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1話目-5部

「あれは何?あんたの魔法?」

「いや、魔法は使ってないよ。重力系の魔法は君達も押し潰してしまうからね、単に魔気をぶつけただけだ」

「魔法じゃなく魔気?闘気をぶつけたって事!?そんな事出来るの?!」

確かに、重力系の魔法は特定の誰かを保護して放つことは出来ない、魔法陣が展開されるとその範囲は全体に及ぶ--

だとしても魔気を放つなんて、普通は出来ることなの!?--

私は魔気についてはいまいち理解が及んでない、ただ何となく力を発する時に気合いみたいなものがそうなのか位にしか思っていない。

それが闘気という魔気の事なのだろう。

「ママ」

顔や全身を泥まみれにした子供が身震いをして小さな獣を呼んだ。

「ああ、何処かで水浴びをしないとな」

ブッと吹き出してしまった。

小さな獣には似合わないその言葉を耳にした途端、私は口を押えて笑いを堪えた。

「ママって・・くっ、うくくく」

「笑うな」

珍しく小さな獣が恥ずかしそうに顔を赤くしこちらを睨みつけていた。その姿を初めて目にし認識した事で更に笑いが込み上げた。

「アハハハ・・だめ!止まらない!・・ハハハハ」

「・・・」

「ママ?」

「何でもない、水のある所へ向かおう」

照れた顔を背け小さな獣は真面目な振りをして言ったが、私にはそれが余計に面白かった。

「ちょ、ちょっと待って・・・」

私を置き去りにその場を去ろうとする二匹を、笑いを堪えて引き留める。

「ねぇ、この子まだ毒水には慣れないんじゃないの?!」

水と言えばここら辺は毒水が多い、その事に思い至った私はそう言葉を紡いだ。

「毒水にも濃いのと薄いのがある、今のこの子なら薄めの毒水で耐えられる」

「今からその薄い毒水を探すのか?」

「いくつか見つけたポイントがあるからそこへ向かう」

ポイント?てか、いつの間に?ーー

私達は元いた場所から少し戻って小さな水場へと足を向けた。

「でもさ、あの状況で喋れるようになるとはね、とっさの事とはいえビックリしたよ」

「いや、喋れるようになったのは数週間前からだ」

は?いやいやいや--

「あんた達が喋ってたの聞いてないけど?」

「まだ言葉足らずだったからむやみに話さずにおいたんだ」

ん?・・・もしかして--

「あんた、ママって言われるの嫌がってたりしてただけなんじゃ?」

「ゥグッ・・」

プッーーあはははは

とまた私は笑ってしまった。

「笑うな」

「かっわいー」

そう言いながら笑いが止まらない私を小さな獣が何とも言えない表情をして、視線をぶつけてくる。ごめんごめんと声を掛けながらも、笑いから抜け出せない。そうこうしていると目的の水場へと到着した。

水辺に着くと獣自ら水の中に入り肉食獣の子供へ大丈夫だと見せてみせた。それを見て肉食獣の子供は水の中へ足を踏み出しそろそろと入って行く。

親と思っているものが安心して見せることで子供もその警戒心を解いていくのだ、だが小さな獣を母だと思っていることに私はまたもや笑いが込上げる。

子供との体格差がありすぎて、小さな獣をママと呼ぶその違和感が何とも面白い。

泥で汚れた足をつけながら肩で笑いをこらえる私を見て

「まだ笑ってるのか」

と、少し呆れ顔の小さな獣は息を漏らした。


肉食獣の子供の親を追ってさらに数週間が経った。だいぶ近くなってきたと言っていたが深い森の中、見えるものは木と葉と地面のみ。私もそれなりに気配は辿れるがあまり離れてるとその気配さえ感じられない。だが、小さな獣は暫くすれば会えると言いその歩みを止めることはない。歩き続けて数時間、不意にお腹が鳴った。

「腹が減ったか?」

「・・ち、違うし!」

そう反論しながらもお腹は鳴る。

「下したか?」

「違〜う!」

だが実はお腹が空いていたのは事実だ。数時間も歩きっぱなしで、喉も渇いて足は棒のようになりつつある、でもそれを言うのは恥ずかしかった。何故かと言うと、小さな獣は何かを感じとっているのか、先程から歩く速度が少し早くなってる気がするのだ、それに子供もそれを何となく感じているのか無言で小さな獣の後を着いてくのみ、だから私はお腹が空いてる事は言いずらかった。

こいつら何を感じてるんだ?--

その時だ

「伏せろ」

「えっ?何?」

小さな獣が警戒した瞬間、一陣の風が吹き荒れた。

ビュオォォォと音を立てて私達の間を吹き抜ける風、私も肉食獣の子供も小さな獣も身体を低くし強風に耐えた。

空には大型のムササビルドが森の上空を翔けて行く、その後を追って中型の子供のムササビルドが数匹飛び去った。

あれも肉食の類だ、見つかってたら餌にされてたのは間違いない。

子供とは言え凶暴さは言うまでもない、大人が相手なら私でも一苦労しそうだった。そして

「出会えたな」

えっ?!--

小さな獣が確信めいた言葉を口にし、その視線の先を追う。

森の奥の片隅で数十頭のパンテラレオンの影を見つけた、まさに肉食獣の子供の親だと思われた。白と赤茶色との混ざった毛並み、オスと思われる超大型の肉食獣の体格は私の十倍以上で綺麗なたてがみを有している。その群れを率いている姿には威厳を模していた。ただ個体数は少なく繁殖も数年に一回あるかないかと言われている。そして単独のオスは長になりきれてない若者《若輩者》と言われてるくらいだ。

だがあれは正しくリーダー格で、群れとしても数の多い類だ。

あの中にこの子の親がいる--

でも近づくには少し、いや、かなり危険だ。

長は多分百戦錬磨に近いだろう、ここから見える限りでも身体中に無数の傷があるあの肉食獣が群れの長に違いない。

どうやって子供を群れに返せるか--

そんなことを思って考えてたのに、小さな獣は何の気なしに数十頭いる群れへと近づいて行ったのだ。

おいおいおい!--

私はとっさに木の影へと隠れ身を潜めた。

あいつやばい!殺される!--

近づく小さな気配に群れの長も気づいたようだ。群れの仲間がリーダーを囲い唸り声を上げる。

「まて・・何用だ、小さなものよ」

仲間を退かせ、その言葉とは裏腹に鋭い眼光をのせて小さな獣を威圧する。

「群れからはぐれた子供を届けに来たよ、多分君の子かな?」

小さな獣はその威圧にも屈せず、まるで川の流れのように流してみせる。

何普通に話してんだあいつ!--

「ほう、我の威圧をものともせぬか・・・お前か、ここ最近妙な気配を漂わせていたのは」

「済まなかったね、君達が警戒していたのは分かっていたけど、僕としても君の子供を返さないとと思っていたから無理矢理でも会う必要があったのさ、でもお陰で会えた」

ニコリと笑う小さな獣の後ろに続いて歩いてきたのは、正に肉食獣の子供だった。自分の何倍もある大きな身体に畏怖することもなく子供はリーダーの足元に近寄る。

「この子供が我の子だと言うのか?」

「この子からは君に似た匂いがある、それに君からはこの子の母親の匂いもする、君は自分の子供の匂いが分からないとは言わないだろう?」

まるで喧嘩を売ってるように聞こえ、私は背筋が凍る思いがした。

「・・母はどうした?」

「ママ」

肉食獣の子供は小さな獣を見てそう口にした。

「彼女は初めての出産に身体が耐えられなかった、弱っているところを中型の獣に襲われてて僕が助けに入った時は息も絶え絶えだったんだ、三位一体の攻撃で僕も不意をつかれてね、でも仇は取れたよ。母親はあそこにいる彼女が埋葬した」

おーい!私を表に出すなー!

肉食獣のリーダーの目が彼女を捉える。

「ひっ」

「なぜお前を母と呼ぶ?」

「暫く一緒に過ごし餌を獲る事も覚えさせてある、甘えるものがいなかったから僕を母と呼んだんだろう」

「餌としては食わなかったのか」

「彼女は母親として誇り高く死んでいった、その尊厳を守った、それ以上の事はしない」

ふっと肉食獣の親は笑った。

「ママ?」

「我の子と同胞の命、そして家族を看取ってくれた事、礼を言うぞ」

小さな獣と肉食獣の親はその意思とともに視線を交わした。

「ほら彼はお父さんだよ、君のパパだ」

「ぱ・・パ・パ?」

肉食獣の子供は顔を上げてその面差しを見た、そして優しく見つめるその瞳に顔を映し出す。親は子供に鼻を近づけると匂いを確かめる。

「確かに母の匂いがするな、面影もある・・我が息子よ」

ベロリと顔を舐められ肉食獣の子供は初めての感触に歓喜した。親そして父というもの、甘えというものに初めての感情を抱いたのだった。

スリスリと父親の足元に擦り寄るその姿は本当の甘えを覚えた瞬間だった。

「感謝する、小さなものよ」

「貴方の奥さんに頼まれたことをした迄ですよ」

「これまでの気配で異様さを感じ戦うことを予期していたのだが、その姿・・いや、みなまで言うまい」

やっぱり戦う気満々だったーーという事は私もそれに付き合って死ねって言ってたのか?

冷や汗が背中をつたい流れた。

「この恩はいずれ返そう、何かあればいつでも力を貸すとな」

「僕は自分の出来ることをしただけ、借りと言うならいつか彼女の力になって欲しい」

こっち見た〜!いや、要らないから!直視しないで!

「変わったやつだ、お前からは圧を感じない不思議だ」

「敵意は初めから無いよ、悪かったね不快な思いをさせて」

「お前はこれからもそのままか?」

「なるべくなら」

どういう意味だ?何かあいつにあるんだろうか?--

二匹の短い言葉のやり取りに私は疑問を覚えた。あいつには超大型にも引けを取らない何かがあるのかと。

「ママ」

「僕はママじゃないよ、これからはお父さんと一緒に生きてくんだ、頑張るんだよ。元気で・・」

小さな獣はいつにもない優しい眼差しを子供に向けた、それは永遠の別れに似たものだったのかも知れない、だが生きていればいつかまた出会える時が来るかもしれないのだ。

「それじゃ僕はこれで」

小さな獣は超大型の肉食獣達に背を向けて歩き出した。ジッと見つめる父親の肉食獣その傍らには子供の肉食獣が寄り添っていた。

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