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殺し屋反抗中  作者: 裏月 ヨーリ
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第九話 公安警察

【二章】 公安と情報屋



公安警察とは、国際テロ、政治犯罪、過激派、外国による対日工作など、日本全体の治安や国家の安全に悪影響を及ぼす可能性のある事案を未然に防ぐための組織である。そのため、他の警察部門よりも秘密主義的である。公安警察は国家間の大きな事件を受けるため、他の警察部門よりも更に厳しいレベルのテストが圧倒的に多かった。

よって、他の部署が同じ事件や関連性のある事案を取り扱っていたとしても、公安警察は情報の共有や交換を行うことがない。仕事上、国家秘密なども扱うため、一般的な「警察」と「公安警察」は区別して認識される。

加えて、公安警察の捜査では、協力者や情報屋を用いて情報収集を行ったり、秘聴、秘撮、追尾などの特徴的な捜査手法がとられる。このように、公安警察は、一般的に見られる警察と比べると、スパイのような性質を持っているのだ。



なぜこんなことをつらつらと述べているかって?それが俺、綾川 大犀の仕事だからである。涼風にはフリーのライターだと言ったが、本当は俺と神酒、二人とも公安警察である。ほぼアドリブで誤魔化したから内心ヒヤヒヤしていたが、涼風の様子を見るにおそらく大丈夫だろう。




そして、これは涼風と再会するちょうど一週間前の話である。


俺と神酒が今追っているのは、二十代女性連続殺人事件の犯人である。そして、この事件はここ一ヶ月で無差別に行われており、一昨日も一人殺害されたため、今まで殺された女性は合計四人となった。

その四人全員に共通点はなく、無差別殺人と思われている。この無差別殺人と思われている事件に共通点を見つけることが事件解決の一番の近道とされるだろう。この事件の被害者は全員殺害方法も場所も時間も異なっており、共通点がない。しかしなぜ連続殺人だと断定出来たのかと言うと、事件現場には共通して、押しつぶされ変形した指輪が置かれていたからである。

ただの無差別連続殺人事件だったら、公安の出る幕はないのだが、どうやらそう簡単な話でもないらしい。事情は詳しくは分からないが、公安に舞い込んで来たこの事件を解決しないわけにはいかない。だから、これを任された俺と神酒の二人が、捜査を行うよう上層部から指令が届いた。


「はぁぁぁああ……」


思わず大きなため息を吐いた。捜査資料を渡されたのはいいものの、事件現場には犯人の痕跡なんてないし、被害者のプロフィールを見ただけじゃ、到底共通点なんて見つからない。上層部から渡された資料と一時間以上に睨めっこ状態だ。流石に頭が回らなくなり、目頭を軽く押さえて大きくあくびをした。


「つめたっ!!」


するといきなり頬に冷たい感触がした。振り返ると右手に水のペットボトルを、左手にココア缶を持った神酒が立っていた。


「そんな仏頂面したって事件は解けないと思うぞ?」


そう言った神酒は、相変わらず元気はつらつで、声もよく通る。さっきまで現場走ってたはずなのに、それを感じさせないほどの元気っぷりに思わず押されそうになった。


「上層部に渡された資料を見てたんだよ。まあこれだけじゃ全く分らんがな」

「超秀才エリートのお前でも解けないのか?」

「俺をなんだと思ってるんだよ……」


少し神酒を睨みながら呟くと、スッと目を逸らした。


「今回の事件思ったより厄介だよな。

おれも資料見たけど捜査資料が少なすぎてすぐに見るのやめたよ。ほぼ捜査が手付かずって感じ?

でも、おれは今回の事件に関わることができて、ちょっと嬉しいんだ。」


その言葉に眉を寄せ、思わず神酒を何言ってんだこいつという目で凝視した。


「いやいや!殺人事件はダメだよ思うよ?殺すってことは、その人の人生を強制的に終わらせるってことだろ、その犯人によって。

そんな殺人事件を起こす奴は絶対逮捕しないといけないって分かってるよ」


その真剣な姿を見て、余計に神酒が嬉しいと言った理由が分からなかった。


「ん”ん”……つまりだな。

警察学校卒業してからお互い自分のことで精一杯で、特にお前は優秀だったからおれより大変な仕事も任されてただろ?

今までは手伝うことも相談に乗ることも出来なかったけど、今回は違う」


そう言って神酒は俺に目を合わせてニカっと笑った。


「お前の側で全力でサポートできる。それが嬉しいんだよ。」

「……あっそ。いい歳してそんな告白まがいなこと言うのやめろよな」


神酒から目を逸らすようにそっぽを向きながら、デスクから立ち上がり大きく伸びをした。凝り固まった体の所々からぼきぼきと音が鳴った。


「えっ!照れてんの?照れてんの!?もっと顔見せろよ〜!」


ニヤニヤと笑いながら俺の肩を組んでくる神酒を鬱陶しく思いシッシッと手で追い払う。ツンデレかよ〜。なんて言いながら自分の机の資料をクリップでまとめ始めた。

勘違いしないでほしい。ツンデレじゃないし。なんで俺が二十代も後半に差し掛かった男友達にほぼ告白とも言える言葉を囁かれなくてはいけないのだ。少しヤケクソになりながら神酒に言い放った。


「ツンデレじゃな・い・か・ら・!とりあえず手伝ってくれるなら事件の内容をまとめるぞ!神酒、少し手伝ってくれ。」

「はいよ」


未だニヤニヤとこっちを見てくる神酒に一度睨みつけると少し肩をすくめて、引き継ぎ資料をクリップでまとめ始めた。


俺は部屋にあったホワイトボードとペン、被害者女性の写真、事件が起こったところに印を付けた地図を使い、今回の事件の概要をまとめた。


一件目

被害者  後藤ごとう 遥華はるか

年齢   29歳

職業   会社員

事件現場 東京都足立区の公園

死因   腹部損傷による出血多量

凶器   刃渡り15㎝ほどの鋭利な刃物


二件目

被害者  相川あいかわ 恵美えみ

年齢   25歳

職業   大学院生

事件現場 東京都大田区の路地裏

死因   後頭部破損(即死)

凶器   近くにあったレンガ


三件目

被害者  笹木ささき 咲希さき

年齢   27歳

職業   会社員

事件現場 東京都目黒川下流の河原

死因   溺死

足に重しがついていたので事件性があると思われる


四件目

被害者  川崎かわさき 菜奈なな

年齢   23歳

職業   大学生

事件現場 東京都八王子市の会社ビル

死因   全身打撲による四肢の破損

遺書が無く、屋上の荒れた形跡から突き落とされた模様


全ての事件現場・凶器には指紋や髪の毛などの犯人につながる手がかりがなく、目撃者もゼロ。人間関係にも共通点はなし。分かることと言えば、押しつぶされた指輪が置かれた事件現場で、被害者が二十代女性が、ここ東京を中心として殺人事件に巻き込まれているということだけだ。


パチンッ


マジックペンのフタを締める音が俺と神酒しかいない部屋に響いた。しばらくの沈黙の後、その沈黙を破ったのは俺だった。


「やっぱり情報が足りない。

ただ、“二十代女性を狙う”といことと“殺人現場が東京”、そして“変形した指輪が共通して置かれてる”ってことは完全に無差別に殺しているということではない。ってことは確かだ。絶対どこかに共通点がある。」


俺は神酒に貰ったペットボトルの水の残りを一気に飲み込んで、立ち上がった。


「出かけるのか?」

「あぁ。ちょっと情報屋に行ってくる」

「公安の協力者か?」

「いや、違う。裏の世界の情報をほとんど司っているという情報屋だ。名前は『海溝』。あっちの世界でのコードネームだとさ。まあこの際どうでも良いけど……」


俺は椅子にかけていた羽織物に腕を通した。


「なんでまたそんな危険な賭けに出るんだよ。下手したら、裏社会にお前の名前が出回って要注意人物にされちまうぞ?」


あまり良い案とは思えない、と神酒は言っているが、ここで引くわけには行かなかった。少しでも怖気付いたら被害者が増えるだけなのだから。


「今回の事件、ちょっと気になるんだよな。

上層部から渡された資料内容が薄過ぎるんだよ。おそらく刑事部が元々この事件についてを調べてたけど、公安か上の圧力で捜査がストップしたのかもしれない」

「なんでわざわざそんなこと……」

「俺の憶測だけど、公安が捜査しないといけないような、ヤバいやつが関わってるのかもな。だからこそ情報屋の方に行こうと思ったんだよ。少しでも可能性があるなら、俺はそれに賭けたい。」


羽織もののボタンを上まで止めて、貴重品が入った鞄を片手に部屋のドアノブに手をかける。


「分かった。おれも行くよ!」


俺の羽織より少し分厚い上着を着つつ、神酒がこっちに走って来る。


「一人じゃ何かあった時に対処しにくいからな!」


そう言って、俺の肩をポンと叩いた。ありがとう、と神酒に言って、俺はドアノブに手をかけた。



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