2話目-2部
「そう言えば、あんたの名前は?」
「忘れてなかったんだな」
「馬鹿にしてるの!?」
話が逸れたことで私が忘れていたと思っていたらしい、本当に腹の立つ奴
一回絞めてやりたいわね--
だがまだ実力を見せる時じゃない、こいつと戦って私の実力を分からせてやるんだ。
私は狼狼族の中では誰にも負けたことはない、仲間もそれを認めてた。
仲間が危機に陥った時は率先して助けに入り、皆を指揮してどんな魔獣相手でも必ず仕留めてた、私が皆の・・・
そこまで考えて私は頭を振る。
今はそんな事考えてる場合じゃ--
「怒ったのか?」
「ムカついただけよ、それで名前は?」
「ムカつくのと怒るのは同じじゃないのか?」
「あんた結構面倒臭いわね」
「そう言われたのは久しぶりだ」
ニコニコと笑い小さな獣は嬉しそうに私を見た。小さな獣は昔を懐かしむように目を細める、その姿に私は疑問を覚えた、こいつは一体何年生きているんだろう?
小さな身体はまだ数年しか経ってない容姿なのに、中身はそれと似合わない雰囲気を醸し出している。
「あんた、名前もそうだけど年は幾つなの?」
「質問が増えたな」
「悪い?」
二匹で魔樹の森を歩きながら言葉を交わしていく。
「ナスカはその姿だと、二十歳くらいか?」
今の人間の姿を差しているようだが大体あっている、だがそれは人の姿をしている時の年齢だ、元の魔獣に戻ればその年齢は異なる。
「私の事はいいのよ、貴方のことを教えなさいよ」
私の事ばっかり聞いて、自分の事はのらりくらり交わしていい加減頭にくるわ、こいつ本当は自分の事話したくないんじゃないかと疑いたくなる。
「そうだな、僕の名前はセイだ、人で言うと多分ナスカと同じくらいの見た目だと思うぞ」
やっと自分の名前を言ったかと思ったら、年齢は多分ときたもんだ--それも見た目
「あんた、まともに答える気あるの?」
「気に入らないか?」
ニコリと微笑むその顔に私はちょっとブチ切れた。
「名前はわかったけど、あんたの今の年齢とか人になった姿とかまともに話してないんですけど!?」
「人の姿は話せないが、年齢を聞く必要があるのか?」
「あんた私の事ばかり聞いてずるいのよ、それもほぼ合ってるし・・」
語尾が小さくなってゴニョゴニョした、少し悔しくてこいつの言う事にまともな受け答えをしたくなかった。
何を言われるかわかったもんじゃない--
「ナスカの言いたいことはわかった、ただ言えないこともあるその点は勘弁して欲しいな」
それはそうかもしれない、私だって隠していることはある。
「じゃあ、なんだったら言えるの?」
「そうだな、種族名なら」
セイは少し考えてからそう口にした、こいつは一風変わった小型の獣だ、黒い毛並みに銀色の毛が混ざっている一見オオカミにも似ているが、種族が分かればその見当は大体予想がつく。
「じゃあ、あんたの・・セイの種族は何なの?」
「僕はヴァナルガンドと言う種族名だ」
「ヴァナルガンド?」
そう聞いて考えた、この世界には多種多様な種族がいる、私も全てを知ってる訳じゃないが大体の種族名は覚えている。私がいた森の集落に住む魔獣達、その他にも西や南、北まだ行った事ない場所の魔獣の種族も覚えている限り思い出していた、だが未だかつてヴァナルガンドと言う種族名は聞いたことがない。
「あん、セイの種族は有名なの?」
「さぁどうかな?僕は僕以外の種族に会った事が無いからな」
希少なのか、無名なのか分からないわね--
「とにかくセイが話せるのはこれだけなのね?」
「そうだな、今のところ話せるのはこれらいだ」
「今のところね・・」
小さくポツリと呟いた。
でもまだ一緒にいるから聞けることは出来そうね
その前に私の方が色々探られそうだけど--こいつの話に上手く乗せられないようにしないと--
そんなことを考え私達は魔樹の森を歩き続けた。
ここ数日、セイは修行に適した場所を探している。
別にどこでもいいのに--私はもとより修行なんてものをしに来たんじゃないので、どうでもいい感じでセイについて行く。
魔樹の森は広い、広大な森が鬱蒼と生い茂って昼間のはずなのに陽の光は所々にしか差していない。
気分が滅入るわ--
適度な魔獣がいて、水源も近くにあり、修行に適した広さがある所なんてこの魔樹の森のどこを探せばそんな都合のいい場所が見つかるのよ、てか昨日からなんも食べてないんですけど!?子供がいた時との落差が大きい気がするわ・・?!
餌になる魔獣いないかな?--
私はセイの後をついて行きながら辺りを見回した。獣、餌、獣、餌--
そうして見てると目の端に一匹のホーンディアが視界に入った。餌だ--
「セイ、ちょっと待っててくれる?」
小声で声を掛ける。彼は歩を止め私が見ているものに気づいたようだ。
「あれは素早いぞ、仕留めるなら・・」
そこまで言って私は彼の言葉を遮った。
「まあ、見てなさいよ。私は凄腕のハンターなんだから」
その場から上の枝に飛び乗り枝を伝って木々を渡っていく、慎重に気配を悟られないように獲物に近づいて行った。
「ほう器用だな、言うだけのことはある」
ホーンディアは耳がいい、そのせいか顔を上げて辺りを見回し何かを警戒しているようだが、姿が見えない、私は木の上から静かに警戒網が解かれるのを待つ、獲物との距離はおよそ三十メートルといったところ、ここで逃げられたらセイがなんて言ってくるか、多分肩を震わせて笑うだろう『さすが凄腕のハンターだな』とか言って馬鹿にしてくるに違いない、そんな事言わせるもんですか!私は軽く呼吸をし獲物の油断を待ち構えた。
ホーンディアが草を食べ始め警戒を解いたその瞬間を狙って一気に距離を詰める、そして真上から獲物に向かって手刀を突き出した、その速さはホーンディアが気づくと同時に私の姿が影を引いた。
「やったわよ〜」
私はセイに向かって手を振る。
やれやれという風にセイは頭を横に振りながらこちらに歩いてくる。
何?なんか不満顔に見えるんだけど--
「いい獲物だなナスカ」
「何急に、あんたが、セイが褒めるなんてなんか変な感じだわ」
「褒めたつもりはないんだが」
あ、そう。そうよねこいつが優しい言葉を掛けるなんてあるわけないんだわ--
「じゃあ何、なんか言いたそうな顔をしてるんだけど?言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「いや、ナスカへの気遣いを忘れていたと思ってな」
包み込むような笑顔を向けてセイは優しく微笑む
ドキッと心臓が鳴った。
そう言えばこいつはたまにイラつくことも言うけど、こんな顔もできるんだった--
私はセイの姿を見つめていた。自分では見ているつもりはなかったでも目が離せなかったのは事実だ、私を真っ直ぐに見つめるセイの瞳、凛とした姿小さな身体に似合わない大人っぽい仕草その全てが私を引き付けた。
「した?・・ナスカ」
「あ・・・あんたまたそんなこと言ってさ、私をからかうの?」
「本当のことを言ったまでだぞ」
「それが余計なお世話よ」
頬の染まりを隠すようにホーンディアを片手に私は元の場所へ足を進めた、その後をにこやかなセイが付いて来ていた。
こいつって時々分からなくなるわ--
本当はナスカの方が迷っていた、このモヤモヤした気持ちはなんだろうと苛立ちにも似たその思いがハッキリしなくてセイに対する言葉が上手く伝えられなかったのだ。
「ナスカ、その姿でいる時の獲物の狩りはあの形なのか?」
セイが私の調理してる様子を見ながらそう言ってきた。
「そうね大体はそんな感じよ、たまに魔法も使うけどそれは囮のようなものね、本命を狙う時は私自身の手でとどめを刺すわ」
「囮が効かなかった場合はどうするんだ?」
「その場合は直接攻撃よ、間合いを取りながら徐々に相手を追い詰めてくわ、私体力には自信あるもの」
「そうか」
セイは肉が焼けるのを見ながら物思いにふけった、何を考えてるのか分からないが今の会話でなにか思うことがあったらしい。
「セイ、焼けたわよ」
「最初に食べるといい、ナスカが取った獲物だ」
「・・そう、なら貰うわね」
調味料を施した肉にかぶりつくとこれまでとは違った美味しさが口の中を満たした。
「ん、これ美味しい。セイが買ってきた調味料凄く良いじゃない、適当に振りかけたけどいい感じに出来たわね」
二口三口と食べ進める。そんな私の姿を見てセイが笑いながら
「適当とは驚いたな《人の姿での買い物は少々不安だったのだが、任せて正解だったな》」
「えっ何?よく聞こえなかったんだけど?」
何でもないと言ったが、中盤から声が小さくて聞こえなかった。それにセイが何かを話したのか気になった。
「適当って言うけど、私だって少しは考えてるのよ。それよりさっきなんて言ったの」
「僕の言った事が気になるのか?」
カァと顔が赤くなる、なにそれ何よその言葉、まるで私があんたの言動をいちいち気にしてるみたいじゃない!
そ、そんな訳ないでしょうよ--
「違うわよ!もういいわよ!それより焼けたわよ!」
「ああ、頂こう」
肉を突き出し私は感情を隠そうと必死だった、何慌ててるのよ、私は別にこいつの事なんか気にしてないんだから、こいつの言う事にいちいち反応したらダメよ。
そう思いつつ私は残りの肉に小さく噛みついた。
「さて食事も終わったな、それじゃあ移動しようか」
セイは後ろ足で砂をかけ火を消していく、私は荷物を肩がけにするとゆっくりと立ち上がった。
「ねぇ、修行の場所って目星はついてるの?」
「ここから一日歩いた所に少し広くなった場所がある、水飲み場もある幸いな事に魔獣は小物ばかりだそこならナスカの修行場として最適だと思ってな」
適当に歩いてたわけじゃなかったのね、こいつ本当に修行場所見つけてたんだ
一体いつの間に--
私達はセイの言う場所に向かって歩き始めた。