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佐山里香と付き合い始めてから、学校のある日は彼女のために毎日弁当を作るようになった。それから手作りのお菓子も。
なにかの小説で読んだのだが、恋人とより仲良くなるためにはまず胃袋を掴んだらいいらしい。
幸い両親があまり家におらず、基本自炊していたので料理の腕にはそれなりに自信があった。
結果は上々。
自分が作った弁当とお菓子を食べては、美味しい美味しいと言ってくれる彼女のことが可愛くて可愛くて仕方がない。
口いっぱいにご飯を頬張る姿は小動物のようで愛らしく、普段の自炊は面倒だなとか邪魔くさいと思うのに、彼女のためを思って作るととても楽しかった。
弁当だけでなく、なんとなくのノリで作ったお菓子も気に入ってくれたのは嬉しかった。
作ってきたお菓子を入れた袋を見せれば、キラキラと目を輝かせる姿が抱きしめたくなるくらいに可愛くて。
その顔を何度も見たいと思い、ネットや本でレシピを調べては色々なお菓子を作っているうちに、段々お菓子作りが楽しくなり、趣味と言えるレベルになっていた。
今では家のキッチンには、貯めていた小遣いで買ったお菓子作り用の調理器具や材料が数多く置かれている。きっとこれからも増えていく気がした。
「次はなに食べたい?」
「だから食べた後に聞かないでください。じゃあ、伊達巻き」
「それ正月に食べるやつじゃん」
「好きなんだよ。あ、正月繋がりでかまぼこ食べたい」
「了解。かまぼこは……まあ、なんか考えとく」
期待のこともった目をしておねだりしてくる彼女は、やはりとても可愛い。
それから弁当を作っているうちに気がついたのだが、里香と要の食の好みはかなり近い。
放課後デートに出かけた時に要が美味しいと思って食べた物を、彼女も美味しいと言って食べてくれる。
些細なことではあるけれど、それがとても嬉しかった。
好きな人に自分と同じものを好きだと言われて嬉しいと言っていた人の気持ちが、今まで全く分からなかったけれど、今となってはとてもよく分かる。確かにこれはとても嬉しい。
同じものを好きだと、その人がより身近に感じるのだ。
里香の方もそうであるのか、自分と要の食の好みが似ていると気がつくと、より一層距離が縮まったような気がする。
気がするだけであんまり変わっていないかもしれなが。
「本当に青崎君の作るご飯もお菓子も美味しすぎるわー。このままぶくぶくと太らされそうだわー」
「太ったら太ったで、責任とってダイエットメニュー考えてやるよ」
「お、言ったな? ちゃんと聞いたからね。太ったらダイエットメニューおなしゃす。あとこれ、お弁当代です」
冗談半分で言われた言葉に笑えば、彼女もおかしそうに笑って、ふと思い出したようにスカートのポケットから財布を出すと、取り出した千円札を一枚こちらに差し出した。
「だから金は別にいらないって言ってるだろ」
「いや、流石にこれだけのクオリティのお弁当とお菓子貰って何も渡さないのはちょっと……。それともこれだけじゃやっぱ足りない? じゃあもう千円プラスで……」
「ああー、いいっていいって。千円だけでいいから。大丈夫だって!」
「ちゃんと足りなかったら言ってくれていいからね?」
「本当に大丈夫だから。ありがとう」
本当にお金はいらないのだけれど、しょぼんとした様子の彼女にプラス千円増やされそうになり、仕方がないと差し出された千円札を受け取れば、途端ににこにこと笑顔を浮かべるのだから敵わないなぁと苦笑い。
そのあとは暫く、好きな卵料理について語り合った。
選ばれたのは、茶碗蒸しだった。チェーン店の回転寿司の茶碗蒸しが美味しいと。
別に里香が美味しいからと言ったからではないが、少し悔しかったとかそういうのではないが、今度のお弁当は茶碗蒸しを作ろうと決めた。