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「で、結局断れず昨日も散々遊ばれたと」
「うん……」
食堂のテーブルに突っ伏していたら、隣に座る由莉奈が労るように頭を撫でてくれた。
青崎君が――要が本当にわたしのことを好きだと知ってから、あっという間に月日は過ぎて今は十二月になった。
時々雪が降るくらいに毎日寒くて寒くて、手袋とマフラーが手放せない。あとカイロも。私服時なんてそれはもう、モコモコだ。モコモコにならないと辛い。
……それにしても、何度思い返してもあの日は本当に大変だった。
苗字じゃなくて名前を呼ぶようになるまでその、色々されたし。
お互い高校生だからまだ健全なお付き合いで済んでるけども……卒業した後がちょっと今からこわいなぁ。
色々の詳しい内容は伏せさせてくれ。
思い出しただけで恥ずかしくて穴に入りたくなるから。
ラブラブカップルには普通のことかもしれないけど、わたしの場合はガリガリHP削られるのよ……。
「でもまあ、良かったじゃん? このまま末永く爆発し続けてなよ」
「祝ってるのか呪ってるのかどっちなのそれ」
「祝ってんだよ」
「祝ってんのか」
それから祝いの品だと、由莉奈はスカートのポケットから飴を取り出してわたしの手に乗せた。
お祝いの品くれるの嬉しい。飴玉一個でも嬉しい。でもできればお祝いの品はチョコがいいです。
なんて軽口を言いつつ、さっそく包みを開いて中の赤い玉を口に入れれば、イチゴの味が口に広がった。
甘い物が疲れた心に染み渡るわー。
「里香お待たせー。あ、なんだよ。木野までいるじゃんか。浮気?」
「やっほー。お邪魔してまーす」
「今日は由莉奈も一緒にランチタイムでーす。そして女の子同士なのに何故浮気を疑われるのか」
「冗談冗談。今日多めにおかず作ってるから、木野も食べるか?」
「食べる」
「即答じゃん」
「わたしが由莉奈に要のご飯を自慢しまくってますから!」
特に唐揚げが美味しい。レモンをかけてもかけなくても美味しい。おかげで白米が進む進む。
もちろん他のおかずも絶品だよ! オマケにこれまた美味しいデザートまで付いてくる! 料理人目指してますか?
女子力の高さがエベレストに並びそうな要に敗北感を抱きつつ、三人一緒のテーブルでわたしと要は要作のお弁当を、由莉奈は学食のカレーライスとわたしと要が分けたおかずを食べる。
ちなみにカレーライスと唐揚げは永遠の友。これテストに出ます。
……ん? テスト……?
あ、やっべ。
「テスト勉強全くしてねーや……」
「え、マジで? 期末もうすぐじゃん。なにやってんの?」
「なにやってんでしょうね??」
「俺が勉強見てやろうか?」
「お願いします!!」
「おー。あ、じゃあ一つでもテストで赤点取ったら罰ゲームな。スレスレでもアウト。最低でも赤点より十点以上、上の点数取ろうな」
「え」
「頑張れ里香」
待ってくれ。わたし二人よりそんな頭良くないんやで。
ニヤニヤと要と由莉奈がわたしを見て笑う。
ぜ、絶対赤点だけは回避せねば! でも、スレスレ回避は許してくれません? ダメ? そんなー。
そして短い期間頑張って足掻いて受けた期末テストは、数学はあと一点で赤点だったので罰ゲームが決行されることになった。
泣いていい?
……まあでも、そういうのも恋人っぽくていいかもしれない。
ちょっとまだ、そんな堂々と要のことを好きだって言えるくらいの度胸は無いけれど。
一緒にいる時間はとても楽しいから。
もっとたくさん要のことを知ろう。もっとたくさん話をしよう。
そんで、胸を張って彼を好きだと言えるようになろう。
彼が注いでくれる愛情をちゃんと返せるように。
「好きだよ、要」
「俺も好き」
「私の横でいちゃいちゃするな。他所でやれよバカップル」
握った手は、今日も大きくて温かい。