第三十一話 解決してないよ?
【最終章】 殺し屋反抗中
おれは一旦深呼吸をした。殺し屋についての知識を掘り起こした。
「あ!そういえば、世間に紛れているタイプの殺し屋って、すぐに日常生活に戻るために下に普段着ている服を仕込んでるって聞いたことあるな」
「そうなのか!?」
「あぁ。確認するか」
「よし分かった。……え?」
おれは愛夢の前にしゃがみ、大犀から愛夢を受け取って地面に寝かした。そして何の躊躇もなく、パーカーのチャックに手をかけ───
「ちょ、待て待て待て待て!!女性になんてことするんだ!」
「いや、今そんなこと考えてる場合じゃないでしょ。愛夢の未来がかかってるんだぞ?」
「そ、そうだけど……」
「じゃあ止めるなよっ」
再びおれを止めようとした大犀を無視して、おれはパーカーを開いた。するとそこには、愛夢の───なんてことはなく、ちゃんと医師用の服を着込んでいた。
「ほらな?」
「強引すぎるだろ……」
「不測の事態だろ、いつもはこんなことしねえよ!」
おれは軽く大犀を睨んだ。そして、おれたちは二人がかりで気絶している愛夢から殺し屋服を脱がした。
「で、このパーカーどうするよ?涼風の血で血まみれだし、腹部に穴空いてるのはどう説明する?」
「……そうだな。ならっ───」
おれはパーカーに空いた穴を広げるようにパーカーを引き裂いた。
「!なるほどね」
この行動を見て察したのか、大犀が愛夢の体を少し持ち上げた。そして、引き裂いたパーカーを腹に巻いた。
「犯人から奪ったパーカーで止血したって伝えたら完璧だ!」
「流石だな。よし、とりあえず筋書きはこの流れで行こうか。涼風には俺から伝える」
「どうやって?」
「どうやってって、涼風が起きるまで、俺がずっと病室にいればいいだけだろ?」
何がそんなにおかしいんだ、と言わんばかりにこちらを見る。
愛夢のことは友人だと言っていたけどやはり、無意識のうちに愛夢への好意が漏れ出ている。
おれは少し微笑ましながらも、さっさとくっつけばいいのに、と思った。大犀に関しては中学生の時からずっと一途に好きだったくせに告白する気配すらなかった。本人から聞いた訳ではないけど、多分そうだろう。
「そろそろくっつけよー……」
「なんだ?なんか言ったか?」
「何でもねえよお」
ポツリと呟いた一言がギリギリ大犀に聞かれていなくてホッとした。誤魔化すために手を頭の後ろに組んで吹けもしない口笛を吹く。その姿にさらに怪しさを感じたのか、大犀が口を開きかけた時、救急車のサイレンが近づいてきた。
「お!やっとお出ましか」
「神酒、さっき言った通りに動けよ」
「りょーかあい……」
俺は元気よく返事しようとしたが、急に視界が狭ばり、世界がぐるりと回転した。
「へ?」
おれは戸惑いつつも、体を支えることができずに地面にダイブ。失血のせいで目が回ったのか……。大犀が心配しているのかおれに向かって叫んでいる。大丈夫だと伝えようとしたが、舌が回らずそのままおれは意識を手放した。
「え!覚えててくれたんだ。世間に紛れている殺し屋の特徴」
「あぁ、今回はそのおかげで助かったよ」
うみは嬉しそうににっこりとおれに笑いかけた。その笑顔に返すようにおれもにこりと笑った。
おれの首の傷は思っていたよりも深く、何針か縫ったそうだ。さすが世界的に有名な殺し屋。ぎりぎり躱せると思ったのに。
おれは愛夢から受けた攻撃を思い出し、そっと首に巻かれた包帯に触れた。おれは事件後の翌日に目を覚ました。同じ公安警察に事情聴取をされたが、大犀の言った通りに証言したら納得したのか深く聞かれることもなかった。
しかし、愛夢はおれが起きにはまだ眠っており、目を覚したのは事件から二日後だった。大犀は面会時間の間、愛夢に付きっきりでずっとそばを離れようとはしなかった。事件のこともあるだろうが、愛夢に見せるその顔を見ると、それだけではないことは明らかだった。
おれは愛夢の手をそっと握る大犀を見て、病室を後にした。その後目を覚ました愛夢は、大犀に言われた通り証言したらしく、事件は堀山が犯人として処理された。殺し屋Oは逃亡したということで、この事件は無事幕を下ろした。
事件現場に放置されていた女性の死体は被害者家族のもと、無事火葬された。今回はおれたちがもっと早く気づいていれば回避することができたのもあり、おれは心から悔やんだ。他の被害者家族にも、警察から犯人が捕まったと報告して行ったそうだ。
「なるほど!それで無事事件は解決したってことね。一件落着!よかったね〜」
嬉しそうににっこりと笑った。
「そうだな」
「でも、私の方はまだ解決してないよ?」
そう言ったうみは懐から拳銃を取り出した。銃口はもちろんおれに向かっている。口は先ほどと同じくにこりと笑っているが、目は一ミリも笑っていなかった。
「今回、何で“私からあなたと大犀くんに、レイを助けて欲しい”って依頼させたの?」




