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第十六話 新しい輪

 授業が始まったばかりだというのに、紗希と安藤さんがすぐに顔を見せてくれた。なんだかんだ理由をつけて来てくれたんだろう。


「お兄ちゃん、大丈夫?」

 紗希は心配そうにわたしを見つめている。

「うん、大丈夫だよ」と、少しだけ笑顔を見せた。

「無理しないでね」

 安藤さんが優しく言った。

「体調が辛くなったら、すぐに言ってね」


「ありがとう、二人とも」

 軽く笑って答えた。


 紗希は「お兄ちゃん、今日はどんな感じ?」と聞いてきた。

「うーん、クラスのみんなは驚いてるみたいだけど、何とか大丈夫かな」

 少し照れくさくなってそう答えた。

「すぐに慣れるから大丈夫ですよ」

 安藤さんが励ましてくれた。


 紗希も「そうそう、大丈夫だよ。無理せず、少しずつね」と言って、わたしの肩を軽く叩いてくれた。

 その言葉に少し安心して、うなずいた。

 でもこれじゃ、どっちが兄――姉?――か妹か、分からないな、この状況。



 保健室で自習していると、休み時間にクラスメイトが次々と訪れてきた。最初は少し戸惑ったけれど、みんなが優しく声をかけてくれて、少しずつ気持ちが楽になった。


「楓さん、頑張ってね!」

 クラスの女子が笑顔で声をかけてくれた。

「無理しないで、ゆっくり慣れていってね」

 別の子が言った。

「ありがとう」

 ちょっと気恥ずかしくなったけど、嬉しさがこみ上げてきた。


 その時、男子の一人……中澤が声をかけてきた。

「楓さん、めっちゃかわいいじゃん。背も低くなったし……あ、なんか色っぽいな」

 その言葉に少し驚き、顔が赤くなった。

「えっ、そんなことないよ」

 他の男子はちょっと笑って、「いや、でも見た目、全然男子だった時と違うし、なんかこっちの方がいいな」

「そ、そんなこと言われても……」

 慌てて否定したけれど、胸の奥がドキドキしてきた。


 別の男子がそれに乗っかるように言った。

「うん、確かに。なんか、女の子としてすごく魅力的だよな。あ、自分のおっぱい触った?」

 なんてことを言うんだ、こいつは。中島だったっけか?

 その言葉に、ちょっと胸がドキドキしてしまった。

 男子として接してくるのは仕方ないことだけれど、女の子になったことを実感させられた。

 でも、やっぱり男子がこんな風に言ってくると、少し居心地が悪い。自分が女の子として接されることにまだ慣れていないから、正直言ってちょっと恥ずかしい。

「ありがとう、でも……そういうことはちょっと……」と、照れ隠しに言った。

「ごめんごめん、変なこと言って」

 男子は笑いながら言ったけれど、『自分のおっぱい触った?』が頭の中でぐるぐる回っている。


「頑張ってね!」とか「無理しないで」「ゆっくり慣れていって」って、みんな同じようなことを言ってくれるな……と思ったけれど、その言葉に少し勇気をもらってこれからのことを少しずつ考えていた。



 昼休み、保健の先生の許可を得て、保健室で女子たちと一緒にお弁当を広げる時間が新鮮だった。少しだけ話に加わるわたしに、自然に話の輪を作ってくれる彼女たち。男の頃はまったく話したこともない女子たち。もちろん、紗希も安藤さんも一緒だ。クラスの女子二人と軽く挨拶をしている。


「お弁当、みんなで食べるの新鮮」

 思わずそんな感想が口をついて出た。

「そうだよね〜、女子って群れてることが多いから」

 クラスの女子、山崎彩花やまざき あやかさんが言った。

「ちょっと、彩花、何その表現! まるでケモノみたいに言わないでよ」

 太田結衣おおた ゆいさんが笑って突っ込んだ。

 女の子て、下の名前で呼び合うのが普通なんだな……。

 それより、なんでこの二人なんだろう? あ、もしかして男のときのわたしのファン? まあ今更どうでもいいことなんだけれどね。


「ね、楓さん、今度一緒に帰らない?」

 山崎さんがニコニコしなが提案してくる。

「いいよ。どこか寄り道しよか」

 気軽に答えると、

「だ〜め! お兄ちゃんはあたしと帰るの!」

 紗希が急に割り込んできた。

「紗希さん、お兄ちゃん呼びはちょっと……それに今日は研究室がある日です」

 そうだった。今日は研究室がある日だ。

「む〜」

 安藤さんにお兄ちゃん呼びをとがめられた紗希が、少し膨れて顔を真っ赤にしながら唇を尖らせているのが、なんだかとてもかわいい。


「じゃ、バイトがない日はどうするの?」

 と山崎さんが再び話を振る。

「バイトがない日は、あたしと帰るの! ね〜お姉ちゃん!」

 紗希がしっかり主張してきた。

「楓さんって、どっちかっていうと紗希さんの妹に見えるけど……」

 太田さんが冷静に言う。

「やっぱりわたしのほうが妹に見えるよね……」

「ん〜でも、やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだよ!」

 紗希のブラコンっぷりがよく分かる瞬間だ。


 そうして、わたしは少しずつ新しい自分の居場所を見つけていける気がしていた。

 自分が変わったことを実感し、それを周囲がどう受け止めるのかを考え続けていた。

 無理をせず、自分にできることから――そんな気持ちで、新しい日々に馴染んでいく。


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