プロローグ
それは、衣替えが始まり出した五月の中旬頃。
ある日の放課後、わたし――佐山里香は日直のため教室に居残りしていた。
「俺と付き合ってくれない?」
眼前に立つちょっと引くレベルで顔面偏差値が高い男がその言葉を口にされ、とりあえずこういう時にお決まりのセリフ、「そんなにいっぱいなに買うの?」を言ってみた。
「男女のお付き合いの方だけど」
「お、おぅ……。そっちか」
まあばっさり否定されたんですけどね。
お買い物じゃなかったらえっと……なるほど閃いた。嘘告ってやつですねこれ!
どうしてそんな考えに至ったかというと、目の前の男が絶対にわたしなんかに告白するはずがないからである。
わたしに告白してきた彼は、わたしの通う高校で女子生徒たちの八割が好きであろうと言われるくらいに大人気なイケメンである。
名前は青崎要。人形みたいに整った顔と、モデルすら裸足で逃げ出しそうな抜群のスタイルをした、わたしと同じ二年生でクラスメイトだ。
平均身長ど真ん中なわたしが彼の隣に並ぶと、大人と子ども並みの身長差となる。
だって青崎君自販機よりでかい巨人だし。その身長の高さ故にどこにいるか一発で分かるくらいだ。目印にもなる。
容姿でもわたしは彼にはるかに劣っている。いや、別にブサイクってわけじゃあねえんだけども、せいぜいよく言って中の上レベルの顔だから。地味だから。
顔面偏差値がやべえ奴と並ぶとね。その、うん。
そこら辺の女子より綺麗な顔してるからなぁ、この人……。隣に並ぶだけの度胸と勇気がものすごく試される不思議。
わたしの心にダメージが来るようなことはともかく、こんなイケメンで彼女候補がよりどりみどりな青崎君がわたしに告白するなんてあり得ないのだ。
随分と女遊びが激しいっていう噂もあるし。
だからこそこれは嘘告だと思った。むしろそれ以外にあり得ない。
あれかな? 仲の良い男子たちとなんか賭けてんのかな?
これでもしOKしたら、嘘告だってネタバレされて笑い者にされるんですね分かります。
だったらお断り一択!……と言いたいところなのだけれど、これでもし断られた場合なんかペナルティあったら、わたし青崎君に恨まれるよね。
お前みたいな地味で冴えない奴が俺に恥をかかせやがって、みたいな感じで。
それは嫌だ。そんなことになったら、青崎君が大好きな女子生徒たちから月夜ばかりと思うなよって、背後からやられる。
……笑い者にされるのは嫌だけど、青崎君に恨まれて女子生徒たちから狙わられるよりはマシだな。
「えっと……その……わたしなんかでよければ?」
「マジで!? 嘘じゃないよな? 嘘だったら怒るけど」
「う、嘘じゃないですよ……?」
「…………しゃあっ! やった、ありがとう!!」
「うぉえ!?」
あ、あれぇぇ?
な、な、なんか思ってたんとだいぶ違う反応なのですが……??
ものすごく嬉しそうな青崎君にぎゅうぎゅうと抱きしめられて、わたしは宇宙を背負った。