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第二十一話 バレンタインデー

 バレンタインデーの朝、リビングには朝日が差し込んでいた。

 紗希が差し出してくれたチョコは、小さなリボンで飾られた可愛らしい箱に入っていて、どこか家庭的な温かさを感じさせる。

「お兄ちゃん、これ。今年は特別だから」

「ありがと、紗希」


 箱を受け取ると、ふと視線を上げた。すると、紗希が少し照れたように笑っていて、その様子がなんともいじらしかった。

「お兄ちゃん、これからも一緒にいようね」


 その言葉に、嬉しさと少しだけ寂しさが混じった。これからも一緒にいられるはずなのに、なぜか心の奥が少しだけ揺れる。それでも笑って答えた。

「もちろん、ずっと一緒だよ」



 放課後、学校からアルバイトへ向かう。

 最近は安藤さんと二人でいろんなルートで研究所に行っている。今日は西戸部一丁目から市営バスに乗り、ぴあアリーナMMで降りる道順を発見し、行きのバス停まで歩いていた。

 春とはいえ、夕方の冷たい風が頬を撫でる中、安藤さんが少し静かだと気づいた。


「これ、受け取っていただけますか?」

 安藤さんは恥ずかしそうに小さな箱を差し出した。深い青色のシンプルな包装がされていて、紗希のチョコとはまた違った大人っぽい雰囲気だった。その箱を受け取った。

「ありがとう、梓さん。でも、どうして?」


 安藤さんは顔を赤らめ、少し照れながら答えた。

「……恋人ですから、ちゃんと渡したかっただけです。でも、少し恥ずかしくて……」


 安藤さんがチョコを渡してくれた時、わたしの手をそっと握って「楓さんと恋人でいられて幸せです」と囁いた。

 その一瞬、心がふわっと軽くなって、「わたしも梓さんと一緒にいられて嬉しい」って自然に言えてた。


「大好きな人に渡すのって、こういう気持ちなんだなって初めて思いました。楓さんに渡せて、すごく嬉しいです」と梓は少し照れながら言った。

 その言葉に、思わず笑顔を浮かべて箱を見つめた。安藤さんらしい控えめな気遣いが感じられて、胸が温かくなった。

「嬉しいよ、梓さん」


 安藤さんは照れくさい笑顔を見せ、少し顔を背けた。そのあと、少しだけ甘えたように、小さい声で言った。

「もうわたしたち恋人ですから、梓さんじゃなく、梓って呼んでください」


 その言葉に、わたしは胸が高鳴り、自然とうなずいた。

「うん、わかった。梓」


「それで……楓さん。紗希さんからチョコ、いただきました。ちょっと驚きました」

「え、紗希が?」

「はい」

「梓は紗希に渡したの?」

「ええ、渡したら喜んでもらえました」


 安藤さんは優しく微笑んだ。その表情に、どこか安心感を覚えた。紗希も安藤さんも、二人とも大切な存在であることを改めて感じる。

 紗希が喜ぶ顔を想像するとほっとする一方で、安藤さんの照れた姿を見ると、心が静かに揺れるのを感じた。


「わたしも、来年はもっとちゃんとしたものを渡したいな、と思ってます」

 その言葉に、わたしは思わず顔を上げた。安藤さんがどんなものを渡すつもりなのか、気になったからだ。


「来年?」

「はい、来年もまたチョコを……しっかり準備しておかないと」


 少し照れたような口調に、心臓がちょっとだけ早く鼓動を打つ。

 二人と迎える来年のバレンタインは、どんなものになるのだろう――そんな想像がふと浮かび、心が温かくなった。


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