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殺し屋反抗中  作者: 裏月 ヨーリ
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第四話 準備

【一章】 飲み会



「こちら、いちごとブルーベリーの抹茶クリームタルトです!」


喫茶店に行くと決まってからの私たちの行動は早かった。学校の近くにある、安くて美味しい店を瞬時に探し出し、迷う間も無くそこへ直行した。

夕方からなのか、あまりお客さんはいなかった。お店には穏やかで心落ち着くBGMが流れており、少し和を感じさせる雰囲気があった。メニューも和風のものが多かったが、宣材写真の食べ物と飲み物は和と洋を融合していて、とても美味しそうに見えた。

綾川くんと神酒くんもせっかく来たからと、それぞれ、抹茶ラテと、あんこクッキーを注文した。全員の注文の品が届くと誰からともなく手を合わせて、声を揃えていただきますと言い、頼んだものを口にする。


「「「!?」」」


「美味しい!」

「うまっ!」

「Delicious!!」


(ぐはっ!!やめて神酒くんほんとに笑かさないで。いきなりの英語やめて。しかもそのまま平然とした顔でクッキーを食べるなっ!!)


「情報が渋滞してるわっ!!」


私は口に含んだタルトを何とか飲み込んで言った。綾川くんは笑ってるし。神酒くんは何で怒ってるのって顔してるし。もう収拾がつかないわ……。


「うますぎっ!何このクッキー!今までこんなクッキー食べたことないよ。めちゃくちゃ美味しい……。あんことクッキーって相性いいんだね。」

「こっちのカフェオレも美味しいぞ。甘さが控えめなのにクセが少なくて後味がスッキリしてる。冷やしても常温でも美味しいんじゃないかな。」


二人は自分が食べたお菓子や飲み物について熱く語り合っていた。私は少し呆然としながらその様子を見て、手元にあるタルトをパクパクと口に放り込んだ。抹茶クリームは抹茶の味が濃いのに苦くなくて食べやすいし、たまに入っているフルーツの酸味がアクセントになってめちゃくちゃ美味しい。

本当にこれまで食べたお菓子の中で余裕で上位に入ってくる代物だ。お腹が空いていたこともあり、あっという間に食べ終わってしまった。

少し余韻に浸りつつ、後から頼んだミルクティーを口に含んだ。これもまた驚くほど美味しかった。白桃のミルクティーはあまり飲んだことがなかったが、こんなに相性がいいとは。

単独で飲んでも美味しいけど、このミルクティーは甘さが強くないから、さっきのタルトと合わせて食べたりしたらきっと最高なんだろうな。

これは何度でもリピートしたくなるお店だ。私は心の中で、このお店の名前と場所を完璧に覚えた。


それぞれが注文したものを食べ、一通り感想を言い合う時には夕陽が沈みかけていた。私の母は家に帰るのが遅いと心配するので、一応連絡を入れる。するとすぐに返信が返ってきた。



なるべく早く帰ってきてね。薄暗くなったら危ないんだから人通りの多い道を通ること。十九時までには絶対にかえって来てね。ご飯作って待っておくから。



出そうになった震えとため息をなんとか飲み込む。相変わらず母は心配性だ。過保護すぎるメールに返事を書く───


「…ず……ぜ───。す…かぜ────。

涼風っっ!!」


ハッ


私はパッと携帯から顔をあげた。母への返信を考えて、ぼんやりとしていたからだろう。二人とも私の顔を覗き込んで心配そうな顔をしている。余計な心配をかけてしまった。私はにっこりと二人に笑いかけた。


「大丈夫!お母さんとも連絡取れたしそろそろ行こっか。外も暗くなってくるし。」

「そうだな」


私たちは荷物をまとめて小銭を確認し、会計に行った。あの美味しさでこの値段は安すぎでは?と思わずツッコミたくなるような値段だったので、無意識に伝票を二度見してしまった。

店員さんも穏やかそうでニコニコしており、このお店の柔らかな雰囲気とバッチリあっていた。私たちは会計を担当してくれた店員さんにお礼とご馳走様を伝えて店を後にした。


「んん〜!ほんと美味しかったー!」

「だね。私もあんなに美味しいタルト食べたの初めて。」

「おれも!クッキーはテイクアウト出来るみたいだったから、また買いにこよっと」

「え!私も行く!もし買いに行く時あれば教えてよ」

「俺も、家族にも買って行ってあげたいし、次も一緒に行こう!」

「うん!」

「そうだな」


はははっと私たちは笑い合った。全員帰る方向が違うので最寄りの駅で、また明日、と告げ立ち去った。私は耳にイヤフォンを装着し、ラジオの番号を合わせた。

私は普段、家でも学校でもやることが多いので、テレビを見る時間がない。なので、こうした隙間時間に世間のニュースや事件を聞いている。ラジオが有線のイヤホンと繋がっていることを確認してカバンの中にラジオを入れる。その時、学校からもらったプリントが見え隠れしていた。なんだっけと思い、そのプリントを取り出す。それは、終礼時に配られた文化祭の食品についての資料だった。


……。

結局文化祭で販売する商品決めてなかったーーー!!!!


喫茶店の衝撃が強すぎて三人とも完全に忘れていた。明日アンケート投票しないといけないのに。どうしよう。私は絶対今この時のために使うためではない、私の賢い頭を素早く回転させた。



次の日。学校に登校し、朝礼が始まる前、私たち三人は無言で集まった。全員お互いの顔色を見て、アンケートのことをちゃんと思い出して書いたのだと理解した。三人とも紙に書いたお題をいっせーのーせっで出した。


和菓子


そう。確かに昨日食べたお菓子は洋風と和風を掛け合わせたものだったが、やはりここはシンプルに和菓子でしょ!と思った私の気持ちと二人の気持ちが一致していたので安心と喜びが私の胸に広がった。

今の時代、韓国のお菓子だ、海外の紅茶だのと騒ぎ立てているキャピキャピな高校生(私の偏見)たちよ!見ときなさい。今こそ、わがクラスが日本の誇る素晴らしい和菓子を執事と一緒に提供してやるわ!

そうして、私たちは嬉々としてそのアンケート用紙を河内さんに提出した。


「和菓子か。今までにない案でいいね。

でも、喫茶に和菓子に執事ってちょっと情報量多くない?」

「「「!?!?」」」


提出した内容を見た河内さんがポロリと私たちの案への感想を言う。


た、確かに……!


情報量が多すぎると、結局何したいか分からなくなる。要素を詰め込み過ぎるのは失策だったか。

私たちが少ししょんぼりした様子を見せると、河内さんは慌てて訂正した。


「あぁ!でもこれはあくまで私の主観だから!三人の意見に反対したわけじゃないの!紛らわしい反応してごめんなさい。

意外性があって案外アリだと思うよ!

アンケートの結果次第で案が採用されないかもしれないけど、案出してくれてありがとうね。」


そう言ってニコッ笑った河内さんは、みんなの分も集めないとと呟きながらクラスメイトに声をかけに行った。その様子をぼんやりと見つめながら、やはり河内さんはすごいなと思う。私より学級委員長向いてるからなってくれたらよかったのに。どっちにしろ母は口出しして来そうだが……。


「はぁ。」

「どした?ため息ついて。俺は結構和菓子アリだと思うけどな」

「まあ、何にしても私は美味しかったらそれでいいや〜」


私は文化祭で食べるであろう美味しいお菓子を想像してルンルン気分で席に座った。と同時にチャイムが鳴り、


「やばっ!先生来るっ!」


とみんなが慌てた様子で席に戻る。多田先生は生徒指導を行なっているため、こういう規則には厳しい。見つかったら最後、治すまで地獄の果てまで追いかけられる。これが熱血教師の面倒なところだ。今日は金曜日。はやく授業受けて帰ろーっと。



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