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 二学期の期末テストで里香が勉強していないと慌てたり、罰ゲームでヘロヘロになっていたりしたが、とにかく無事にテストは終わりあと一週間もしないうちに冬休みに入る。 



 そして冬休み前の日曜日、由莉奈は地元から電車で二時間はかかるショッピングモールへと来ていた。

 本当は電車で三駅の家から近いショッピングモールに行こうと思ったのだが、そこだと里香に出くわす可能性があったので、わざわざ遠い所まで足を伸ばしたのだ。



 その理由は、もうあと一週間程度でクリスマスだからだ。

 可愛い妹分のプレゼントを買うために、あとついでに家族用のプレゼント代わりのお菓子を買うためにここまでやって来た。



 地元近くのショッピングモールよりも何倍も大きく、クリスマスに近いということもあってそれにちなんだ商品も数多く置いてある。

 サンタクロースにトナカイ。それからクリスマスツリーに、プレゼントを入れるための大きな靴下などのグッズもたくさんあった。

 店を回りながら、さて幼馴染に何を買おうかと迷う。



 お菓子などの消えものは元々買うつもりがない。クリスマス限定の商品も買う気はなかった。

 形に残るもので、クリスマス限定の商品でないものが対象だけれど、いざ探してみるとこれだと思えるような物がなかなか見つからない。



 マフラーや手袋などのありきたりな物から、アクセサリー、お互いが好きなアニメのストラップや関連グッズ。

 候補はかなりあるけれど、いざ手に取って見るとなんだかクリスマスプレゼントとするには味気ない気がする。



「前はケーキとか適当なお菓子で済ませてたんだけどなぁ……」



 こうして形に残るような物をプレゼントに選ぼうとするなんて、まるで幼馴染の彼氏である要に対抗しているみたいだ。



 夏休みに失恋して、どうにかこうにか不毛な恋心と決別しようと足掻いているがそう上手くいかない。

 小学五年生から続く恋心はそう簡単に捨てきれなくて、けれども何かしらの形で区切りをつけなければあけない。

 プレゼントを贈ろうと思ったのは、そう考えたからだった。



 暫く店を回って、一旦休憩しようと近くにあったベンチに座る。

 スマホでプレゼントに良さそうな物を検索しながら、どうしたものかと悩んでいた時。



「あれ、由莉奈じゃん。えっ、めっちゃ奇遇!」

「っ、え? 里香!?」



 いないはずの人物が、こちらに向かって手を振りながら駆け寄ってきたのだ。



「どうしてここに……」

「いやぁ、ちょっと材料が足りなくなっちゃってねぇ。買い出しついでに、ちょっと遠出してみました! それにここのペットショップ、近所にあるどこよりも大きいしね」

「ああ、それで。昔からペットショップで鳥とか犬とか見るの好きだったもんね」



 まさかの事態に少し混乱したものの、すぐにいつもの調子を取り戻す。

 そして彼女がここにいる理由を聞き、納得した。



 昔から里香は、ショッピングモールに入っているペットショップを見て回るのが好きだった。

 彼女の両親が、動物関連のアレルギーを多数持っているために家では飼えないので、一人動物を見て回って癒しを得ている。

 ここまで来たのも癒しを欲しがったからだろう。



「そうそう。ここのペットショップ大きいから、取り扱ってるペットの種類も多いし。ところで由莉奈はどうしてここに?」

「ちょっと買い物しに来た」

「……ははーん? さてはクリスマスプレゼントだな。良いの買えた?」

「まだ探してる最中」



 ベンチから立ち上がり、当たり前のように並んで歩き出す。

 本当はこっそり買ってクリスマス当日に渡そうかと思っていたのだが、ちょうどいい。

 このまま一緒にプレゼント選びに付き合ってもらうことにした。

 由莉奈が既に回り終わった店を伝えて、じゃあまだ行っていない店に行こうと、近くにあった館内案内図を二人で見ながら次の行先を決める。



「ちなみになに買おうと思ってるの?」

「消え物以外かな。マグカップとか、ストラップとかそういうの。アクセサリーでもいいし」

「じゃあとりあえず、ここから近いお店から順番に見ていこっか」

「分かった。そうしよう」



 そう言うや否や、里香が手を繋いできた。

 突然の不意打ちに一瞬対応が遅れる。バクバクと鳴る心臓の音に気がつかれやしないかと思いながら、どうしたのと問いかけた。



「人多いし逸れたら困るから手繋いで行こうよ」

「……そうだね。そうしようか」



 繋がれた手を握り返せば、嬉しそうに彼女が笑う。



 手汗をかいてないか心配になりながら、小さかった頃のように手を繋いで二人連れ立って歩くことが、どうしようもないくらい嬉しくて――まだまだ彼女のことが好きだということに、胸に苦いものが込み上げてくる。

 けれどそれを悟られないように、いつも通りの自分を心がけて笑顔を貼り付ける。

 楽しげに前を歩いていく彼女の軽い足取りと違って、自分の足はまるで鉛になったかのように重かった。



 それから雑貨屋をひと通り巡り、次にジュエリーショップに入ったのだが、二軒目の店で一つの台の前で里香が足を止めた。

 彼女が見ていたのは蝶を象ったバレッタだった。

 蝶の羽の部分にはローズクォーツがあしらわれており、光に反射してキラキラと輝いている。



「それ欲しいの?」

「欲しいけどちょっと予算オーバーになるんだよねぇ」



 値札を見てへにょりと悲しそうに眉を下げる。確かに少し高い。

 名残惜しそうな里香の顔を見て、そのバレッタを手に取った。



「これ買ってあげるよ」

「えっ!? いやいや、悪いよ!」

「ちょっと早いけどクリスマスプレゼント。それとも私から貰うのは嫌?」

「めちゃくちゃ超嬉しいですありがとー!」



 わざと傷ついた顔を作って見せたら、素直に感謝の言葉を述べる。

 相変わらずとてもチョロい。



 商品を手に持ちレジでお金を支払った後、その場で付けるからと箱に入れてもらわずそのまま受け取る。

 そして待っていた幼馴染に声をかけ、店にある鏡の前まで連れて行き、早速買ったばかりのバレッタを付けてあげた。



「はい、できたよ」

「ありがとう由莉奈! 大事にするね!」



 鏡で髪に付けられたバレッタを嬉しそうに見て、全身で喜びを伝えるようにぎゅうぎゅうと抱きついかれたので、こちらも抱きしめ返した。



 未だ、彼女への恋心を捨てられてはいない。

 ふとした瞬間、苦しくて苦しくてたまらなくなる。



 それでも、やっぱり彼女は好きな人という以前に大切な幼馴染で、妹分で、親友だから。



「ねえ、里香」

「なあに?」

「私はいつだってあんたの味方だから。何か困ったり悩んだりしたら、いつでも相談して。もし青崎と喧嘩してもちゃんと匿ってあげるし、助けてあげるよ。グーパンで」

「……やだわたしの幼馴染イケメンかよ。好き」



 どんなに苦しくても、辛くても、大好きなのは本当だから。



「私はあんたが幸せなら、それでいいからね」



 滲んだ視界を見られてしまわないように、幼馴染の顔を自分の胸に押し付けた。

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