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殺し屋反抗中  作者: 裏月 ヨーリ
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第五話 なぜこうなった

【一章】 飲み会



それから一ヶ月ほど過ぎて、文化祭前日。結局、販売する食品は、コーヒーとアイシングクッキーになった。無難だが、決まってからの行動が早く、他クラスよりも一足早く準備を進めることが出来た。それはやはり河内さんの声掛けと行動力のおかげだろう。

教室内は、喫茶店のレトロな雰囲気を表現するため、美術部メンバーが木の板のように塗ってくれた紙を、壁一面に貼っていた。ところどころ紙が足りないところは、近くのショップに売ってあるお花や蔓、リボンなんかを装飾して飾りつけ。お客さん用のテーブルは、いつも私たちが使っている座席をくっつける。それから各家から持って来た余り物の布をそれっぽく縫い付け一枚の布にし、テーブルクロスをかけて仕上げた。

うちのクラスは器用な子が多かったので、内装の雰囲気はどのクラス、いやどの学年にも引けを取らないものとなった。と私は思っている。

私は部活に行っていないので、準備にはそれなりに参加した。母がよく裁縫を教えてくれたので、テーブルクロスを中心的に作ったのは私。クラスに貢献できて心の中で大満足。陰ながらしっかりとみんなを支えることが出来た。


これで十分なのだ。そう。

十分なはずなのに────。


「愛夢ちゃんこっち向いてー!」

「キャー!かっこいい!!」

「イケメーン!最高だよ!すずちゃん!」

(なぜこうなった……!!!)


さっきも言ったが、うちのクラスには器用な子が多かった。それこそ私以上に。そんな子たちがテーブルクロスを作らずに何をしてたかって?執事服を作っていたんだよ!!それはもう楽しそうに!

手芸部に入っていた市川さん、林原さん、メイを中心に、美術部以外の女の子はほとんどその役回りに入っていた。

テーブルクロス担当は私と綾川くんと神酒くん。この二人、裁縫なんてこれっぽっちもできないからほとんど私が作る羽目になった。

頑張って手伝ってくれるのはいいけど、逆にめちゃくちゃになるから、他を手伝えと放り出した。しかし河内さんが、さすがに涼風さん一人でやらせるわけにはいかないから、形だけでも、ね?とこれまた申し訳なさそうに頼んできた。そんな健気に頼まれたら断れないよ〜。と心の中で涙目になったが、河内さんに迷惑かけるわけにもいかなかったので、雑談タイムに入っている二人を放っておいて私は淡々とミシンで布を繋ぎ合わせた。

たまに二人は執事服製作陣に呼ばれて採寸したりサイズ測ったりしていなかったが、居てもいなくても変わらなかったのであんまり気にしていなかった。

というか今更だけど、河内さんに二人を頼まれた時に、さりげなく服のサイズや身長を聞かれたような……。最後の方の話はミシンに集中していたので特に深く考えずに答えてしまったのだろう。その結果がこれだ。恨むぞ過去の自分ーー!!


「……で、誰よ。私に執事服着せようとか言ったの。」

「俺ー!」

「お前かよっ!!」


私は迷わず綾川くんに飛び蹴りを喰らわした。痛いよーと泣き喚いているが知るか。私は陰ながら支える学級委員長でよかったのにっ!!お客さんに接客とかしたことないし、その初めての接客が執事って無茶振りがすぎるだろっ!!!私はグリグリと綾川くんの背中を踏んだ。


「だって見たかったんだもん」

「うるさいっ!人に許可も取らずにこんなことするなっ!」

「そう言わないで愛夢ちゃん!すっごく似合ってるから」


手芸部の一人市川さんが私に親指を突き立てた。林原さんはかけたメガネをクイっとあげて、興奮気味に市川さんに同意する。そうだそうだ、と足元にいる綾川くんも賛同する。あなたはちょっと黙ってなさい。


「すずちゃんって意外と中性的な顔立ちしてるから、その癖っ毛の髪もいい感じにまとめたら本当にかっこいいと思うよ!」


メイが無邪気に私の後ろからハグをしてツンツンと頬を突く。あずま めい、メイと呼んでと言われているので、メイと呼んでいるその子は、中学一、二年生の時に同じクラスだったこともあり、女の子の中でも特に仲がいい。

人懐っこく甘えたさんなところがあるのは、五人兄弟の末っ子だからだろう。初めて聞いた時は、自分が一人っ子なのも重なって、その兄弟の多さに驚きを隠せなかったのを今でも鮮明に覚えている。


「よーし!他にシフト入っている男子と女子は集まってー!サイズの確認するから!」


市川さんが声を張り上げてクラス中に声をかける。クラスの半数ほどが集まって賑やかに試着会を行なっている。メイが私に抱きついている間にこっそり私の足から抜け出した綾川くんも試着会に混ざっている。

試着し終わった綾川くんを女の子のほとんどが黄色い悲鳴をあげながら写真を撮っている。さすがモテる男子はすごいなーと、その様子をぼんやりと見つめてた。すると、さっきまで私に抱きついていたメイが私の顔を覗き込んだ。


「どうしたの?すずちゃん。試着会混ざりたかったら混ざってもいいんだよ?」


小首を傾げながら私を見上げるメイを見て、妹がいたらこんな感じなのかなと思いながらそっと頭を撫でた。


「メイは執事やらないの?」

「うん。私は作る方が楽しいし、男の人の服装似合う気がしなかったから断ったの!」

「……へえ。すごいなメイは」

「?どうして」

「だって自分の嫌なことをはっきり言えるのって自分が思ってるよりすごいことなんだよ?」

「そうかなぁ?」

「そうだよ!」


メイは私の顔を覗き込んだ。私は少しドキッとした。メイが心配そうに私を見つめて、小首を傾げているからだ。メイは少し考えるそぶりを見せてから、私をぎゅっと抱きしめた。


「すずちゃんは誰にも、嫌なことはっきり言えないの?」

「……?」

「あ!言いたくないなら言わなくていいよ。

でも、私のママは辛い時とか、苦しい時とかこうやって抱きしめてくれたの。そしたらね不安がすぐ和らぐの!」


だからね───


「私はすずちゃんをぎゅーって抱きしめてるの!」


そう言ってニコッと満面の笑った。その無邪気なメイの姿を見て、私は溢れそうになった思いをグッと堪えて、にっこりと笑い返した。


「ありがとうメイ!」

「どういたしまして!」


すると、メイは満足したように私から離れた。


「じゃあ私、試着会の手伝い行ってくるから!」


と言ってトテトテと走り去っていった。メイが去った後、改めて私は自分が着た執事服を真顔で見下ろした。


「……。本当にやらないといけないのこれ?

誰かせめて接客の仕方教えてよお〜」


この服を作った手芸部とその原因を作った綾川くんに接客の仕方を教わるため、私は試着会メンバーにトボトボと足を進めた。



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