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里香が青崎要と付き合いはじめてから、暫く経った。
時折見かける二人の姿は仲睦まじく、里香と一緒にいる要はとても幸せそうな顔をしている。
里香も里香で、最初は付き合うことに困惑していたものの、そのうち彼と一緒にいるととても楽しそうに笑うようになった。
そんな幼馴染の姿を見るのが嫌で、二人が一緒にいる時はなるべく近づかないようにした。
自分の知らない顔があるということが、それを見てしまうことが辛かったのだ。
ただの幼馴染に向けるものとは違う、見たことのない笑顔を隣の彼に向けている姿なんて見たくなかった。
離れた場所から見ていても、分かるくらい並んで歩く姿は楽しそうで、幸せそうで。
二人の間に割って入る隙なんて、どこにも無かった。あったとしても割って入る勇気なんて無いけれど。
側から見ても良い雰囲気のカップルなのに、それでも里香は要とは遊びのお付き合いだと思っているようだった。
相談を受けた時は、あまりの鈍さに思わず「あんたのその鈍さはどうしようもないね」と言いかけてしまった。
まあ言葉には出さずとも、態度で伝わってしまったようだったが。
けれどまあ、今までほとんど接点の無かった学校一のイケメンが突然告白してきたのだから、彼女の反応は分かると言えば分かる。
もしも彼女の立場に自分がいたのなら、同じように考えるはずだ。ただ優しい彼女と違って、嘘告であろうとそうでなかろうと自分ならばバッサリ断っていただろうが。
しかしどうして、ああも好き好きオーラを真正面から思いっきり浴びせられながら、それに全くこれっぽっちも気がつかないのか。
昔から鈍い鈍いと思ってはいたけれど、想像以上に我が幼馴染様は鈍かった。
でも、その鈍さのおかげで由莉奈の気持ちを知られることがなかったから、ちょっぴり複雑な気持ちを懐く。
そしてそんな風にあまりにも鈍いから、里香のことが好きである彼が少し不憫だった。
「あ、由莉奈ー! 今日学校終わったら一緒にケーキ食べに行かない?」
「商店街の所?」
「じゃなくて、新しくできたとこ。この前青崎君に連れて行ってもらったんだけど、そこのチーズケーキが美味しくて。由莉奈チーズケーキ好きだから、一緒に食べに行きたいなーって」
「そう。じゃあ今日一緒に行こう。青崎も一緒に行くの?」
「女子会がしたいのでお断りしました」
「ふふ、そっか。じゃあ今日は久しぶりに二人っきりで楽しもう」
不憫とは思うけれど、だからと言って幼馴染の『一番信頼している人』の立場はくれてやる気はないし、恋路の手助けをしてやる気もない。
もっと苦労すれば良い。もっとたくさん困らせられたら良い。
二人の恋路の邪魔をするつもりは無いが、協力してやるつもりも無い。
別に何かしなくても、いつか必ず佐山里香にとって木野由莉奈よりもずっと、ずっと、特別な立場に立つことになるだろう人だから。
「そういや由莉奈次の授業って数学?」
「いや、地理だよ。なに? 教科書忘れでもした?」
「いえす。なので由莉奈様、わたくしめに数学の教科書をお貸しくださいませ」
「別に良いけど、今日行くケーキ屋のチーズケーキ奢ってよ。それと、あんたの頼むケーキも一口ちょうだい」
「いつもありがとうございますもちろん喜んでー!!」
勢い良く抱きついてくる幼馴染を正面から受け止める。
いつも通りのやり取り。いつまで続けられるか分からない幼馴染同士のじゃれ合い。
「あんたは人に抱きつくのが本当に好きだね」
「由莉奈のおメロン様が素晴らし過ぎるのがいけない」
「あほ」
「いたぁっ!?」
頬を胸に押し付けてくる彼女の額に強めのデコピンをすれば、慌てたように離れる。
「ひどくない!?」
「あほなかと言う里香が悪い」
わあわあと騒ぐ里香の頭をぐりぐりと強めに撫でた。