第十七話 警察官
【三章】 犯人
「っ────すぐに車を出せっ!」
我に返った俺は、各部屋にいる神酒と部下たちに聞こえる声で叫んだ。
「どうした大犀!?」
「とりあえず車に乗れ!そこで説明する!!」
俺の切羽詰まった様子を見て、何かを察した神酒はこくりと頷いた。
「山田さんはここに残って証拠品の押収をお願いします。寝室のベットの下は特に入念に。一応見ましたが、まだ何かあるかもしれない。
それと、もしかしたら今までの犯行に使われた凶器もあるかもしれない。それも一緒に探してください!」
「了解」
「仲西さんと安斎さんは警察病院に向かって、堀山の居場所と涼風 愛夢の安否確認をお願いします。もし堀山が病院にいたらこの資料を証拠に逮捕してください。
それと、道中この女性がいないかどうか確認してください。もしいたら俺に連絡を。」
「「了解」」
俺はベッド下から見つけた資料のうち、今日の日付けが書かれた女性の資料を二人に渡した。
「神酒、お前は俺と一緒に来い」
「了解」
全員に指示を出した後、俺たちは動き出した。山田さん以外は全員マンションを出て、車に飛び乗った。助手席に神酒が乗りシートベルトを確認つけたことを確認し、車を出す。
「で、どういうことなんだ?」
部下にも神酒にも詳しい説明をする暇はなかったが、全員俺の指示通りに動いてくれた。心の中で全員を称賛しつつ、神酒の質問に答えた。
「堀山の寝室のベッドの下に今までの被害者について書かれた資料があった。個人情報だけでなく、普段の行動や一人になる瞬間までびっしり書かれていた。それに加えて、被害者が死亡した日付けと時刻も書かれていた。
報道では日付けは公開されていたが、詳細な時間までか公開されていなかった。つまり、これは犯人と俺たち警察関係者しか知り得ない情報だということだ」
「じゃあ堀山が犯人で決まりだな」
「そう。だけど、それだけじゃない」
「?」
「他にも資料があったんだが、その中には今日の日付けが書かれた女性のものがあった」
「なっ!?」
「それに加えてもう一人、涼風 愛夢の資料もあった」
「愛夢が!?早く助けに行かないと───」
神酒が慌てて車を出ようとした。その行動を遮るようにして,俺は告げた。
「昨日だ」
「……え?」
「涼風の資料には昨日の日付けと時間が書かれていた。俺たちと別れた後の時間が」
「なん、で……」
「さっき電話したけど繋がらなかった」
神酒がサッと青ざめた。俺自身も最悪の事態を想定してハンドルを固く握る。
「じゃあ愛夢はもう───」
「分からない。でも、今は今日殺されるであろう女性の救出が先だ」
その言葉に神酒は目を見開いた。そして、運転中にも関わらず、神酒は俺の胸ぐらを掴んだ。偶然にも信号が赤になったので、心の中でホッとした。
「ふざけるな。愛夢にもしものことがあったらどうするんだ!」
「そんなこと分かってるに決まってるだろうが!!」
神酒の怒号をさらに上回る声量で怒鳴りつけた。その声を聞き、冷静になったのか、神酒は俺の胸ぐらから手を離した。
「冷静になれ。もし今涼風のところに行っても意味がない。さっき電話した時に繋がらなかっただけで、まだ生きているかもしれないし、もしかしたら自宅で……」
「っ……」
「だから,お前には涼風の家に向かって欲しい」
「え?」
「今涼風の家に二人で向かったら、確実に次の被害が出る。涼風の友人の前に俺たちは警察官だ。この事件を解決する義務がある。
だけど,涼風を放っているわけにもいかない。俺の指示で動いた、と上には報告する。だから、涼風を助けに行ってくれ」
本当は、仲西さんと安斎さんのどちらかに頼むべきだった。俺も気が動転して冷静な判断が出来ていなかった。
次の事件現場と予測される場所と、涼風の自宅位置は程近い。そこから、それぞれ目的の場所に向かえば良い。
信号が青になり、俺は再びアクセルを踏んだ。
「……でも、そしたら大犀はどうするんだよ?殺し屋相手に一人で捕まえるって言うのか?
俺よりも実技試験は低かったくせして、何見栄張ったんだよ」
「っ……分かってるよそんなことは!
だけどそれもこれも、俺の判断ミスだ。瞬時に誰にどの役割を与えるべきか判断しきれなかった……!だから、次はミスをしない。絶対に捕まえる」
俺の言葉を聞いた神酒は顔を歪めながら頷いた。




