただのキメラ。まだダンジョンボスが何かはわからないが、



この様子だとキメラのボスであるキングキメラではない可能性がある。



「どうする?引き返すか?」



「引き返すのもありだが、引き返すには少し材料として弱い。ボス部屋の中を覗いてみよう。」



明らかに死亡フラグが立ったセリフだが、この俺がいるから大丈夫だろう。……今のも死亡フラグだろうか?



扉を押すと見た目とは違い簡単に開いた。中は光源石と呼ばれるダンジョン内を照らしてくれる石が付いてなく、ダンジョン協会が整備した後もない。



つまり暗くて中がよく見えない訳だが、そこは光源となる光の玉を出す魔術、光源魔術で辺りを照らす。



ボス部屋の床は黒いタイルで出来ており、壁は教会を黒く塗りつぶして悪趣味を混ぜたような装飾がされていた。



そして道を作るように扉から両サイドに悪魔の石像が並び、真ん中には大きな四足歩行らしき生き物の像が並んでいる。



光源魔術では当たりを照らすのに限界があり、真ん中の大きな像がよく見えない。しかし、勇者である俺の暗視効果のある目にはしっかりと見える。



あれはキングキメラではない。



キングキメラはキメラの外見に翼を生やしたモンスター。普通のキメラより一回り大きく、強い。プロの上級冒険者がようやく倒せるものだ。



一方、大きな像の方は翼がない。



キングキメラの手足よりもさらに太い手足を持ち、首には首輪と鎖が付いている。そして首と頭が3つ。正しくケルベロスだ。



ケルベロス。それはただ3つ首をつけただけの大きな犬ではない。



ケルベロスの石像に歩みを進めると壁に付いてあった松明が燃え、ボス部屋全体の明かりが付いた。そして、ボス部屋の扉が閉まる。



「どうする?引き返してみるか?多分扉は開かないだろうが。ちなみになのだが、45階層のボスはケルベロスだったりしないよな。」



「45階層はケルベロスではなくキングキメラだ。しかも扉が閉まる引き返し不可なタイプでは無い。そもそもダンジョンでケルベロスが出たなんて聞いたことがないぞ。」



「ケルベロスと言えば魔王城の門番として有名だよな。ありとあらゆる魔術が効かず、皮膚は剣を決して通さない。ケルベロスに唯一勝てる武器は聖剣エクスカリバーだけであろう。だっけか?」



「あぁ、大方合っている。やはり神父の養子なだけあって聖書に詳しいな。」



そりゃあ聖書は俺の実体験が元だからな。



魔王討伐の最終局面。世界の叡智と貴重な資材と巨大な魔石を奮発して作った転移門を使い魔王城まで転移してきた人間族を中心とした反魔王軍と魔王率いる魔王軍との決戦にて、魔王城の門番として戦ったのがケルベロス。



一体の魔王軍幹部ですらないただのモンスターなのにも関わらず強さは3千の軍隊に引けを取らない。一線を超える強さを持つケルベロスには随分と苦労させられた記憶がある。



「まだ石化されている状態だろうが、ほぼ間違いなくケルベロスがボスだろう。神話上のケルベロスと同じ性能を持つ前提の話だが、ケルベロスは魔術を無効化させる力を持つ。大きな遠吠えが魔術無効化の発動を意味するから口元には注意が必要だ。俺が前衛、マギーが後衛。サポートを頼みたい。いけるか?」



「あぁ、任せてくれ。頼りにしてるぞ、師匠。」



「おうよ、じゃあ進むぞ。」



足をさらに進め、ケルベロスの石像に近付くと地響きが始まり石像にヒビが生える。そして石像が動き始め。



「ガァァアアアアァァァaaaAAA!!?」



爆発音に近い轟音が部屋に響きわたり、耳に痛いほど炸裂する。その音により光源魔術は壊れ、身体強化魔術は効果を無くす。



「身体強化魔術をかけ直せ!光源魔術はいらない!火炎魔術は目に集中。皮膚は耐火性能が高くて効かない。目も効きが弱いが、目くらましにはなる。魔力をあまり込めるな。いざって時に温存しておけ。攻撃を決して剣で受け止めようとするな。全力で避けろ!」



足を踏み込ませ、間合いを詰める。狙うは右前脚の関節。勇者しか扱うことが出来ない聖剣エクスカリバーを使う訳には行かないため、マギーから借りた実刀身タイプの魔道具を使う。



「武勲を司る勇士の女神よ。我が身に宿いし穢れを払い、無垢なる刀身に光の加護を与えたまえ。仮装・聖剣エクスカリバー!」



攻撃を通すために劣化版聖剣エクスカリバーを魔道具に宿らせ、身体強化魔術を使用する。



魔術を使用する際に喋った文章は詠唱と呼ばれ、今は廃れた技術だ。魔道具を使用し無詠唱で魔術を使用できる現代においては古い技術。だが、詠唱による魔術の使用は無詠唱とは格段に魔術としての精密さ、即ち威力が違う。



詠唱ありと無しだと無しの方が難しい。そして、無しの方が戦闘の上だと利便性が高い。多少威力は落ちたとしても早く魔術を発動できる無詠唱の方が戦場では有効なわけだ。



無詠唱は高等技術。しかし無詠唱でなければ戦場では遅れを取ってしまう。そこで活躍するのは魔道具。魔道具を使えば高い技術力抜きに無詠唱で魔術を使える。



その利便性故に世界中で長年使われ、詠唱技術は廃れ、人間は魔道具でしか魔術を使用できなくなったのだろう。便利なツールは技能を低下させるのだ。



右前脚を狙うのがわかっていたのか、左前脚を使いハエを叩くかのように振り下ろす。それを剣で流すように当ててかわす。やはり距離を近付けようとすると離されケルベロスに優位な間合いに誘導される。



「行動自体は魔王城のと似てるが、敵がケルベロスしかいないからやりやすくはあるな。」



問題は、本物でない聖剣で何処まで太刀打ちできるか。こればかりは刃を通してみないとわからない。



マギーの火炎魔術がケルベロスを襲う。だが脅威になっていないのか、両サイドの顔で叩いて終わりだ。それでいい。



一方俺はケルベロスの周りを囲むような軌道で走り、後ろから回って切りかかる。後ろに回った俺を後ろ足で蹴り飛ばそうとするが、前足と比べて制度が悪い。そのまま後ろ足に切り傷を入れる。ダメージを与えている感触があまりない。これではケルベロスの自己再生能力ですぐに傷が癒えてしまうだろう。



だから、何度も同じ部位を狙う。後ろに回り、後ろ足を切り、体勢を変えて俺に向けて正面を向こうとするのに対し、また回り足に切り傷を入れる。



その動きに順応したのか、また回り傷を入れようとするとケルベロスはバク転をし尻尾で俺を壁に叩き付けて投げる。身体を吹っ飛ばされた俺は思いっきり壁にぶつかりそうになるが、マギーの魔術により壁と身体の間にクッションが作られ威力が抑えられる。



「サンキューマギー。今のはやばかった。」



「役に立てて良かった。それで、どうする?回って足を狙う戦法はもうあまり通用しなさそうだぞ。」



「そうだな。確かにその戦法は通用しなさそうだ。だが後ろ足を狙うのが1番有効だ。または目だな。目は柔らかいから刃の通りが良さそうだな。マギーは目を引き続き狙ってくれ。俺は後ろ足を狙う。火炎魔術はダメージを与えるのではなく目くらましをイメージだ。」



ケルベロスは戦法を変えたのか自ら俺に向かって走り、前足で襲う。それをいなしつつ、避けつつ機会を狙う。



だが機会を狙う隙すら与えさせたくないのか、両サイドの頭の口元から火の粉が漏らし、そしてレーザーに似た火炎の束を俺に向けて放つ。俺は逃げるように避けるが、先回りするかのように火炎の束の反対から前足が迫る。



絶対の危機。次の一手を一瞬で考えようとするが、幸い爆発音が聞こえ火炎の束が後ろから消える。慌てて身体を後ろに蹴りながらその最中に火炎の束を吐いていた顔を見ると煙らしき跡が見えた。きっとマギーが火炎魔術の応用で爆発を与え軌道を変えてくれたのだろう。



はっきり言って今の俺らは劣勢だ。何時まで持つかわからない体力と魔力はほぼ無限の体力と魔力を持つケルベロスに対してジリ貧。今は良くても何分かしたら俺はともかく彼女の魔力は尽きてしまうだろう。



勇者なのだから俺が本気を出せば良いという話だが、俺は十万年の眠りのせいで本調子ではない。大手術を終えてリハビリをしているスポーツ選手のようなものだ。目覚めてから1年も経った今でさえ全盛期に比べたら全力を惜しみなく出した時の実力の半分もないだろう。



正直、今の俺は動きだけなら全力だ。だがそれにケルベロスはついていけている。魔術を使っても良いが、消耗が激しい。打開策を打ち出せてない今使うのは愚策だろう。



こんなにも苦労するのなら全力を出したときの実力をもっと念入りに確認すべきだった。



「なぁマギー。知っているか?自然の炎と魔術で再現した炎は厳密には同じではない。自然の炎は可燃物が空気中の酸素と高温により激しく反応し熱と光を放出する燃焼現象だが、魔術の炎は可燃現象を魔力で再現するものだ。つまり、自然の炎は魔術の炎とは別物だ。」



「それがなんだと言うのだ。」



「自然の炎と魔術の炎は別物。なら、ぶつかっても混ざり合わないとは思わないか?」



「何が言いたいのかさっぱりわからんのだが。」



「マギーは炎の扱いには自信があるんだろう?ならケルベロスが炎を吐き出した瞬間、口内に向けて火炎魔術を放て。あれはおそらく自然の炎だ。ケルベロスの口内には火炎放射機能があるんだと思う。」



「なっ!何を言っている!仮にだ。仮にそれが出来たとして口内に火炎魔術を当てられた次の瞬間には私達灰になっているぞ。」



「それは俺が何とかする。俺はマギーを信じる。だからマギーも俺を信じてくれ。いけるか?」



「……あぁ、私もお前を信じよう。だから、頼んだぞ、師匠。」



「おうよ愛弟子。」



久しぶりに魔術を全力で使う。腕輪型の魔道具を外し、実刀身タイプの魔道具を握り直す。補助輪はいらない。ケルベロスを倒すのに必要なのは剣と愛弟子だけだ。



剣を持ちケルベロスへ駆けると同時に魔術を発動する。数にして20。魔法陣が俺の背後の空中に描き込まれ、雷撃と水球、岩石と火球が剣の形をしてケルベロスに襲いかかる。



「ガァァアアァaaaAAA!!」



それらを全て無効化し魔術を消すが、その隙を利用して後ろ足まで跳び、仮装・聖剣エクスカリバーをただの実刀身型魔道具に貼り直し、切り傷で柔らかくなった皮膚に深く差し込む。そしてそのまま反対の足まで移動し、剣で乱撃して切り傷を刻む。



俺にとって魔術の使用を補助する魔道具は足枷だ。魔術の使用のノイズにしかならない。詠唱による魔術は無詠唱に勝るが、無詠唱の魔術は魔道具を利用した魔術に勝る。



先程は詠唱をしたが、マギーを完全に信頼することに決めた俺にはもう魔道具を使用しない無詠唱魔術を隠すなんてことはしない。もちろん彼女の信仰する宗教を考えて自分の正体をバラすことはしないが、実力までは隠さなくていいだろう。



尻尾が迫ってきたのでそれを避け、背中に飛び乗る。そして尻尾を根元から切り落とした。すると切り落としたはずの尻尾が徐々に再生されてくる。それでいい。後脚のダメージよりも尻尾の再生に集中しているのだから好都合だ。



「次は前脚を狙う!ダメージを少し与えるだけでいい!いけるか!」



「もちろんだ!任せてくれ。」



背中から降り、前脚へ切りかかる。それに合わせてマギーも切りかかると、ケルベロスが3つある頭の口を使い阻止してくる。口を避けつつ前脚に切り傷を入れていると、ケルベロスは狙いを変えたのかマギーに襲いかかった。



弱い方を狙い、その後強い方を倒す。その意思を感じ、マギーを守り攻撃をいなすが限界が来る。マギーを狙った渾身の一撃を対して剣を当て避けた時に、爪により腹を少し裂かれてしまった。



「師匠!」



軽い切り傷だ。とりあえず軽く回復魔術を掛け、傷口を抑える。内臓へのダメージは軽微。無視して構わない。



「大丈夫だ!俺のことは気にするな!自分を守ることに集中しろ。」



とにかく早く重い攻撃。回復しつつあるケルベロスの尻尾。仕掛けるなら、この10秒だ。



「三重複身体強化魔術!」



簡易詠唱。魔道具による魔術の使用でも利用されている魔術の精度を上げる方法。これにより無詠唱では出来ない身体強化魔術の三重の重複を可能とする。



攻撃してくる前脚を剣で受け止め、押し返す。そして体勢を少し崩したその隙を見逃さず反対の前脚に切り傷を入れ、深く切り込む。



するとそれを見たマギーが攻撃により空いた空間に入り込み、押し返されて浮いている前脚に火炎魔術を被せた聖剣レッドローズで切り込む。



「四足の切り傷に火炎魔術!体勢を崩させろ!」



一息付き、簡易詠唱する。



「咲き爆ぜろ!ローズレッドバーン!」



四足にまるで火炎の花が乱れるように炎が爆ぜ、爆発する。その爆発により切り傷が開き、体勢を崩して座り込んだ。



しかし、まだケルベロスには切り札がある。3つのケルベロスたる由縁の頭部が残っている。



ケルベロスの両サイドの口から火の粉が見え、炎の束を放つ準備をする。そして炎の束が放たれる。



「聖なる盾よ、我らを守護せよ!聖盾イージス!!」



神の武具として誇る盾の名を冠した光魔術による防御魔術が俺らを守る。が、しかし真ん中の口が雄叫びをあげる準備をした。



次の瞬間間違いなく聖盾イージスは崩れるだろう。



だが、それよりも早く彼女の魔術が口内まで届くはずだ。



「今だ!ぶち込め!」



俺の背後から炎の槍が生成され。



「貫け!ローズレッドランス!」



ケルベロスの吐く炎を貫きながら、3つある口内まで届く。ケルベロスの雄叫びよりも早いその赤い槍は頭を貫き、それよりもワンテンポ遅く雄叫びの音が響き渡る。



聖盾イージスが崩れ、ケルベロスの炎の束の残火が俺らを襲い、そして……。



「▇▇▇▇▇▇▇▇▇。」










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